第225話 罰ゲームは連帯責任


 警備隊兵士独身寮の厨房はひろくていろんな設備や作業する場所に余裕を持って作られている。時には非常時の炊き出しにも耐えられるようにだそうだ。

 そんな場所で近所の奥様方と料理番コットさんに慰められながらお昼ごはんを頂いているマーカス姉弟です。

 食堂では連帯責任で独身寮居住者の本日の無料昼食は無しであるという看板を持って立たされているのは今回の盗食い犯のイゾルデさんです。

 言い訳は「民家に魔物がいたから」でしたがうちのトカゲ氏はちゃんと許可を得て住んでいるんですよ。そのあたりはグレックお父さんが抜かりなく処理してましたし、弟くんはご近所の奥様方と良好な友好関係を結んでいるらしく、ご近所の奥様方はほぼ、トカゲ氏を有益なペットと認識済みでした。

 ……思考調整したのか。このトカゲ氏。とも思ったのですが、どうも弟くんの人心掌握能力が高いっぽいんですよね。

「僕が朝からつくっていた明日のお弁当用のおかずでした。荷物袋に入れずに味を浸ませてて。カシリも驚いたようですけど、ちゃんと火を消してくれたみたいで火事をだしてご迷惑をおかけせずにすみました」

 こう、奥様方の目がイゾルデさんを「子供が頑張った成果を!」という眼差しでみつめています。

 昼の無料食がなくなった衝撃にイゾルデさんを睨む独身寮の皆様。

 イゾルデさん、胸を張って「なかなかに美味かったぞ。芋の塩具合がまた絶品で」などと言って煽ってどうするんですか?

 ちなみに奥様方がここにいる理由は弟くんが朝から用意していた料理と昼から作る予定だった料理を作る作業を手伝ってくれるためでした。

 私?

 私は環境調整要員ですよ。手伝うと言えば、弟くんが「ネア姉さんには独身寮のみなさんにお昼ごはん販売しておいて」とお願いされました。メニューが猪の腸詰なので実はきっちり怒ってるのかな?

「あら、『豊穣牧場』の食材なのね」

「はい。家族そろって迷宮探索ですから!」

 パッと明るい声。

「僕ができることとしてお弁当準備したくて」

 奥様方が「そうなのねー」とほのぼのしています。

 迷惑をかけることを嫌がる弟くんに涼しい厨房での調理であり、それぞれが自分の家で食べる夕食も便乗作成するから気にしないでと説得していました。

 茄子の挽き肉炒めをコットさんがわけてくれたパンに挟んでもぐもぐし終わりましたよ。芋の揚げ物は奥様方がお味見なさいました。「コレ、うちの旦那好きだわ」「ウチも好みそう」「この薄いのお酒がすすみそう。存在を教えちゃいけない奴かも」

 私も食べたかったです。

 さて、とりあえず食べ終わったのでまな板とナイフ。それと盛りつけ用のお皿を準備してもらいます。

「こちらで昼食販売をする」

 スッと横に立ったツァバスさんがよく通る声で宣言なさいましたよ。一気に視線を集めすぎるとこわいですね!

「い、猪の腸詰一皿銀貨一枚です」

 一皿に猪の腸詰三分の一ですよ。

 周囲が静かになりました。

「ネアちゃん、もうひと声安い物を」

「イゾルデ、おまえのせいだ奢れ」

「銀貨一枚、一皿銀貨一枚、出せない金額じゃない、しかし節約中ぅ!」

 それぞれに声がダダ漏れです。

「『豊穣牧場』の上質小麦粉で作成された白パン。そして、同迷宮で獲れた山鳥のもも肉の塩ダレ焼きを添えて。小銀貨五枚。五皿限定」

 酒場で買った白パンの在庫が少ないんだよね。

「ネアくん」

 お髭のおじさまに声をかけられました。

「銀貨三枚、一本くれたまえ」

 おお!

「どうぞ」

 湯気のたつ猪の腸詰(焼きたて)をお皿にのせ、差し出します。蕎麦粉のクレープに焼き魚フレークを包んだものも添えておきます。サービスですよ。

「第一号お客さんのおまけです」

 蕎麦粉のクレープは学都でアッファスお兄ちゃんが焼いてくれたものです。非常用のお弁当にって。

「小銀貨一枚、猪の腸詰乱切りのカケラと薬草炒めのクレープ包み」

 もう一種類増やしてみる。

 身体にはいいけど、ちょっと苦い薬草炒めですよ。



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