第214話 クノシー六日目キセイ
「きゃあ! ステキ!」
そんなちょっと野太い歓声に目を瞬くばかりのネア・マーカスです。
警備隊長さんともまだ合流してませんでしたし、クノシーを再現しているっぽい廃墟フロアを焼討ちにして、安全区画でお茶しましょうと決めたんです。
人の痕跡はまだありませんでしたし、こっそりエリアボス蛇に冒険者(侵入者)の有無も確認しました。というわけで最大火力で燃やしましたよ。どっかーんと。
パーティメンバーに耳が痛いとかあっついとか苦情を貰いつつ魔力回復時間も兼ねて休憩です。
焼討ちの火と煙は遠目に視認できるという事実は慌てて駆けつけたルチルさんと警備隊長さんから教えてもらいました。
あー、魔力回復機能のある安全区画があると思って遠慮なく打ち込みましたから随分と目立ったらしいです。
要加減ですか。
ルチルさんが美味しいおやつネタをティカちゃんから聞いて芋林檎のパンをつくってくれました。『簡易錬金窯』は便利な迷宮宝箱からの道具だそうです。いつか自作したいのよねと楽しそうでした。
ティカちゃんとドンさんはちょっとだけお猿のいるフロアに戻ってアナグマ狩りでした。アナグマはウサギと似たような大きさの四足獣タイプの魔物で木の根っこや虫の幼虫を食べる雑食の魔物です。
「アナグマか」
大きく育つ木が倒れてしまうこともあるので要駆除対象だそうです。ただ、このアナグマが優先的に食べる根は葛の根なので狩り過ぎると葛が大繁殖する仕様になってます。
葛の根をたくさん食べている個体の肉が一番美味しくなる仕様だそうです。つまり私が焼き殺した群れのお肉が実は最上。まぁ、もれなく加工肉ですね。香草焼きとか、アナグマと野菜の煮込み鍋(土鍋付き)とか。
「ウサギや猪は狩っているがアナグマは見ていないな。狩人たちに要報告ということか」
警備隊長さん的にはそこが気になったらしいです。
荷物袋に絵筆セット(アナグマ)なるものが入っているんですけど、価値ってどんなもんだろう?
ウサギもアナグマもよい毛皮素材でもあるそうです。ええ。焼けましたよ。私の狩り方では。狩りっていうよりせん滅だしね。
雑談だらけの休憩を終えてクノシーっぽいフロアに突入ですよ。エリアボス蛇によると夜間に幽霊や動く骨が出るらしいですが、昼間は虫やスライム小型の魔獣系がほんのすこししか出ない安全高めのフロアだそうです。
夜に死霊系、呪い系の魔物が出るので他の魔物は居つかないが正しいそうです。呪い系と通常魔獣系は低階層では共存しないそうです。
……確かに早々に呪い振り撒く魔獣なんて出たら大変ですよね。
危険度高くて討伐迷宮待ったなしになりそうです。
まだまだ広く浅く魔力の伸びは足りない状態ですからね。
じんわり冒険してくれる冒険者を増やさなければなりません。
【討伐されるまでに、調査、挑戦でそれなりの魔力は集まるでしょうが、次の練度には不安が残る戦法になるでしょうね】
そうです。前面に最強を置くと次の番人はそれよりも弱く、討伐されやすいことになります。
最前線に最強を置いていいのは育成期間が有り、最強一に対し十の二番手が存在し、成長できる環境があってこそです。
さておき。
町は白っぽい煉瓦造りの町並みでした。
ルチルさん曰く、「錬成煉瓦で町ができてるのねぇ」です。
建物は四角い箱が並んでいる感じで息が詰まりそうなほどに規則正しいです。
「道に迷いそうというかわかりやすいのか難しいわね」
ティカちゃんの言うとおり道幅も建物も似たり寄ったりすぎてわかりやすくもわかりにくいのです。
時々地面にうちこまれたプレートに書いてある数字を警備隊長さんがチェックしています。
「ナーフ嬢、この下にあるプレートの数字はすべて違う。おそらくコレで場所がわかる仕組みなのだ。数字ではあるが、区画管理に使われているのであろう」
私とティカちゃんが警備隊長さんのためになる説明に耳を傾けている時でした。
「きゃあ! ステキ!」
そんなルチルさんの喜声が聞こえてきたのは。
そこは錬金術工房でした。
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