第231話 果実摘み
特に意味のない会話。無邪気な妹を可愛がりながら転がり、適当にプチスライムとも戯れ採取を楽しむネア・マーカスです。
葛の根塊を採取する。『分解』『抽出』『粉化』で『葛粉』が採れる。
小さな紫の百合のような花を摘んで弟くんが「カタカゴ。葛と同じように粉が採れるし、茎や葉っぱを天ぷらにしてもおいしい」と教えてくれます。
「あっちにはブルーベリーがある」
ブルーベリー?
ベリーってことは苺。
「藍果とも言うの。良いお酒ができるのよ。昔あった『大森林』では浅い部分でよく採れたのよ」
マコモお母さんが一粒もいで味見をしています。
「採取物というよりは風景の一部みたいなものかしらね。含まれている魔力は薄いわ」
弟くんによると眼精疲労回復を促すらしいのでグレックお父さんがいそいそと摘んでいます。最近、書類作業が増えて大変だそうですよ。
弟くんとマコモお母さんの蘊蓄。
むしったブルーベリーの果汁で染まった指先や服。マオちゃんかわいい。
撫でながら『清浄』をかけてきれいにしちゃう。
さらさらふわふわの髪もふわふわもふもふの毛並みのしっぽもサイコーだ。照れたようにぱぁって笑うマオちゃん超かわいい。
スリスリしちゃうぞ。スリスリ。
「姉さん、ウチにいるのとあんまり変わらなくない?」
弟くんにいきなり言われましたよ。どーしましたか?
「そうかもしれません。でも私は嬉しいです。マコモお母さんがいてグレックお父さんが休みをもぎ取ってくれて、マオちゃんと弟くんが五体満足に健やかに過ごせるこの時間がとても嬉しいのです」
だって、マコモお母さんもグレックお父さんもついこないだまで役場から薬草園まで駆けることもできなかったんですよ。マコモお母さんも小さな魔法しか使えなかったんです。魔力はあるので荷物袋のような魔道具は作れましたけど。
マコモお母さんの負傷の多くは私を庇ったことによる負傷でした。
それがまるでなかったことのようにマコモお母さんもグレックお父さんも元気なのです。これは知らない弟くんにはわからないことですけど。
「一年前、マコモお母さんが街道無視して駆け回れると聞けば、どんな奇跡かと思いますが、今、ただの現実ですね」
「あら、暴れつる草みたいなお母さんはおいや?」
「マコモお母さんはマコモお母さんです。大好きですよ」
「ありがとう。お母さんもネアが大好きですよ。ブルーベリーを甘く煮てジャムを作りましょうね。お茶に入れてもいいでしょうし」
納得しているような、少し不思議そうにも見える不思議な表情で「ふぅん」と弟くんはこぼします。
そんな弟くんに頓着することなく、マコモお母さんは艶やかに微笑んで見せます。
「ネア、マオ、ハーブ。たくさんブルーベリーを摘んでおいてね。お母さん、お肉を捕まえてくるから」
そう、言ってウズラ狩りに駆けていくマコモお母さんを見送ることになりました。あ、グレックお父さんは子守り担当だそうです。
「ブルーベリー摘みしましょうね。マオちゃん」
そして、弟くんはブルーベリーを摘む。プチスライムがジャンプしてブルーベリーを食べる。弟くんがブルーベリーを摘む。プチスライムがジャンプしてブルーベリーを食べる。をエンドレスしてました。
驚きなことにわざとではないそうです。
マオちゃんも真似してブルーベリーをプチスライムにあげていました。
しょーがないですね。お持ち帰り用はちゃんとお姉ちゃんが摘んでおきますよ。
「いっしょに過ごしたいけど、今は夏なのであっついのです。私は暑いのが苦手なんですよ」
「夏は暑いくらいがいいと思うけど?」
そう!
「夏ですからね!」
私は苦手ですが、夏は暑いものだと思ってるんです。
苦手でも、それでも欲しい季節の変化。
でも、暑いの苦手ぇえ。
「ええっと、明日はマオちゃん連れて変わりゆく町の探検に行く?」
変わりゆく町のたんけん?
「探検はかまわないが工事中のところはあまり近寄らないようにな。荒い人足も多いから」
グレックお父さんがスッと口を挟みます。建築とか道の整備とか土木系の依頼はそっち系のスキルギフトがあるか、一定の体力が認められないと依頼受けられないんですよね。報酬は清掃依頼より高い感じで。
「はーい。夕食時の報告楽しみにしていて。お父さん」
弟くんにそう言われてグレックお父さんは頷きます。
んー?
報告?
「その日あったことの共有だよ。こんなことあったよって。よくわからない変なものがあったこととかをね、よくわからないものって僕が知らないだけで、『たぶんこういうものだろう』ってお父さんが教えてくれたりするんだよ」
弟くん、鑑定あるのに?
でも、それ。
「つまり、私はマオちゃんの可愛さを報告すればいいのね」
よし。いくらでも話せるぞ。
「マオはねーねがどこでへばったか報告だね」
なにそれヒドイ。へばらないもん。たぶん。
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