第250話 幼女、適度を覚えて

 幼女がジェンキンス隊長に抱き抱えられたままスキルを使う。

 いや、もうスキルというより魔法に進化している気がする。

 背筋を走る怖気に近い冷気を帯びた風が枝を撃ちあげていく光景はちょっと地獄だ。そして撃ちあがった枝が落下していく。下に伸びていた蔓を絡ませて落下していく。蔓が引かれて他の木々も同時にへし折れ、落下する枝に巻き込まれていく。後片付けが半端なくおおごとだと言われなくとも理解する。

 ジェンキンス隊長が、『な』と言った。そこで呆然と凍っていた意識が戻ってきた。

 予行演習なく、当日いきなりで対応できたか?

 無理だろう。

「おい、猪だ。壁に突進されても困るぞ」

「げ。幻惑蝶。うっぜ」

「虫は俺が始末する。ケダモノはケダモノが狩ってろ」

 唖然としていた他の奴らも各々に動きだす。

「コレがホンモノってヤツか」

 ついこぼした俺の言葉に「ホンモノ?」と応答があった。ハーブ少年だ。あんまり軽いから忘れてたわ。

「ちょっとデキるんじゃなくておまえ別の種族だろ。とツッコミたくなる才能持ちをそう呼ぶんだよ。ホンモノはひとりいればそばにごちゃっと沸くって言われてるけどなぁ」

「それ、害ちゅ……」

 ぉおおぅ!

 慌てて俺はハーブ少年の口をふさぐ。

「いやいやいや、天より奇跡の高資質を賜ったホンモノだとも。ホンモノ! 食い散らかした後忘れちまった場所をふと覗いたらひろがっているようなもんとは違うんだよ。ひと味もふた味も!」

「ぇえぇ」

 いやぁ、ほら強いバケモノ相手にバケモノっつって喧嘩売るのもアレだしなぁ。うまく付き合えば付き合えたりもするし。

 そういう存在なんだってだけなんだよな。ひとつの集落や小国なら希少過ぎて拒否られるかもだけど。

「アドレンス王国はさ。一応迷宮大国のひとつだったんだ。ハーブ少年が生まれるより前だけどさ。その時分には、ホンモノなんて本当にごろごろいたんだよ。ルチルさんもホンモノさ。ハーブ少年ぐらいの頃には近場の迷宮に警備の目を盗んで潜り込んでさ。階層ボスしばいてるところをジェンキンス隊長がしばき倒したらしいんだ」

 ホンモノをシバけるジェンキンス隊長もホンモノかな?

 ホラ、ホンモノは寄り集まっていく……ん?

 この子はどうなんだろう?

 魔物使いというのは珍しい。ものすっごく珍しいが、ホンモノかといえば、どうなんだろう?

 ぼんやりしているホンモノのお姉ちゃんに振り回される弟君。ちょっと神経質気味に調理の段取りを説明している様子はもしやホンモノって思いもしたけど、さすがにそこまでいないだろ?

「え。神経質?」

「お、口に出てたか。いやぁだってさぁ、攪拌する時は混ぜ斬るように、六回半とか言われたらさ。しかもかかっている力加減でそこまでって止めてたろ」

 あれは神経質だと思う。

「加工中の素材の状態と加工手法は大事なんですよ?」

 うんうん。わかる。戦闘もそうだ。攻めるにしろ、守るにしろ。装備すべき武器防具道具のすべてが大事だ。そして扱う技術も。

 ハーブ少年が言いたいのは技術だろう。

「うまいもん食えたから文句はないさ。今度は俺にも教えてくれるか?」

「僕が説明できることなら」

 照れ少年イイね!

「さて、すこし落ち着いた事ですし、ネアくん、魔力に余裕は?」

 ジェンキンス隊長の穏やかな声に解体してたり、打ち折れた木を茂みからひきずり出していた隊員の動きが止まる。

「え?」

 え?

 もう全然なくて疲れちゃったでイイんだよ。ネアちゃん。空気読んで!

「このくらいならまだまだ余裕ですよ。壁まわりもっと伐採しておきます? それとも道を?」

 何人かの隊員(班長クラス)が固まる。

「そうだねぇ。集合地点は広く安全な方がいいねぇ。壁まわりをすこしばかり伐採してくれるかな?」

 ジェンキンス隊長ぉおおおおおおお!!!

 待っって!

 人呼びましょ!

 冒険者ギルド!

 視線が合いジェンキンス隊長が穏やかな笑みをむけてきた。背筋が凍るようなヤツだ。

 住民が安心して生活できるため、強く頼りになる警備隊がいわゆる標語である。

 つまり、ネアちゃんのようなホンモノに動じる事なく、ホンモノが引き起こす『うっかり』『なんとなく』『気まぐれで』をたいしたことでもないように処理することを我ら警備隊員全員が望まれているのである。

 イゾルデはなんだかんだでホンモノ枠だから特例措置である。

 その日、帰れた者は少ない。

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