第213話 クノシー六日目山を目指す

 水音聞こえる『蒼鱗樹海』の入り口で警備隊員のお兄さんたちに迷宮に潜る旨、報告、署名しておくネア・マーカスですよ。

 迷宮出入りは一応管理されているらしいですよ。帝国では学生カードが記録カードになっていて学生会で迷宮出入りは筒抜け仕様だそうです。すごい。天職の声さんが改竄簡単ですけどね。とおっしゃるのは迷宮核権限使えばってことのようで決して簡単ではないと思います。

 昨日署名したっけ? と思っていると事前通達があったので準備されていたらしいです。今日は既に迷宮に人がいるので一応の署名らしいです。

「今日は最初のフロアは焼かず、『山』にむかわれるんですよね?」

 にこにこと警備隊のお兄さんが確認してきます。

「はい。そのつもりです」

「フロアの焼討ちについては本日も通達公布してありますが、念のため、周囲に他の冒険者の方への警告をお願いします。昨日に引き続きよろしくおねがいします」

 と送り出されました。

 愛想が良すぎて不思議でしたよ。

「採取物の品質が上がったんじゃねえか? 葛で抑えられていた生育とかな」

 目についた葛の蔓を引きちぎりながらドンさんが言います。

 なるほど。納得です。

 昨日の焼き払いには大量の魔力を注ぎ込んでます。

 迷宮に多めに魔力が投入され、投入された現場が成長するのは当然だと言えるでしょう。そして人が奥に行くということは迷宮最初のフロアにだけ人が混雑する環境の改善になるのでしょう。たぶん。

「さっさと分岐に行くよ」

 イゾルデさんに急かされつつの移動です。時々、目についた葛の蔓を切り落としながら。

「昨日より薔薇の実、大きいわね」

 ドンさんにもいでもらった赤い木の実、林檎を抱えてティカちゃんがにっこりです。

 木の上の果実は私たちではもげませんからね。身長欲しいです。

 得意げに「嬢ちゃんたちはまだまだチマっちいからなぁ」とか言ってくるドンさんに二人してムカつきますよ。ドンさんが泣いて謝りたくなるおやつとか考えましょう。ティカちゃん。例えば、パン生地で林檎を包んで焼き上げる。とか。あ、猪の腸詰刻んで林檎と一緒に焼くとか?

「火を通したお芋をそこに入れたら食べ応えもあるでしょうね。ネアはお料理上手なの?」

 私のスープはマオちゃんが泣いて喜んでくれますよ?

 マコモお母さんも美味しくできたわねって褒めてくれますし?

 ちょっと作ったことのあるスープは素材の関係もあって苦めでしたし、……ティクサーに帰ってからそういえばお料理してませんね。むしろ弟くんが台所支配しているような……?

「期待できないわね」

「ティカちゃん、ヒドイ!」

 山へのひとつめのフロアはとりあえず半分くらい焼き払いました。

 ウサギ、猪、熊に狼。虫系の魔核と素材が集積されます。

 グズグズの焼け跡に這いずるスライムたちが森を整えていくようです。

 ぎぃぎぃと威嚇の声と共にイゾルデさんに切り落とされた魔物は猿でした。

「投擲してくるちょっと小賢しい魔物だ。群れで活動する。周囲警戒!」

 イゾルデさんの指示に従い、周囲の木々を伐採し、魔物たちが潜める場所を潰してからせん滅。猿は出てこなくなりました。危険相手として学習されたのではという疑念があります。

 イゾルデさん曰く、お猿や狼など群れる魔物は頭のいいボスがいたりして面倒楽しいらしいです。

 ドンさんが「楽しくねぇよ」とぼやきながらティカちゃんに治してもらってました。

 お芋と林檎とトゲトゲの石を投げてくるお猿でした。

 ええ。適度なタイミングでイゾルデさんに「ネア。焼き払いな」と言われたので焼き払いました。

 焼き林檎と焼き栗を入手しました。

 お昼ごはんのデザートか、お昼前のおやつですね。

 森のフロアをひとつ焼くと次のフロアとの間には安全区画が有り、次のフロアをチラッと覗けばその先には植物に埋もれた廃墟がありました。これはやっぱり。

「クノシーの再現っぽい場所かな?」

「本当に地上の配置を反映してそうだね。ちょっと葛が少なめなのは伐採しっかりしたからか」

 イゾルデさんがふむと分析をしていますね。イゾルデさんってそういう分析もするんですね。


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