第218話 ティクサーへの帰還

 マコモお母さんに抱きつかれたのはティクサーのひとつ手前の野営地でした。びっくりしたネア・マーカスです。

「クズに絡まれたと聞いたわ! お母さんが全員せん滅してあげるから安心してちょうだいね。こわくなかった? ネア」

 マコモお母さんの愛がこわいです。あと誤解です。

「葛には絡まれてませんよ?」

 葛は木に絡みつくんです。葛を指差して言ってみる。まぁ戦闘狂っぽい人柄屑評価のあるイゾルデさんには絡まれたかなと思いますが。

「葛?」

 そう。植物の葛の蔓です。

「クズ人間狩りじゃなくて、葛刈り、なのかしら?」

「人間は狩っちゃダメでは?」

「犯罪者が森に逃げ込んだら魔物狩りより盛り上がるかなぁ」

 イゾルデさん、その情報いりません。幼女は知らなくていいことですよ。

「まぁ、そうだったの。じゃあ大丈夫なのね。よかったわ」

 ふわりとマコモお母さんが微笑みます。

 落ち着いたようでひと安心です。

「マコモお母さん」

「なぁに。ネア」

「ただいま!」

「はい。おかえりなさい」

 抱っこして帰ろうとされたので必死に阻止して一緒に帰路です。夕方にはティクサーにつきますよ。

 マコモお母さんはクノシーまでなら日暮れに出て夜明けにはつけるそうです。ナニイッテルンデスカ?

「まぁ、道を選べば、途中一泊で行けなくはないわね」

 イゾルデさん!?

「道を選ばなけりゃだろ。魔物の出る森つっきりゃまぁ、そんなもんだわな」

 ドンさんまで!?

「そうねぇ。コレ使えば半分道使って仮眠しながら一日かしらぁ?」

 ルチルさんも本気ですか!?

 どんな体力おばけなんですか。冒険する大人たち!

「あら。ネアちゃん、タガネちゃんなんて鳥馬使えばティクサーから王都まで朝出たら昼にはついてる化け物よぉ。騎乗って疲れるのよねぇ。アタシ無理ぃ」

 つよいおとなすごい。

「そうか。流石茶熊。寝ながらでも移動できるとは。その存在に魔物が避けるのだな」

 頷きながらのイゾルデさんにドンさんも同意ふうです。

「ちょっとぉ。そんな疲れるマネしないわヨォ。気配遮断をこのコに仕込んであるのよぉ」

 今回の往復にはルチルさん作の自走荷車(浮遊)の試運転も兼ねているそうです。超快適。今回の試運転は何人か乗せて安定速度維持実験だそうです。

 なんとなく、そういうことにしておいてくれたような気もします。

「あと、その呼ばれ方嫌いなんだけどぉ。茶熊じゃなくてルチルってちゃんと呼んで欲しいわぁ。かわい子ちゃんたちが呼び名に怯えちゃったら……。うん。全力で悪口言いふらしちゃうから」

 ドンさんは速攻で謝罪をいれていました。イゾルデさんは気にした様子もなく「ああ。わかっているさ。ルチル。だが、強さを褒めての二つ名だろう?」とか言ってました。

「暴走野郎って呼ばれても嬉しくないわぁ」

 暴走野郎って意味だったらしいです。

「猪よりは強そうだろ?」

「イゾルデちゃん。そういう問題じゃないのよ」

 そっと微笑んで聞いているマコモお母さんを眺めます。無言で、「どうしたの?」とばかりに微笑まれます。

「マコモお母さんには二つ名あるの?」

 なぜか沈黙が落ちて転がっていきますよ。

 おそらくどう答えるのか悩んでからゆっくりマコモお母さんは口を開きました。

「さぁ。どうでしょうね。狐人は元々魔力の高い者が多くてお母さんくらいの魔力持ちはありふれた存在だったから。でもきっとこれからはネアのお母さんって呼ばれるのね。嬉しいわ」

 マコモお母さん。それは二つ名じゃないと思う。

「ネアのお母さんって呼んだ方が嬉しいの? マコモおばさん」

 パチパチと瞬きをしてティカちゃんがマコモお母さんに尋ねます。

「ええ。そうよ。嬉しい呼び名で呼んでくれるのかしら?」

「じゃあ、そう呼ぶね」

 あとで聞くと名前で呼ぶと嬉しいと思う知り合いの奥さんたちが多かったそうです。『誰かのお母さん』より名前におばさんとかただ、さんをつけるとかの呼び方が喜ばれたので、その呼びかけをしていたそうです。

 マコモお母さんがそっちの方が嬉しいならそっちの方がいいでしょ。っとあたりまえの顔で言い切るティカちゃんが好きです。

 マコモお母さんからの評価も上がったようでなんとなくひと安心です。

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