第216話 クノシー六日目採取
フロアふたつほど焼き払って進んだ先は色鮮やかな葉を持つ木々で構成された森でした。葛の緑を切り払ったら色とりどりでぽかんと見てしまったネア・マーカスです。
『油化』ギフトや『抽出』ギフトで染料を取り出せるそうですよ。
ここの主力魔物は羊草と蚕蛾。森蜘蛛でした。羊草が一番好戦的ですが、移動範囲がやたら狭く、のんびりと接敵してくる害獣を駆除しつつ世話を焼いているのが森蜘蛛で、アナグマ警報や外敵接近警報を出しているのが蚕蛾だそうです。
「お。羊草」
イゾルデさんが楽しそうに目を輝かせます。
羊草はべぇべぇ鳴き声を発しながら茎をしならせ揺れています。
「あいつはさ。ゆっくり強くなるのさ。戦うごとにふわりとした鎧を生み出してな。より強くなる」
べぇ!
静かに花弁に隠れる羊草が多い中、一輪の羊草が威嚇するように鳴きました。
「よし、ティカ。いけ!」
「は?」
イゾルデさんがいきなりティカちゃんにふりました。
「ネアは伐採作業だろ? リポップするだろうが、羊草の強さは育ち直しになってしまう。なら、ここはリポップさせずに『カマイタチ』で羊草以外を伐採していくのが得策だろう」
「は? よく理由がわからないわよ。イゾルデさん」
ティカちゃんはイゾルデさんにも押し負けないらしいですよ。カッコいい。
「リポップした魔物は初期とても弱い」
「基礎的な強さはあるが動いて得た経験が少ないため、長期生き延びた個体より動きが単純だったりする。ナーフ嬢も今日の自分が十日前の自分より魔力使いが下手だと思うかね?」
イゾルデさんの身も蓋もない結論に被せるように警備隊長さんが納得の説明を語ります。「なるほど」とティカちゃんも納得したようですね。
「ネアは細かい魔力使いの技巧、および基礎体力を鍛えるべき」
え?
ありがたい気もしますがわかってるので私には指示は要らないですよ?
「ティカは筋がいい。ならそれなりの相手と実戦すべき」
それが、羊草らしいです。
ん?
「筋が? え、私は……?」
「ネアはまず基礎体力と動きを訓練してからだ。魔力ばかりに頼る強さで武器を握れば、鈍臭く転んで自分で自分を蹴り転がしそうだ」
どんな鈍臭さですか。逆にそれ器用じゃあ?
えー。
第三者的にはそこまで鈍臭そう?
ティカちゃん、なに、その「あ」って表情。
あ、目を逸らした!
「つまり、羊草を討伐するのね」
あ、話題変えた!
「いや。討伐はしない。半殺しにして一旦休憩。お互いに休憩してからもう一回、って繰り返して五回くらいかな? 個体によって違うんだけど、ドロップ品差し出してくるからそれをまきあげたらその日の採取は終わりだね」
べぇええええ!!
羊草が怒ってますね。
「羊草は有益な魔物だからね。マーカス嬢。できればこのフロアは燃やさずに刈りとっていってほしい。ここまで来たならそろそろ帰る時間も考える頃だろう?」
迷宮からクノシーの町まで歩いて、ついでに町むこうの廃村付近まで歩いた感じですからけっこう時間が過ぎているはずなんですよね。時々食べているおやつで疲労回復しながらなので疲れてはいないのですが。
ふと視線を彷徨わせるとルチルさんは楽しそうに染料を集めているようです。うーん。ルチルさんのためにもサティアさんのためにも頑張ろう。
「魔力の高い隊員に『除草』を覚えさせる予定ではあるのだが、整備に間に合うギフトを集められるのはいつになるかわからないから。頑張ってくれ。マーカス嬢」
除草整備担当の警備隊員さん。なんか響きが警備隊員さんの持つ印象から違う気がする。微妙な表情をしていると思ったのか隊長さんが兵站は大事なんだよ。と説明してくれました。よくわかりませんが、お勤めにはいろいろあるようです。
目新しい採取物を探しながら、葛を刈る簡単なお仕事でした。迷宮から出たらもう暗くなりかけてましたよ。
死霊系が出る前に出れてよかったです。
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