第221話 夜は寝落ち。夢はみない。

 一日、雑事をこなしてゆっくり休息をとって明後日は家族で『ティクサー薬草園』二階層にピクニックが楽しみでしかたがないネアです。

 疲れていたのか夜はすとんと寝落ちました。

 つまり。

 迷宮管理空間にいます。

 ちゃんと寝ているんですけどね。


【収集物の整理はするべきかと】


 そうですね。

 今回の行動先は『蒼鱗樹海』

 荷物袋がつながっている倉庫は『蒼鱗樹海』のエリアボス蛇の管理下です。分類整理はしてくれているので私は確認しておくだけ。というやつです。

 猪の腸詰が表記『∞』になってるんですが?

 え。『蒼鱗樹海』の物は一度入手後はすべて『∞』?

 管理者特典ですかね?

 価値観が一気に薄れましたね。銀貨一枚の。

 こうやって金銭感覚が狂っていくんでしょうね。元々いわゆる『普通』からずれている気はしていたんですが。

 この管理空間は現実とはすこし違うらしく、私が認識を変えてしまえば簡単に形状表示を変えてしまいます。

 おそらく蓄積された情報自体には変化がないため、形態はすごくあやふやなんだと思います。

 つまり、『物』の情報を一枚の『カード』に。と思えばカードに変わります。

 猪の『魔物』が描かれた『カード』薄っぺらい絵札。その二つ折りのカードを中には簡易情報が。



 突進イノシシ

 汎用魔物。大陸内どこにでもいる。

 肉と毛皮がとれる。

 ドロップギフト迷宮による。『頑強』『突進』が多め。

 雑食のため、食事内容で味が変わる。



 食べているものが変われば個体差は出そうですね。

 カードの上に選択肢がポップします。アレです。


 迷宮を支配しますか?


 はい

 いいえ


 と浮かんでくるお気楽掲示です。ちょっとイラッとする奴ですよね。今回は内容が違います。『蒼鱗樹海』は既に支配済みですからね。



 進化先を選びますか?

 二階層以降に反映されます。


『黒猪』

『赤猪』

『青猪』

『黄猪』

『白猪』



 ……どこの五行ですか? 注目していると浮かび上がってくる情報を見るに『黒猪』は水属性で『赤猪』は火属性、『青猪』は地属性で、『白猪』が風属性。『黄猪』は……物理特攻……。

 いや? なんかおかしく、ない?

 つい見た瞬間後回しにしたよ?

『色猪』に進化すると群をつくってボスを一頭選出するらしいです。そしてその個体が生き延びれば生き延びるほど、強くなって迷宮内の縄張り内を管理していくそうです。つまり、迷宮核にとっては迷宮内属性方向性決定の有用なお手伝い魔物のようです。『蒼鱗樹海』ちゃんから忖度じみたお問い合わせみたいな感じかな? お任せだけど、意向は汲みたいみたいな。

『青猪』と『黄猪』ですね。『青猪』の食の好みは『甘めの果実』に。『黄猪』の食の好みは『根塊』に。

 食べ物の好みの方向性だけ決めてあとは『蒼鱗樹海』ちゃんにお任せです。

『黄猪』ちゃんは葛と芋がお好みの子になります。

 彼等は食べるし、自分たちが食べる好物を育てる傾向がある生態だとカードにチラッと記載されていました。後で気がついたんですけどね。

 芋は育てていいけど、葛は控えめにお願いしたい。

 この『青猪』が三階層の階層ボスに着任し、その個体の毛皮は毛皮というより青い鱗状の装甲に覆われたちょっとした特攻装甲戦車もどきに成長することを私は知らなかったですよ。もふもふ候補がツルピカに!

 私、『階層ボス。訓練、エリアボス蛇ノ仕事!』なんて後輩の面倒をみるエリアボス蛇かわいいなぁって呑気にしてただけですから。

 秋の期には『青猪』も『黄猪』も群を構築し、そのリーダーが分体をつくることが可能なほどに格をあげる。もしくは群内での競争で倒されてもボスの交代は可能な状況まで持っていく所存のようです。もしかしてスパルタですか? エリアボス蛇。

『猪』のカードホルダーを眺めて思います。

 この中には一体、一体に一枚の専用カードが入っています。見ようと思えば個体詳細も閲覧できるし、変更もできます。一体を選んで進化させたり、一体だけ食の好みを変更することも可能です。もちろん、変更対価に魔力は必要ですが、大概において困る分量を求められるわけではありません。つまり、簡単です。

 魔物とはいえ、簡単に変更できる。

 できれば私はこの『こわいな』と感じた感情を忘れずにいたい。

 いつか、慣れてしまってあたり前になにも感じなくなるかもしれないけれど。今、私はその簡易さをこわいと感じたのだから。

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