第211話 クノシー六日目朝

 クノシー六日目の朝です。

 今日は『蒼鱗樹海』の入り口まで葛刈りしながら行ってついたら、好きな方向に攻略特攻かけていいそうです。「好きなだけ焼き払って行けるところまで行っていいぞ」とは警備隊長さんの発言です。昼前くらいまで他の仕事をこなしてから合流するそうです。

 ああ。だから派手に動けというわけですね。

 んー。山にでも向かいますか。

 山の方向ですからクノシーモドキや途中のあの村のあたりの葛を減らせればいいかなと思うんですよね。角度が違うようならそれはそれでしかたがないことですし。

 などとぼんやり考えながら朝ごはん中のネア・マーカス十歳女児です。宿舎の冷却はカンペキでお世話のお姉さんに「この生活がなくなるのがつらい」と言わしめました。

 お昼お弁当は「警備隊長さんに預けるわね」とにこやかでしたが、それっていいんでしょうか? あ、どうせ合流するんだから警備隊長さんの分もつくっておけば大丈夫? そうですか。それならいいんです。

 焼却フロアひとつにつき金貨一枚のお約束通りに七日間除草伐採依頼とは別に金貨四枚が支給されました。

 あと冒険者ギルドのギルドカードに適切な保護者があれば好きに迷宮に入ってかまわないという条件付き探索許可をアドレントクノシー警備隊の名前で許可されましたよ。

 ティカちゃんは単独は非推奨。低階層探索許可が……。

 これ、ティカちゃんの方が認められている感じですね。と思っていたら、ティカちゃんと隊長さんにため息吐かれました。

「戦力は問題ない。ただ、加減が甘く、常識も甘い。周囲に警告を発することのできる大人が共にあることが好ましいということだ。ナーフ嬢がもう少し迷宮に慣れてきたなら二人でパーティを組んでも問題はないだろう。ナーフ嬢ならマーカス嬢に意見できるからな」

 え。

 注意されたらそれはちゃんとききますよ?

「もう。ネアは破壊者じゃなくて、薬草摘人になるんでしょ。今、求められているのは魔力ごり押しのフロア再生だけど、薬草なんて繊細なところに生えているんだからちゃんと考えるのよ」

 なんて会話を昨日したんですよね。

 なんかちょっと釈然としません。

「警備隊長さんのご厚意で『治癒』のギフトを貰ったわ。ネアと一緒に行動するなら必要だろうって。万が一のやけどの治療にはなるから、たくさん使いなさいって」

 ティカちゃんに適性はあったらしく使用することは可能でした。魔力回復の飴玉の瓶を片手に「今日は辻治療しつつ楽しむわ。ネアは?」と話題をふられました。

「『砦』は砦方面だと思うんだ。だから山の方へ行ってみたいなって」

「そうね。砦は砦から入ればいいわね。王都のあるあたりの距離でお城あったらしいし、ねぇ、山にむかったらクノシーもあるのかしら? ちょっと楽しみね。あ。かぼちゃのスープ美味しいわ。猪の腸詰使ってるわね。これ」

 昨日、ギルドに各五十本売ったから市場に流れたんじゃないかな。それにごはん用お肉提供くらいいいじゃないかな?

「じゃあ山方面で問題はなし?」

「ええ。ちょっと伐採しながら迷宮に向かうんでしょ?」

「おい、嬢ちゃんたち元気だな」

 ドンさんがスープを飲みながらぼやく。

 昨日エリアボス蛇の分体退治にがっつりかり出されていたイゾルデさんとドンさんである。

 たぶん、夜に大人組打ち上げとか言って呑んでたっぽいからそのせいではないかなと邪推しますよ。

「山方面だけど、登山にはならないんじゃないかな?」

「迷宮フロアひとつ焼き払って金貨一枚は継続だって昨日言ってたからなぁ。ネアちゃんが迷宮に行くっつーんならその時間はそのフロアからはなれてたい連中はいるだろ。事前に『城』方面にはむかわねぇって話を流すぞ。いいか?」

「うん。二日酔い大丈夫?」

「ん? おお。ちゃんとティクサーに帰るまではきっちり動くぞ! 心配させたか?」

 昨日の打ち上げ飲み会くらいはたいしたことないらしいです。大人ってすごい。

「快癒薬在庫があっただけよ〜。あとの飲み会はティクサーに帰って依頼完了時ねぇ。今日はつきあうけど、明日は調合三昧の予定よぉ〜。主に美容品」

 スンッとルチルさんが素に戻っていた。

 嫌いじゃないけどとにかく分量を求められているらしい。

 朝食前に少しうとうと仮眠しただけと聞いてお昼から合流でいいんじゃないと提案したティカちゃんに私も同意しました。香りの良い植物とか薬効の高いものとかは採取しておくから寝て!

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