第10話 我、エリアボス蛇である。
我、エリアボス蛇である。
壊死していく迷宮の残滓。多くを巻きこみ自壊を待つ場所にアルジは救いの手を差し伸べた。
そしてそこを統括するべきボスとして我、エリアボス蛇はうみだされた。
すべき事は失われた前の迷宮の残滓である魔物らのせん滅。新たな迷宮核を得てこの迷宮を守っていくのは我らである。
割り振られた界隈には水溜まり程度の水を含む泥土の土地。
我らとともに降り込まれた蛭がずるりと土中に潜っていく。もともと生えていた枯れかけの雑草が萎びきり魔力草が広がる。樹木も元からの細い枯れ木を倒木にしながら『林檎』と『栗』の林が育っていく。
最初の獲物は野鼠だった。
新しく齧ることができる樹木の存在を感じて出てきたのであろう野鼠は僅かに我の体長より小さい。いや、尻尾の先まで含めれば長いかも知れない。
それでも抵抗する力を奪ってしまえばただ喰われるための肉であり、魔核でしかない。
蚤と蛭に血と魔力の多くを奪われた後の出涸らしではあるが足しにはなるし、数があればなんとでもなるものである。
野鼠の合間に魔力草を齧り、走り回る栗鼠や兎を時折り捕食する。まずは戦力の増強。
自身の成長。そして個体数の増量。樹木から採れた果実をすこし遠いところに運ぶことも忘れない。
我は新たなこの森のボスでありアルジの忠実な僕なのだ。
痩せ狼達を問題なく狩れるようになればずいぶんと魔核も集まるようになる。
蛭も蚤も増えるし、個体強化も進む。
我も配下が増えた。
アルジが我を「エリアボス蛇」と呼んで褒めてくれる。アルジから受ける受容の感情。我はアルジのため強くなり、アルジが快適に過ごせるように迷宮を維持する。
強くなるには魔核を摂取するべき。
アルジも魔核を摂取するべき。
それより肉だろうか?
アルジが旅に出る。
知識を増やすために。
アルジの仮住まいは薬草園の結界に閉ざされた。
正式な森の入り口も薬草園の中に組み込まれている。
森の中にいくつかの裏口は存在する。
ひどく遠回りだが裏口からも迷宮核に辿りつける。
他の迷宮から生み出された魔物は他の迷宮では弱体化する。しかし魔核は本来の高純度。己が強化にも環境強化にも使えるであろう。壊死していく迷宮残滓の狼や猪熊よりも他の迷宮であふれ出るほどに育った魔物はここに辿り着くまでに弱体化しそれでいて魔核は本来以上に異常化している。実に旨味が強かった。
我一割、森の迷宮核に二割、薬草園の迷宮核に三割、残りをアルジの取り分として倉庫に詰める。
え。
エリアボス蛇は我の個体名ではない……だと!?
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