第208話 クノシー五日目『蒼鱗樹海』5

 お城周りも険しい葛に包まれてますが、焼却は抵抗のある警備隊長さんがいるのでカマイタチ改め伐採を使ってコツコツしているネア・マーカスです。ティカちゃんにウサギの尻尾(幸運のドロップ品)をお揃い髪飾りにしてもらってご機嫌ですよ。

 ティカちゃんと十羽をこえるウサギとの戦いはワイルドでした。擦り傷切り傷打ち身はルチルさんがささっと薬を飲ませてましたよ。

 一部の人達が二階層への入り口があの城じゃないかと言っているらしいとドンさんが教えてくれましたよ。確かに目立つモニュメントですよね。

『ガワダケ城。エリアボス蛇ノ分体ガ配備。ゴ褒美箱アル』

 あ。エリアボス蛇、情報ありがとう。

 葛の蔓を刈り取りハリボテ城の鉄扉を開けるとそこはイバラに包まれた城下町でしたよ。

「あら。いい香り」

 咲いている薔薇は小さく素朴な一重の花。ルチルさんがご機嫌で採取していきます。髪油や紅に使えるそうです。

 ブンッと羽音が響き、そちらを見れば数匹の蜂がイバラの上をふらふら飛んでいるようです。

 大人の拳大の蜂が四、五匹まとまって飛んでいるのが数カ所で確認できました。

「虫、苦手なんだけど?」

 ティカちゃんがぽつんとこぼします。

 苦手は誰でもあると思いますよ?

「は! アイツラの速度に慣れると楽しいぞ! あと蜂針と蜜、ついでに『縫製』とかいうギフトをドロップするからな!」

「イゾルデさんはスキルギフト使ったんですか?」

「いや。縫製に適性がなかったらしく消えたな。覚えられたら使えたんだろうけどな」

 うん。覚えられたら使えたよね。たぶん、何回かは。定着させるほど使わなさそう。イゾルデさん。

 ルチルさんを見るとニコリと笑って「ネアちゃん達くらいの時にゲットしてかわいい服いっぱい作ったものよ。便利よ」と頭を撫でてくれました。

 お城に近づくほどに巻きつく蔓の硬度が増してきます。

 伐採するとキンッと金属に近い音がして弾け飛ぶので要注意になってきました。

 石畳をぶち抜くイバラは石畳の際で切断すれば痕跡も残さず消えます。再生、リポップには一日かかると鑑定出来る後続隊の人が教えてくれました。

 つまり、これ私以外にも処理できなきゃダメってことですよね? 実はそこそこ魔力要りますよ?

 私がイバラ刈りに勤しんでいる間、ティカちゃんや後続隊の人たちは一緒になって野鼠とかぶんぶん飛んでいる蜂を狩っていたようで、時々「あ、はちみつ!」とか「ぉお。『毒消し』ギフト!」という声が聞こえてきてましたね。毒消しギフトはこの迷宮に有毒魔物がいるってことなんですが、蜂もネズミも毒持ってますね。

「十年前、迷宮が失われる前の王城の姿を見ることになるとは思わなかったな」

 警備隊長さんが打ち落とし用のナタでイバラの枝を落としていきます。

「なかなか、硬いな」

 飛び散ると危ないという判断のもと慎重に魔力を当てていますよ。

「昔はお城、塔もあったんですか?」

「ああ。あったな。そこからは森をこえて草原の国の町が微かに見えて楽しかったな。草原の国を通って学都に学びに行く道か岩山の国を登って学都に行くかで言えば、距離はあっても草原の国経由が一般的だったからな。就学前の王都の子供達は一般開放されている塔から草原の国の町を見るのが普通だったんだ」

 迷宮があった頃。

 つまり国が豊かだった頃だ。

 国の子供達が迷いなく『学都』に学びに行く『学費』を得れた頃の話だ。

「国の中で学べなかったの?」

 これは素朴な疑問。

 わざわざよその国へ学びに行く不思議。

 警備隊長さんが不思議そうに私を見ている。

「出歩くことを好まない子供は町の教会で受けることが出来る学びで終わらせる者もいたな。だが、帝国の学都は数百年の歴史ある学び舎でな。資料も教えるための施設も、今までの疑問に応えてきた多くが集まっている。それに特化した迷宮もな」

 そっか。

 帝国がアドレント王国も含む周辺国の宗主国としてたってるから他の国もそれが当たり前なんだ。

 逆らえば、学ぶことができる環境を取り上げられてしまうのは、生きていけるけど、文化や生活基盤の程度が下がっていくのに自分達で学べる環境を整えないってそういうことだよね?

 だって。

 他国で学ぶってことはその国の思想在り方に触れ続けることで、環境が良ければ好ましいと感じるわけで。

 愛国心の在処が自国じゃなくて学都寄りのなっちゃうんじゃないかと思うんだよね。

 ごはん食べていきやすい場所が好きです。みたいな感じで。

 迷宮が失われていたから。じゃ、ないよね。

 数百年の歴史があるなら。

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