第238話 日常業務と疑問

 資料を本の形でイメージすると魔力を流しやすいなぁと感じている迷宮管理者ネアです。

『ティクサー薬草園』に魔力を流し次の資料本『蒼鱗樹海』に手を伸ばす。影響範囲がアドレンス王国全体を覆うカタチのため、資料も分厚いことになってます。

『蒼鱗樹海』

 下り型迷宮。

 現在三階層まで開示。

 最深階層は七階層。

 主要採取物『加工素材』

 主要魔物『獣』『虫』『蛇』

 主体属性特になし。

 一階層『地表同期森林型』

 二階層『天然洞窟型』

 三階層『水源地洞窟型』

 四階層『湿地樹林型』

 五階層『湿地型』

 六階層『冬冷森林型』

 七階層『森林型』

 一階層は気候変化を外の四季に合わせた同期型。

 地上の町の位置や施設も誤差百年で再現してあるので以前の迷宮『大森林』の影響も強いらしいです。

 四季という季節のメリハリは私が欲しかったのでそのまま採用です。夏は暑く、冬は寒くて雪が降るのです。

 今は『ティクサー薬草園』があるので餓死者と凍死者は出ないでしょう。たぶん。

 アドレンス王国が国をあげて調査隊を出しているのですが、現在のところ王都側の入り口などは葛の処理すら間に合わず私が焼いたフロアまでが行動範囲です。むしろ維持できるのかが心配ですよ。

 マコモお母さんやイゾルデさんクラスの戦力があれば、単独調査でもう少し進めていけそうな気もするんですが突出先行は現在採用していないようです。

 迷宮の一番の難易度が葛になっているのがちょっとアレですね。とも思いますが、草原の国の『回遊海原』でも火塩草駆除が急務だったのでそういうものかも知れません。

 このままだと『葛原の国』とか呼ばれそうですね。アドレンス王国。

『回遊海原』の階層エリアの広さと『蒼鱗樹海』の階層エリアの広さは比べるのがひどいとは思うんですけどね。

『蒼鱗樹海』二フロアか三フロアが『回遊海原』の階層エリアの広さと等しいくらいというのが私の体感です。

『ティクサー薬草園』はひと階層『蒼鱗樹海』のひとフロアくらいもないですね。拡張を時々行っているのでいつかは到達するかもですが。

 広い分魔力濃度が薄くなりがちなところは進行中フロア付近に魔力を集中することで誤魔化しているのが現状です。その分、外との同期率を高くすることで迷宮自体に人が集中することを避けているのです。迷宮の外、人里近くに魔物の出没が増えれば迷宮探索もですが、人里防衛に戦闘可能人材を割かざるをえないわけです。

 危険であると同時に食肉素材である魔物討伐は重要で、迷宮はその稼げた時間で魔力を迷宮に回せて、栄養をつけた侵入者はつけていない侵入者より多くの魔力を迷宮に残していってくれる。時間経過の魔力蓄積より侵入者の滞在魔力の発散による魔力吸収の方が迷宮にとっては有益なのです。

 配備された魔物も成長していきますしね。

 単独で進める戦力を持つ人は多いと思います。

 たぶん、アドレンス王国は迷宮を失いたくない。新しく生まれた迷宮を警戒もしている。だから戦力投入をしていないのかなぁとも思うんですよね。

 迷宮攻略進むかもしれませんね。焼き払えば進める。葛は減らせる。ということがおそらく理解されたでしょうから。


【焼き払えばいいとわかったとして。実行できる実力者は少ないでしょう】


「えー」

 そのくらいはがんばってほしい。


【焼き払えば大きな魔力喪失で魔法使いは行動不能になるでしょう。それを保護しつつ進むか、使い捨てるかで進行速度は変わるでしょうが、『蒼鱗樹海』は侵略性を認められない共存可能迷宮と現在判断されている事もあり、慎重論が優勢なのでしょう】


 つまり、迷宮を育てながら侵入者も育てていく方向で指示を出す必要があるということだ。

 私は、ティクサー。厳密には親しい人達の基本的安全が確保できればいいのである。そのためには一番の外敵になりそうな存在は他の迷宮主や迷宮に影響力を持つ存在じゃないかと考えている。

 例えば、迷宮神子を操って迷宮を混乱させた『天上回廊』の件のように。

 あれ。

 つまり現状帝国貴族だったはずのタイタス氏、まだ生存されているらしいから絶対いつか殴る。

 わかる範囲で諸悪の根源っぽいし。


【迷宮核は大きな力です。彼はそれを複数保持している可能性があります】


 ふぅん。

 でも、各迷宮主ってかなり毒というか癖が強いと思うんですよね。みんなは私を立ててくれて慕ってくれていると思うんですけど、彼もそうなんでしょうかね?


【判りかねます。彼は迷宮管理者ではないので貴女ほどの束縛力はないと考えますが】


 え!?

 私束縛しているつもりはありませんよ!?

 あんまりのショックにぎゅっとクッションを抑えると妙な反動がありましたよ?

『アルジ、ドウシタ?』

 エリアボス蛇。硬い反動だと思ったらいつの間にクッションと入れ替わったの? 視線を彷徨わせるとちょっとはなれた場所に座布団敷かれてその上にちょんっと鎮座していますね。私のエリアボス蛇っぽいクッションぐるみ。

「そろそろ寝転ぶより座り姿勢にしようかなって」

 見なかったことにした。

『ワカッタ』

 にゅるりと長座布団を背もたれクッションになるようにエリアボス蛇が椅子になってくれました。

 うん。エリアボス蛇の愛が重い。

 あれ?

 むしろ束縛されてんの私じゃね?

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