第212話 クノシー六日目振りまわされてるのはだぁれ

 入り口までの伐採は木こりのおじさんが「あの辺ぶち折っといてくれ」とか「あの辺りの蔦寸断頼む」と指差し指示に沿って伐採したネア・マーカスです。荷馬車のクッションはもうすこしふかふかさが欲しいと思いました。

 ティカちゃんはドンさんとおしゃべり。イゾルデさんは周囲警戒といきなり馬車から飛び降りて中型の猪や熊を狩ってきます。ドンさんに「遭遇したわけでもないのにしばいてやんなよ」と嗜められていました。イゾルデさんは「害獣は駆除だ」と取り合いませんでしたが。

「気をつけないとああなる」

「ああ、なる」

 すこし二人の会話が気になってちょっとだけ割り込んでみる。『ああ、なる』ってほら、ちょっと気になる。

「なにが?」

 ちょっと言い籠るドンさんが小鼻を指で掻く。言い難いこと。えーっと、つまり悪口とか陰口って奴かな?

「ネアがよ」

 ほぇ?

 私?

 私の悪口?

「強さの素養が高い人にはありがちな成長らしいわ。強くて自由だから届かない人にはなにもできなくなるの」

 んー?

 成長? 

 ありがち?

 あれ。私の悪口ってわけじゃない感じ。あ、よかった。強くて自由。うん。

「ティカちゃんも一緒に強くなるよね?」

「それでも、私は基礎的なところでネアとは違い過ぎるわね。だから、置いて行っていいけど。たまには振り返ってほしいかしら」

 おいていかないよ?

「足手まといにはなりたくないの。学都で付き合いが増えればいろいろわかってくるし、変わるわ。それが、まぁ、いっぱんてきっていわれてるやつ、なんだけど、ネアはほんとうにおもいっきりズレてるから私も先のことなんてわかんないわ。迷宮、楽しむんでしょ? 私の戦闘訓練の邪魔したら怒るからね?」

 そんなにズレてるって言わなくてもいいじゃない?

 そこまで、ズレてるかな?

 あ。会話がなんかうまくかみ合ってないのはさすがにわかる。なんか繋がってない感じ。私がわかっていないだけ?

 えっと、戦闘訓練は魔力酔い対策だから必要だよね。うん。

「楽しむ。でもね、ティカちゃんは足手まといじゃないよ?」

「知らないわ。私が足手まといになってると感じることは変わらないんだから。忘れないで。私はそれでもネアとちゃんとともだちでいたいの。ネアはちゃんと理解ししあえるともだちもつくるべきって思うけど、きっと置いていかれたって私拗ねるから。なだめろっていうんじゃないわ。私は私でいたいし、ネアはネアだわ。変わるのも変わらないのも私たち次第じゃないとイヤなのよね」

 お、ぉおう。

「いや、ティカ嬢ちゃんほんとに十歳か?」

 おう。ドンさんに同意するよ。

「ふんだ。たまには振りまわされる方も味わえばいいのよ!」

「え! いつも振りまわされてるよ!?」

 会った当初とか、今、そうたった今とか!

「あー、嬢ちゃん、あっち伐採頼んでええか?」

 木こりのおじさんが声をかけてきた。遠慮せずどうぞ!

「ほら、お勤めしてらっしゃい」

 ぁあ。もう!

「ティカちゃんのイジワルっ。おじさん、どこ切ればいいの?」

 笑って手を振っているティカちゃんに手を振り返してからおじさんの指差す先の枝私切り落とす。

 歩きよりもちょっぴり早い荷馬車。足が疲れませんよ。

「ネアって歩くの苦手よね。いつか肥えて動けなくならないようになさいよ。魔力使うとおなかすくのはわかるけど、食事の量って簡単に変わらないんだから」

「背がティカちゃんに追いついてから考えるぅ!」

「適切に動けって言ってるんだけど?」

 ティカちゃんがわかりにくい言い回しをするぅううう。

 戻ってきた返り血に汚れたイゾルデさんが「今日も仲良いな」とおっしゃいましたが、まずは『清浄』です。

 荷馬車に血痕を残さないのって地味に大変なんですけどね。

「お。スッキリ」

 ケガは本当になかったので本当に返り血だったようです。

「目立つ魔物は狩っておいたからこれ以後の整備を期待している」

 イゾルデさんがにんまりと木こりのおじさんに笑いかけます。ドンさんが小声で「威嚇やめろー」と囁いてます。

「あとは任せときな。嬢ちゃんたちに感謝だ」

 おじさんの心は広かったようでした。

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