第224話 ハーブくんとお昼

 お昼前に自宅に帰りつきぐったりのネア・マーカスです。

 商業ギルドにも冒険者ギルドにも買取りはしてもらったので所持金は増えました。お家のなかが美味しそうな匂いで充満していて地獄です。

 弟くんが明日のお弁当をつくっているそうです。

 つまみ食いは不許可だそうですよ。こんなにいい匂いさせてるのに悪魔です。蕎麦粉クッキー美味しかったので匂いだけじゃないはずです。

「ぇえ。十歳からの納税対応ってキツイなぁ。それだけ稼いでいるからかもしれないけど、きびしいなぁ」

 雑談ネタは午前中の私の愚痴ですよ。

 弟くんは七歳児とは思えない要領の良さで調理をすすめています。ただかまどの火力調整は苦手らしくトカゲ氏にお任せしているようですね。薄くスライスした芋を食用油(迷宮産)で揚げていく。お芋って油とすっごく相性いいんですよね。知ってます。知ってるんですよ。油きり用の台にこんがり揚がったお芋をひろげ、椅子の上に立って高めの位置から塩をまぶす。椅子の上に不安定に立つ様子はちょっと不安を誘います。料理するなら大人がいたほうがいいですよね? せめてちゃんとした踏み台。

 ああ、それにしてもつまみ食い禁止がつらいと思います。

 適当なサイズで乱切りされた芋も油の中に投入されました。一緒に弟くんも揚がりにいかないでね。と不安にかられます。

 しゅわしゅわぷかりとお芋が揚がっていく。

 お芋の後は白い粉をかぶったなんとなく正体不明になったモノを揚げるらしいです。全部揚がってからならすこしならいいとは言われているんですよ。

「ネア姉さん、油に清浄かけることってできる?」

 そりゃあもう、できますとも!

「キレイな油になあれ」

 高温の油を高温のままに美しく戻します。

 落ちていく塊が油の中を泳ぎながら小さな気泡を浮かべていますね。

「あんまり近いとあぶないから。ちょっとはなれて」

 不安になってるお姉ちゃんに向かって弟くんが注意してきます。おまえもです。

 白い粉には乾燥させた香草が混ぜられていたらしくおなかを刺激するいい香りが広がります。

「ネア姉さんが家を涼しくしてくれるから夏の揚げ物って暴挙に出れるよね」

 暴挙?

 暴挙なの?

「高温の油は熱いから。暑い時に熱いことしてると体力奪われるからさ」

 あ。はい。理解しました。

「最適な引き揚げタイミングがわかるってほんと鑑定便利。カシリ、ひとつならつまみ食いしていいから少し引き揚げしておいて」

 え。狡い。トカゲ氏が狡い。

「ネア姉さん、お昼ごはん食べるでしょ?」

 そう言った弟くんは薄いお芋と乱切りお芋と茄子の挽き肉炒めをお皿に盛りつけてくれました。

「今、揚げてる兎肉の唐揚げと芋以外の野菜の揚げ物も味見してくれると嬉しいな」

 つまみ食い禁止でも許可ある味見はいいらしいです。

「今ならお皿も食べられると思う」

「お皿は食べちゃだめでしょ」

 弟くんが笑ってツッコミをくれる。

 だってぇ。おなか、すい……。

「こっちは食べていいよ」

 ん?

「ハーブくんは?」

 置いてあるお皿ひとつなんだけど?

 おでかけしてるマコモお母さんとマオちゃんはしかたないけど、ハーブくん、ここに今いるよね?

 お昼、だよね?

「え? ああ、今まだ料理中だから」

 ん?

「朝からずっと作ってたんだよね?」

 出掛ける時にグレックお父さんとマコモお母さん、マオちゃんにお弁当渡してたの知ってるんだから。

「体が小さいと時間がかかるから」

 つまり、ずっと作業していたんだよね?

「油、火からおろして一緒にお昼ごはんにしよ」

 それとも、二人きり向かいあわせで私と食べるのは嫌ですか?

 弟くんが返事しようとした時、台所の方からトカゲ氏の咆哮と物が落ちるがしゃん! という音が響いた。

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