第205話 クノシー五日目『蒼鱗樹海』3
猪肉の腸詰が小銀貨一枚はいくと言うティカちゃんの査定は正しいんじゃないかと思うんですが、それを今ここで食べることに関する疑問不満点がイマイチわからないネア・マーカスですよ。いや、これだけ(具体的には荷物袋の中に三桁本数)あると「小銀貨一枚はするの!」って言われても、「だから? 今ここに物量あるし?」みたいな心境なんだよね。一緒に食べて強くなろうよ。イゾルデさんもドンさんも気にせず食べちゃえ派だぞ。ティカちゃん。「味方がいない」って呻いているけど、私はいちおう味方では?
「なんでおまえらここで止まっているんだ?」
背後からぬっと現れたのは警備隊長さんでした。打ち合わせで時々会うのでさすがに覚えました。顔と体型と一応声を。名前? 警備隊長さんですよね?
「足が疲れたか? 距離はあるからな? それとも、魔力切れか?」
「人間関係の拗れねぇ」
隊長さんの気遣い込みと思われる問いにルチルさんがさらっと応えてひらひら手を振ります。
「あとおやつ休憩よぉ」
あ。
「隊長さんもどうぞ」
「ん? 腸詰か」
隊長さん、特に気にしたふうもなく受けとってもぐった。
こんなもんだよね。迷宮ドロップ品とはいえ食品だし。
美味しい腸詰あっつあつですよ。
「おい、ルチル」
「さっきのフロアで焼けた猪肉の腸詰よ。つまりドロップ品ねぇ。美味しいでしょ」
あれ?
美味しくないの?
なんか表情渋くない?
「つまり、葛の対策のおまけドロップみたいなものか。そうか。焼けば腸詰か。マーカス嬢」
「です」
「そうか。代金だ」
!?
「魔力もよく混ざった良い腸詰だった。ギルドの方に卸してくれればありがたい」
警備隊長さんって混ざってる魔力判別できるんだ。私わかんないからすごいって思う。
「えー! 警備隊で買い占めないんですか?」
ドンさんがイイ顔で頷く横でイゾルデさんが吠える。
ティカちゃんが寄ってきてお代を受け取った私の手を覗きこむ。
「小銀貨どころか、銀貨!」
え?
確認すれば確かに銀貨だ。迷宮内価格でよくない?
運搬代金が上乗せされるから町で高くなるのはわかるんだけど?
「銀貨だね」
たぶん、焼けば腸詰ドロップの条件を満たすという情報料込み価格だと思うけど。
「……うぅーっ。んっ! ネアから食品提供は今後受け付けないわ!」
はえ!?
なんか唸ってると思ったら!
なに言い出してるの?
ティカちゃん。一緒におやつ……一緒にごはん……え?
なんで……?
なんだかいろいろついていかないんです。
「え? どう、して?」
「だから、言ってるでしょ。分不相応な分配は……、え? あ? ちょっ!?」
あれ?
なんかティカちゃんが慌ててる?
「なんで、ネアが泣くの!?」
「だって、いっしょにごはん、おやつぅ」
泣いてる?
うん、ものすごく胸の奥が冷たくてクラクラするの。
【魔力制御を。感情を制御してください】
ん。落ちつこう。
そっか。私もティカちゃんのことが好きなんだね。
拒絶されたみたいでかなしくてこわかったね。
だいじょうぶ。ティカちゃんは私が好きだよ。
よかった。
私は臆病だけど、ちゃんとまだ私の中にいてくれた。
「よかった」
「よくないわよ! ちゃんとティクサーに帰ってからネアとハーブとは話し合うんだから、はぐらかすようなことワザとしたら絶交よ!」
ぜっ!?
「ちゃんとうちの両親も参加でやるから覚えておきなさいよね」
「一緒にごはん……」
「わかったって言っているでしょ。聞いてなかったの?」
ぇ?
あれぇ?
「ごめんね。ティカちゃん」
聞いていませんでした。とりあえず、ごはんもおやつも一緒でいいんだよね?
「なんだったんだ。子供か」
「十歳は子供よぉ。そぉでしょ。たいちょーさん」
ちょっとはなれた場所で警備隊長さんとルチルさんが親しげです。
あー。
ごめんなさい。お仕事中でした。
ごめんなさいをちゃんとして、隊長さんも同行するという報告を今受けました。
焼却の移動なので楽しくはないと思うんですけどね。後続にいるパーティも気になりますが腸詰差し出します?
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