第226話 とりあえず問題の箱を横におく
「ぼったくりめぇええええ」
などと罵倒を浴びたので。
「迷惑料込みでのお題となっておりまーす。腸詰はドロップ現地で銀貨一枚でしたからね。あと、薬草炒めもちゃんと迷宮採取薬草ですよ」
説明してみたネア・マーカスです。
外で採れる薬草と中で採れる薬草は等級が違うんだそうです。
低階層ではあんまり変わらないそうですが、『天上回廊』はかなりの深層区画に採取場所を設置していたため希少薬草ざっくざくだったんですよ。忖度サービスかもしれませんが。
薬草炒め(大量)をつくった時、弟くんが「僕はコレ食べられない」と言っていたのが印象的です。確かにちょっと苦かったですが。子供舌ですからしかたないですね。
というわけで、罰ゲームも含めてのこの場ですから現物処理ですよ。
「うん? ネアくん他のメニューも一通り貰おうか」
銀貨一枚追加されました。お釣りは不要だそうです。気前いいですね。お髭のおじさま。
おじさまに釣られたのかそれなりに薬草炒めが売れました。
「なぁ、嬢ちゃん、食った後にピリピリしやがるんだが、なんの薬草だ?」
「食用可だったはずですよ? 『天上回廊』で採取したものが主体だったと思います」
いっぱい採れたし荷物袋鑑定は『薬草』だったし。
「身体に害はないですよ。ちょっと苦くて『身体欠損回復』効果がついてるだけの薬草炒めです。それ、出しちゃったんだ。姉さん」
は?
急に背後から現れて何言ってんの?
「それで、『僕は食べられない』だったの!? それは効果を教えておいてよぉおお」
ひーどーいー。
「まさか、ネア姉さんがその料理としても薬としても失敗している物体を売るなんて思わなかったから」
ひーどーいー。
「ちゃんと食べられるもん!」
焦げてもないし!
教えてくれてもよかったじゃない。鑑定持ってて狡い。
「小銀貨一枚で欠損回復……」
「あ、なんか朝の訓練の打ち身がもうわからねぇ」
雑音が聞こえますね。
弟くんがしかたないって感じでため息ついて見せてるのがちょっとイラッとしますよう。
「弟くんが酷かったな。お姉ちゃんはもうちょっと抑えてやんな」
警備隊員のおにーさんが棒読みでそんなことを言いますよ。
二人してちょっと不貞腐れているのが次第に不思議な気持ちになります。
「ごめん。姉さん、僕が気がついた時に説明した方が良かったね」
それはそれでたぶん、私気に入らないんだろうな。
弟くんに気を回させている気がしてはいる。
うん。感情処理が難しいんだ。
「んー。うーん。たぶん、言われ方がやだったんだと思う」
とりあえず、視線を合わせる。たぶんお互いにこの場はおさめようという方向でいいかな? たぶん、ちゃんと話し合いしないと拗れる奴だけど、うん。気になる点もあるからうっかり忘れないようにしなきゃ。
「ごめんね。悪いのはうちの台所ひっくり返した挙句食い荒らした存在が悪かったのに」
警備隊に通報するにも本人が警備隊員の一員だし。
「ハーブくんがんばって作ってたのに」
これはかわりにお姉ちゃん頑張るところ?
家族で食べるお弁当だし?
「ダメになってちょっと怒ってたかも。姉さんは悪くないよ。だからさ、妙な頑張りは見せないでいいからね」
妙な頑張り!?
「お芋揚げる時、一枚一枚優しく滑り込ませてね。って頼んだ時に三枚目でばさっと入れたことを僕は覚えている」
ああ、油の温度が下がりすぎるって言うから火力上げて下がらないようにしたら火が出て、あれはびっくりした。
弟くんが猪の毛皮を鍋の上にばさっと被せて鎮火させたんだよね。かまどの火はトカゲ氏が消してたみたい。
あれから台所に行くとじっと見張られている気がして居心地が悪くなったんだよね。
あ、うん。大雑把が過ぎましたね。
「お弁当とお夕飯用の料理の余り、有料で提供して警備隊員の人たちが賠償罰則をイゾルデさんに課すんだって。おねーさんたちとコットさんに値段決めてもらうから、その値段で会計お願いしてもいい?」
最初にいた警備隊員の人たちの一部が入れ替わっていますね。無料お昼タイムは四回に分散されているからですね。
「うわ! イゾルデ、またなんかやらかしたのかよ!」
また。なんですね。
「え。先輩、なんで独身寮に!? まさかあのヒョロ役人に愛想尽かし……」
「は?」
「すみません!」
厨房に集まっているの奥様方のひとりは警備隊員のひとりでもあったらしいです。
イゾルデさんの罪状がツァバスさんによって説明されイゾルデさんが罵倒されてます。さりげなくお髭のおじさまにお耳塞がれました。弟くんもおねーさん奥様にお耳塞がれてますよ。
身体欠損回復薬草炒めはもうありませんしだしません。
猪の腸詰三分の一で銀貨一枚なら出せます。
「昼メシには高い!」
と叫ばれました。
なるほど、売れません。
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