第186話 クノシー伐採二日目4
戻ってきたイゾルデさんが伐採をしてはいないなりに剪定をされ心持ち広がった小道を呆れたように見回すのを静かに見守るネア・マーカスです。
「蔦の葉や蔓が絡まない引っかかることがないとずいぶん歩きやすいな」
イゾルデさんはドンさんよりは小柄ですが、比較的大きい部類の人ですから、高い部分からのしなだれ落ちる枝に普段苦労しているのかもしれません。もっさりと繁殖した葛の葉はものすごく枝をしならせており、跳ねると危なそうです。
足元を確認しながら落ち葉は滑るから気をつけるようにとイゾルデさんが注意してきます。
ここからは森の中を歩くので確かに要注意です。
枯葉も滑りますが青々した落としたての落ち葉も滑りますし、……ヒルの発見は遅れるでしょうね。
「迷宮入り口まで、早期に荷馬車が通れる道を作りたいところだが、無理でもこの位置まで荷馬車が通れて休憩所ができればすこしは楽だねぇ」
つまり、最終的にこの道にそって荷馬車が三台くらい停めることができる広場をつくりあげることになるんでしょうね。たぶん。
「ネア、伐採に使っている風の威力を目標の位置で落とせるかい?」
はぇ?
「森の中から街道に向けて風を放つんだ。街道を行く誰かを怪我させるわけにはいかないだろう?」
あ。
うん。人に怪我させるのはイヤ。
木を伐採するほどの風は当然生物もぶった斬る。怪我ですめば奇跡に近い。
「ま。街道手前にドンを目印に立たせて」
え?
だから、危ないっておはなしだよね?
「そこで威力を落ちるように放ってくれればいい。そうすればまず被害は身内で抑えられる」
え?
ぇえ?
イゾルデさんなにおっしゃってる?
「もちろん、次の風を吹かせる時は私が印になろう。はずさないように」
いや、コワイ。コワイんですけど、イゾルデさん。
え?
ドンさんもそれでいい感じなの?
本気?
ヤバくない!?
流血沙汰は私好みませんよ?
「ふふん。ネアがきっちり魔力を扱う技術を身につければ問題はないね。ティルケもそう思うだろ。ああ、大丈夫。ティルケを目印にはしないさね」
あーたーりーまーえー。
ティカちゃんを怪我させるかもしれないのはとてもイヤです。
ああ、本当にこれが問題。
「もし、威力が落とせなかったら?」
それは怖いことだ。
私の言葉を聞いたイゾルデさんはなぜかにんまりと凶悪に笑う。
「気合いと魔力で魔力は相殺できるんだよ。当てにきたってかまやしないさぁ。な。ドン」
「ちょいとした力試しかねぇ。一応鎧は身につけることにするよ」
する前提で笑ってないでぇ!
必死に調整した一回目。
目印のドンさんがいる手前で風が霧散。金属鎧でのっしのしとドンさんが追いついて状況を教えてくれました。
「伐採としては問題ねぇがもう少し広めでもいいかもな」
イゾルデさんがここから先はまだ進行禁止と書かれた木の看板をぶらさげた紐を道に渡す。看板には鈴がついているのはこれも目印なんだと思う。
看板からざくざく直線に進んだイゾルデさんが楽しそうに立ち止まる。
「じゃ、行くか。二人とも」
「しっかりぶっ倒すつもりで風をぶちかましておいで!」
むちゃくちゃ楽しそうなんですけど!
下手をうてば人体切断なんですけど!?
私が切断する予定はあくまで木と葛なんですけど!?
私が不愉快、不満を示しているのが楽しいのかイゾルデさんがにやつきますよ。
「さっきはドンの手前にも至らない場所で風が霧散したらしい。だから、数本の木をドンが伐採してこなければいけなかった。さて、私は何本の木を伐採することになるのかな?」
「イゾルデ」
すこしとめる感じのドンさんにもイゾルデさんはにんまりとイヤな感じです。
「ああ。わかっているさ。冒険者の見習いになったばかりの女の子だ。力を使うのは怖いものな」
怒らせたいんですかね!?
「だいじょうぶ。安心するといい。このあたりの木々も細い。鉈で十分打ち払えるさ」
怪我をさせたくないだけなんですけど!?
これだから戦闘狂って理解できないんだよね。
『アルジ、エリアボス蛇ガ、潰ス?』
エリアボス蛇はイゾルデさんを潰そうとしないでくださいね! 待て。ですよ。待て!
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