第219話 ただいま!

 明日の朝、役所前で待ち合わせを約束してそれぞれに帰宅したネア・マーカスです。

 町の入り口にはちょっとした簡易小屋が数軒建っていて少し驚きました。

 町の中での居住登録が間に合っていないそうです。教会が発行しているカードで登録しないと町の住人とは認められないのです。短期滞在と住民は権利が違うそうですよ。ドンさんはまだ短期滞在権でイゾルデさんは国家公務員なので教会から発行されるカードには王都に籍があることになるそうです。

 短期滞在時の教会登録は移動記録ですね。コレは人数制限もないし義務でもないそうです。推奨されてはいますけど。

 住民登録は一日に登録できる上限や手続きがものすごく大変だそうです。

 税金の支払いや犯罪歴、目的や希望能力等。一番の難関はそれを書類として文章にしなくてはいけない点らしいです。(ドンさん曰く)

 学都は学生の受験費用が雑多な支払い処理になっているそうです。滞在時にかかる税金は前払い制だそうです。ついでに言えば学生ギルドで一定の依頼を受けることが推奨されるのは追加の滞在用費の支払いに絡んでいるそうです。学生は学都内でお金をたくさん回しますからね。受講費とか寮費とか装備費とか資料に必要な教本代とか迷宮入場費とか。ティカちゃんが頭抱えてました。一応お兄さんたちに聞いていたようですが具体的ではなかったようです。

「受験費用だけじゃダメなのはわかってたつもりだったけど、なお甘かったかっ」

「最初の支払いに含まれているのは寮費二期分だからな。時々変更もあるし」

 なんて会話をしていたんですけど、たぶん、大丈夫です。『蒼鱗樹海』でそれなりのドロップ品は出ましたし、警備隊長さんから回復系のギフト貰ってたのでそれを使いまくればそれなりに稼げます。私の迷宮内お水売りみたいな感じです。

 ティカちゃんはちょっといっぱいいっぱいになりながら、お迎えに来ていたティカちゃんのお父さんと帰っていきました。

 かわいい子狐さんが満面の笑顔で焼き菓子を差し出してきていますよ。

 自宅はほんとうに楽園ですね!

 私の心臓まだ動いていますか!?

「ねぇね! おかえりぃ!」

 うわぁん。かわいい。マオちゃんが食べていいんだよぉ!

「ねぇねがさきっ!」

 え?

 毒味? 毒味かな?

 もちろん喜んで!

 さくっとしてて口の中でほろほろ崩れていく不思議食感です。

 そして、甘い。

 砂糖の鉱石の甘さとはちょっとちがうし、果実の甘味や蜂蜜の甘さとも後味がちがう気がする。

「ブラナンっていう鳥馬の餌に使われるらしい蕪っぽい野菜が薬草園の二階層に群生しててね。葉や茎は蒸すと美味しく食べられるし、根っこも漬物や汁物に利用方法はいっぱいあるんだけど絞って煮詰めると甘味料が採れるんだよ。今、薬草園ではこのブラナン採りとむっちゃすばしっこいウズラ狩りで盛り上がってる」

 つまり、ブラナンシュガーの焼き菓子ですね。弟くん。

 砂糖、あるのに。迷宮内にちゃんと。手間暇かけないでいい砂糖が。

「シュガーポットグラスっていう砂糖も見つけたんだけどブラナンシュガーが今の旬かなぁ。それでね、ネア姉さん。今日のソレは蕎麦粉のクッキー。思ったよりボソッとしちゃっちゃけど、どうだった? あとおかえりなさい」

「あ! ねぇね、おかうり!」

 旬ってなんですか? 弟くんよ!

 いや、いい。マオちゃんがかわいいから全部いい。

「うん、ただいま」

「手を綺麗にしておいでよ。飲み物も準備しておくからおはなし聞かせてネア姉さん」

「うん。蕎麦粉クッキーまだある?」

「もちろん」

「明日、ティカちゃんにわけてあげれるくらいある?」

 ぱっと弟くんが笑顔になる。

「もちろん。たくさん焼いたよ。よかった。誰かに分けたいって思えるくらい美味しく思ってもらえて」

 うん。まぁね。でもさ。

「ハーブくんのつくったお菓子なら失敗しててもつくってくれたのが私嬉しいよ?」

 家族のためにつくってくれたんでしょう?


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