第207話 クノシー五日目『蒼鱗樹海』4

 お城目指して森を焼き進むネア・マーカスです。響きが誤解を生みそうですね。

「一緒におやつもごはんもするから、ネアは私の要求を聞くべきだわ」

「要求?」

 ティカちゃんがいつも通り高圧的です。

「ドロップ品を気軽に人に差し出さない。ちゃんと代金と引き換えでないと基本、失礼だと思うわ」

「失礼なの?」

 なんで?

「んっもう。迷宮に来ているってことは冒険者でしょ。迷宮に入ってもいいですよって許可を持ったね」

 うんうん。確かにそう。フロア全体を焼却するには他の人も近いので小規模火炎弾を森に放ち延焼と鎮火を見守って調整しながら進みます。水で消火するか、火炎弾追加するかの判断をしながらの雑談移動中ですよ。

 炭と加工肉が荷物袋の中に増えていきますよ。

 ウサギの香草焼き。瓜坊の焼ききのこ添え。子熊のりんごはちみつソース。森蛇の蒲焼き。

 ……森蛇の、蒲焼き?

「ネア、聞かないなら次のおやつは一人で食べなさいよ」

「ぇえ。ちょっと集積結果に蛇の蒲焼きがあってびっくりしてただけだよ。聞いてるから」

「んっ、おやつは一人で……」

 えぇえええ。待って。ティカちゃん待って!

「ごめんなさい。ちょっと聞いてなかったです! でも、森蛇の蒲焼きってびっくりしない?」

 驚いちゃうと意識そっちにいかない? いっちゃうよ? いっちゃうよね。

 ティカちゃんが深々と息を吐きますよ。

「他のドロップ品はどんな感じなの?」

 あ。情報提供情報共有って奴だよね!

「あのね、あのね。ウサギの香草焼きと瓜坊の焼ききのこ添え。子熊のりんご蜂蜜ソース。あとは猪肉と熊肉の燻製だって! 美味しいのかな?」

 おやつどれがいいんだろ。

「うっわぁ、食べ物ばっかりね」

 あれ? 名前だけでおなかいっぱいっぽい反応?

「あのね、ネア」

「なぁに?」

「私はね、散歩してるだけの状況なの。ネアみたいにスキルギフトを使っているわけでもないでしょ?」

 あー、うん。確かに。

「でもいちおうパーティ組んでいるわけよね?」

 うん。いちおうじゃなくてちゃんとパーティ組んでるよね。

「つまりね、魔物を倒した時に発する、えっと、成長そくせい魔力を私も受け入れる……のよ」

「成長促進魔力。ね。戦闘経験値とも呼ばれていて普段の修行でもちょっとはあるけど、迷宮で魔物を倒した時の方が魔力の底上げ体力の底上げになるって言われているわよぉ」

 ルチルさんが補足してくれる。

 あ。そんなことが学都で貰った教本にもあったと思う。

 確か、実際の戦闘をして発散しながら魔物を倒せば馴染みがいいって。ん? 馴染みが悪ければ魔力酔いもあるから護衛依頼時は要注意って。

「ティカちゃん、魔力酔い、大丈夫?」

「ふふ。いまさらよ。なんにもしてないのに基礎能力が上がっていくっていうのはね、他の人がどうかは知らないけど、私にとってはものすごくイヤだわ。わかる? 自分が出来ることが増えているのに自分が出来ることがわからなくなるの。それはね。たぶん、迷宮でこそあぶないの。ちょっと逃げたつもりが行きすぎちゃってはぐれて戻れなくなりました。なんてシャレにならないでしょ。……怖いじゃない」

 あ。

「ごめんなさい。ティカちゃん」

「ドロップ品はね。魔力が多めに含まれているでしょ?」

 うん。小さい子は調子を崩す事例も知ってる。

「よく採れるたくさんあるからってばら撒いちゃダメなの。本当なら力をつけて強くなって手に入れるか、それ相応の対価、代金を支払って手に入れるものよね?」

 はい。

「元の、そ、そようとしての魔力の高さ多さでネアは平気でしょうけど。私は違うの。だから」

 だから。と言ったティカちゃんがくるりと周囲の大人を見回します。

 時々補足を入れてくれながら周囲警戒焼き討ち後の調査を担ってくれてましたよ。大人組。

「私に安全戦闘訓練(実戦)をお願いしていいですか?」

「よーし、強くなれ。まずは熊からイくか」

 イゾルデさんがいい笑顔でそんなことを言いますよ。

 熊さん、いますかね?

「バカモン! ドン、その辺からウサギでも追い立ててこい。ナーフ嬢は戦闘準備待機。マーカス嬢はそこで待機。ルチルに集めたドロップ品の鑑定をしてもらって基礎価格を認識するように。イゾルデでは私と共に警戒だ」

 テキパキと警備隊長さんが指示を飛ばします。同じ待機でも指差して指示される位置が違いますね。あ、はい。同じじゃないんですね。

「ティカちゃんの魔力酔い対策は必要だったわねぇ。じゃ、アタシたちはそこで鑑定しましょ。いっぱい食べ物ドロップしたのは素敵ね。アタシの使えるような素材はなかったのかしら?」

 牙とか骨とか獣油とかはありますよ。残念ながら皮はないですね。

『熊、ヨブ?』

 ウサギさん希望ですよ。エリアボス蛇。

 角ウサギの群にもふられているティカちゃんを助けにいくべきか、素直にいいなぁと羨むべきか悩むまで時間はかかりませんでしたよ。手伝いは止められました。

 ウェイカーくんたちのはじめてのウサギ狩りよりスマートに短時間で終わったように思います。これが基礎能力向上に伴う戦闘力!

 ティカちゃんの戦闘手段は棍棒で殴るでした。

「素振り時間、つくらなきゃ」

 そう呟くティカちゃんはかっこいいと思います。

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