第245話 弟くんの豆知識

 弟くんは意外と交友関係が広いようです。その広さにちょっと引いてる私、ネア・マーカスはどちらかといえば人見知りです。

 初対面の方に声かけられたら普通に会話できますが、それってその場限りと思っている部分もあって次も覚えているとは限らないんですが、迷宮関連の資料のおかげで覚えている扱いにできているというズルっこぶりですよ。はい。もちろんそういったズルが弟くんにないとは限らないんですが、あるのと活用できるのは別件だとネアは思います。

 そう、上手に才能を活用しているのはたぶん弟くんの方でしょう。

 私は私なりに足掻くしかないんですが、とりあえずの危機が去ったはずなので『面倒くさい』がちょっと勝ってます。苦手意識ってなかなか消えません。ええ。人間苦手ですよ。

 いつまでも面倒くさいと苦手視していないで迷宮を抜けられないように。それでいて人を誘い込めるように育成していかないといけないので気を抜いている場合ではないとは考えてはいるんですけどね。

 こびりついた苦手は隅に粘りつく水垢のように剥がれ難いです。

「迷宮があるから治安が悪くなるんですかねぇ」

「え? 知らない者同士が知らない場所でかち合うから警戒しあうし、お互いまずは身内の生活安定を重視した結果じゃない? 僕はまず、冒険者ギルドと役所は求人や依頼出してるし、採用試験受けるなら宿泊施設の斡旋が人数制限有りだけどあることを知り合った大人に説明しているよ。食事はつかないけど、同伴者二名まではいいらしいし」

 おおう?

 特に考えなくこぼした言葉への反応激しいぞ。弟くんよ。

「冒険者ギルドなら依頼があるし、採用試験を受けるなら持っている技能記録が役所に残るし、役所仕事に適性なくても他のギルド、紹介してくれるらしいよ?」

 詳しいね。弟くんよ。

 確かにまっすぐに所属ギルドに顔を出して縁をゲットしようって冒険者はなんとか食い扶持を斡旋されやすいけれど食いつめちゃうタイプはろくに顔繋ぎもしないってタガネさんがぼやいてた気がする。だからなのか、タガネさんは各町のギルドには顔を出すことを教えてくれていた。岩山の国とか顔出す必要性に危険が伴う場所は止められていたけど。自衛できるって思われたら、「ちゃんと挨拶行こう」といってくれそうです。

「警備隊志望だと受け入れ数それなりにあるんだって。先任者が指導役につくから」

 ぴっぴっと弟くんの指が揺れます。ある程度情報を仕入れてから知り合った大人に声をかけて提案しているらしいです。……ちょっと子供らしくない子供にもほどがあるのでは?

「逆に役所仕事は機密書類とかもあるらしくて人手は欲しいのに教育に手がさけないし、人柄の確認や他国からの破壊工作実行者や調査員じゃないかの確認に時間がかかるんだってー」

 あー、この国、迷宮核を奪われている国だもんねぇ。

「教会の孤児や岩山の国で奴隷を買って国に連れ帰ってから解放してそのまま秘書や事務員として採用してるんだって。恩義で縛るいい手段だよね。裏切り難い」

 うっく!

 情報量が多いっ!

 奴隷は禁止だけど、利用はするんだ? そんなものはそんなものか。

「今はどこも手がまわっていないけれどね、人手は必要なんだ。ちゃんと手がまわる頃まで犯罪に手を出さないようにうまく生きて欲しいよね」

 あー、それはそうですね。

 程度はありますが罪には罰があります。

 生きるための罪でも容赦ない罰というものは多いです。例えば、装備ゼロで迷宮に放り込まれて迷宮核に触れて無事に帰ってきたら無罪放免とかそんな感じらしいです。

 迷宮関係の天職持ちには罰にもなんにもならない奴ですよ。

 窃盗したらそれがなんであっても二回目には指を落として『窃盗犯』を示す焼印を手の甲に入れられます。教会のステータスカードにも所属ギルドのカードにも記載されますよ。

 迷宮天職持ちなら天職ふせて迷宮追放刑になりたい人も多そうですよ。


【天職がそうであっても迷宮主との相性もあります】


 あ。そうなんですか?


【迷宮同士で敵対していることもありますから】


 ふぅん。

「姉さん!」

 お?

「井戸、ついたよ?」

 弟くんに胡乱な眼差しをむけられました。

「あら、ネアじゃない。またぼんやりしてたの?」

 ティカちゃん!

 べ、別にぼんやりしてたわけじゃなくてちょっと天職の声さんに集中……、説明できないからぼんやりさん判定されちゃう。ん? 私のぼんやり認定ってもしかして天職の声さんのせい?


【濡れ衣ですね】


 ええ?

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