第230話 特別
姉様は魔力が高い。総量も純度も高い。
わたしの世界はいつだって姉様の魔力に包まれている。
じんわりと物の表面を滑って拡がっていたそれが周囲に溶けたのはつい最近。
姉様の魔力は感じるけれど、感じ取れ方が少し変わってしまった。
母様はゆるく微笑んで「黙ってらっしゃいね」とおっしゃいます。
わたしは姉様を傷つけることがないようにと魔力の扱い、爪の取り扱い時折りむず痒くなる牙の手入れを母様に学びます。
「貴女は魔力に恵まれているのですから、その魔力に蝕まれることなく、扱う手段を身につけねばなりませんよ」
姉様は? と聞いたわたしに母様は「あの子は特別なのです。貴女とは違います」とおっしゃいました。
わたしは特別な子ではありません。
だから、わたしは姉様に好かれていなければいけないのです。
母様は姉様の魔力の雰囲気が変わった頃からなにかが違います。増えた兄様にざわざわしている間に違和感はわからなくなりました。
兄様は姉様と同じでケモノの血の混じらないヒトの子です。
姉様と同じ。
同じ形の方が好き?
姉様にいらないってされたらきっと母様もわたしをいらないになる。特別なのは姉様だから。
父様は、母様がそういう人だと知っている。
父様は誰よりも母様を優先する。
姉様は、あまりまわりの感情の機微に頓着しない。
わかるのにわかってると繋がっていない姉様は時に母様よりわからない。
まわりに魔力を溶け込ませ過ぎて当人の魔力の高さを目立たせないくらいの、そう……バケモノだ。だから、畏怖する。どこまでも従属することしか考えられなくなるのに、姉様は、姉様の気質がそれを認めてくれないことがわかってしまう。
そうふるまえば、姉様はかなしむだろう。そして母様は姉様の心がかげることを許しはしないだろう。
わたしの居場所はなくなる。
「大丈夫だよ。姉さんは君が大好きだから」
そう、髪と尻尾を梳かして、おいしいおやつをくれるのはわたしが排除すべきか悩んでしまった相手。
強い魔物を連れたそれだけの強い存在。本人強くは見えないんですが。
姉様のいない十日あまりの日々は彼との時間。
父様はまわりはじめた人事に忙しく、母様もわたしや彼にはあまり興味は持たずに周囲を確認にまわってらっしゃいます。
彼は嬉々として家の家事をこなしながらよく言葉をかけてくれます。
「マオちゃんはどうして幼くふるまうの?」
獣人特に孤族の成長は魔力の充足段階に依存しがちです。わたしは姉様の魔力で成長しています。
不思議そうに問う彼にわたしは困ります。
「姉様の反応がわからないから」
姉様は可愛がってくれます。
でも、透明な壁はきっとわたしを簡単に切り捨ててしまう。変わらずかまってくれて愛情をくれて、それでも本質的には切り捨てられてしまったならわたしは困ります。
姉様は、それを無自覚に行うでしょう。
母様の愛も父様の庇護愛も姉様はどこかうっすらと流してしまっている。それが母様の愛をより狂わせる。
「マオは姉様が遠くにいってしまいそうでこわい」
そう。いつだって。
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