第206話 クノシー五日目『蒼鱗樹海』3.5
ジッとエリアボス蛇に見つめられている迷宮管理者ネアです。はい。
「燃やしちゃうの、ダメだった?」
『ダメ、ナイ。アルジ、敵ドレ。アルジ、ナカセタ。エリアボス蛇オコッテル』
ビリビリと警戒の震動波が空気を震わせていますよ。
えー。でもティカちゃん悪くないし、私も別に悪くないし。感情制御が一歩出遅れたから対処遅かった私が一番悪かったと言えるかなぁ。
「私の中には小さなまま閉じ籠っちゃった私がいるの。その私がおともだちがはなれちゃうってこわくなっちゃったんだ。だから、誰も悪くないんだ。あえて悪いって言えるなら私になるし」
『アルジ、悪ク、ナイ』
警戒震動波がじわりと弱まる。
「じゃ、悪いのは十年前迷宮核を三つの迷宮から奪った強盗さんってことでいいかな?」
『ソレハ確カニ悪イ』
お、納得してくれたのかな?
「ご機嫌なおった? 心配してくれてありがとうね。エリアボス蛇」
撫でていいかな?
『ヌシ様、もう、かなしくない?』
はうっ!?
「天水ちゃん!?」
『是。天水。天水もヌシ様心配』
【言い出すとキリがなくなるやつですね】
『あまり、お友達を困らせてはいけませんよ。主人様』
ぉう。バティ園長まできたよ。
でも、状況を一番理解してくれているのはバティ園長かな。
「困らせるつもりではなかったの」
なぜ、困ったことになったのかがよくわからないから。
エリアボス蛇と天水ちゃんから完全私擁護ななんていうか過激派の気配を感じます。常に私に罪がない訳じゃないんですよ。間違いは間違いと指摘してくれないと困るんですけどね。
『ちゃんと話し合いをしましょうね。良いお友達ができたことは喜ばしく思いますよ』
「うん。ありがとうございます。尼僧長様」
『尼僧長ではありませんよ。そして、この場合『うん』ではなく『はい』が好ましく思えますよ』
「はい。感謝を。私は私を主と心を分けてくれるあなた方に感謝を。いてくれてありがとう」
照れ臭いけど、嬉しいよね。
あ、聞いちゃお。
「後ろからきた警備隊冒険者混合パーティに腸詰渡すの止められたんだけど、どうしてかな?」
攻略には力が必要で迷宮ドロップ品は力を増強するのに。
『……。自分でかったものではないからです。自身の力で手に入れられなかったはずの力は身についても身につかないものです。人は楽に流れやすい性を持ちます。時折りの幸運を大切に育てる意志は容易く『あたり前』という名の傲慢さで食い潰されるのです』
かった。には狩ったも買ったも勝ったも含まれていそうなバティ園長の説明でしたよ。
『あたり前という傲慢さは最も成長を阻害していくでしょう。主人様が人を堕落させたいとおっしゃるならいくらでも』
え。
「望みません!」
『主人様のおっしゃることはそういうことに繋がりやすいのですよ』
え?
『主人様は、人をみることをあまり得意ではありませんよね?』
あ。はい。バティ園長のおっしゃる通りです。
『あなたのために言っている。教えてあげているの。などという言葉を聴く必要はあまりありません。主人様はすべて主人様で決め、行動することが望まれているのですから。それが力ある者です。それがわたくしたちの主人様なのです』
お、重い。
『ですから、『こうした方がいい』などいうことを天水やエリアボス蛇は言わないのです。主人様の認める範囲で主人様を貶し、利用する者の排除に動きます。ご心配なく。主人様の為ではなくそれは我らが許せないという自身の怒りの発散です。どうかお心に留めませんように』
待って!
なにかしてたりしないよね?
『主人様。どうありたいですか? 我らにどうあって欲しいですか? 我らの喜び望みは主人様の喜びであり望みでありたいのです』
お、重かった。
でもさ。
「んー、私に害意を持つくらいはどうにかする必要はないし、むしろ何もしないでいいかなと思うし、自由でいいと思うよ? でもね。うん。私の大事は傷つけないでほしい。ティカちゃんとかグレックお父さんとかマコモお母さんとかマオちゃんとか」
そう。
「ティカちゃんとか。もし、先々なにがあってもあなたたちは彼らを傷つけないって約束してくれる? たとえ、将来私が意見を変えても今の私との約束を優先してくれる?」
喧嘩するかもしれない。嫌われるかも知れない。
きっと迷宮の力が干渉すれば彼らはものすごく儚いのではないだろうか?
望むのは意図して傷つけないでほしいということ。
迷宮の魔物は忖度してはいけないと思います。
『過剰な守りも、敵視もするな。ということですね』
うん。さすがバティ園長。
『ヴ? 怪我シナイ見守ル。違ウ?』
うん。違うね。エリアボス蛇。迷宮来て魔物に遭遇しないとかなんの嫌がらせ行為ってなっちゃう。
『天水。是。有用ギフト、隙見て贈る』
いや、天水ちゃん、それもちょっと違うくない!?
エリアボス蛇、気付きを得たって感じに頭を上げない。
『ヌシ様、天水たち自由。是。自由意志。ティカ。ヌシ様盗るけどヌシ様の大事。天水是理解。天水ヌシ様好き。ヌシ様の願い受領……。天水、疲弊』
え。あ。盗る?
う。
「天水ちゃん、ありがとうぅうう。おつかれさせてごーめーんー」
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