第8話 タガネさん
私はネア・マーカスです。
目の前にいるのはタガネさんです。
茂みに埋もれた荷馬車を解放したタガネさんは焚き火場所を確保していた私を褒めてくれました。
そのあとは私の所持品確認です。
冒険者としてのカード。身分証でもあるので大事です。
マコモお母さんが持たせてくれた荷物袋。冒険者ギルドに仮登録した日に贈られた物だ。
中には今まで採取した薬草のあまりや着替えちょっとした非常食、ナイフに縄、木の枝。木をくり抜いてつくられたコップ。それと小銭が少々。
マコモお母さんが朝慌しく詰め込んでくれていたらしい。マオの好む根野菜を蒸したおやつも入っていた。
「お母さん」
「うわ、泣くなよ。オッチャン困るから泣くなよ?」
わたわたとおおげさに動くタガネさんの姿にこぼれかけた涙も引っ込む。
というか、ステイ! エリアボス蛇!
アルジ、イジメられてナイ!
念話的にエリアボス蛇をなだめつつタガネさんにも笑顔をむける。
「ちょっとうるっときちゃいました」
「あー、まーなぁ。覚悟あっての旅立ちやあらへんもんなぁ。ひとしきり泣きぃって言ってやりたいけど、オッチャンが対応に困って泣きそーやからネアちゃんががんばってなぁ」
泣くなということらしい。
「んで、焚き火に火ィいれれる?」
「はい」
マコモお母さんに簡単な魔法は習っている。
まずは荷物袋からナイフを取り出してエリアボス蛇が集めてくれた枯れ枝に切れ込みをいれる。乾燥させた虫除けの葉を積んである枝の下に突っ込んでから魔法を使う。
滅多に使うことがないからちょっと動悸がはやい。
「とーち」
集中して火が枝を燃やす姿を思い浮かべ、魔力をのせて発動の言葉を音にする。
パチリと軽い音をたてて枝に火がつく。
成功!
「お。うまいうまい。ちょー刈った蔓積むけど気にせんでなー」
刈った蔓。荷馬車を茂み化させていた葛です。
荷馬車の車輪部分にすら絡んだ蔓に草刈り鉈をふるうタガネさんは大変そうでした。荷馬車をひいてたであろう生き物が見当たらないのは不思議ですけど。
荷物袋を整理しながら火がうまく消えないように様子をうかがう。
エリアボス蛇が貢いでくれた食材はタガネさんに見つからないようにしまった。
「ネアちゃんは他にはなにができるん? お水出したりとかできるとオッチャン面倒少なくて嬉しいんやけど?」
タガネさん、かなり正直者さんのようです。
「すこしだけお水出せます」
「お! ええね。今鍋出すからお水入れといてくれる? こっちの処理終えたらかまどなんとかするね」
そう言ったタガネさんは荷馬車にもぐって深鍋をひとつ出し、私の前に置いた。
「かるくすすいでからお水ためといてくれるとオッチャン嬉しい」
私はもちろん頷いた。
タガネさんは自分で自分をオッチャンと言うけれどそこまで年配には見えないけれど、おにいさんと呼ぶには確かにおじさんなのかなとも思う。
とりあえず洗浄魔法はよくお母さんの手伝いをしたので得意です。
キレイにしてからお水をためる。
魔法で出すお水は実際には存在しないこともあるけれど、それは発動させる時に選択できる。
飲めるお水をためるのです。
「おー。ちゃんと出とるなぁ。地域によっては水売りして生きていけるな。飲み水出せるんはえらいぞ」
褒められているようで嬉しい。
水をためながらタガネさんをみれば、蔓を選んで編んでいるようだった。
「あ? ああ。なんかに使えるとええなって思うてな。使い捨ての縄は意外と使えるんよ。あとは簡易寝床やね。ウンザリなほど量はあるしなぁ」
視線に気がついたタガネさんが教えてくれる。
縄にした蔓で集めた蔓をまとめていくつかの塊にしたタガネさんは魔除けの魔塚のひとつによっていく。
「おし。この窯は使えるな。水はいい感じかいネアちゃん」
「このくらいでいい?」
魔塚は窯?
「お。思ったより早い早い。ええ感じやわ」
軽々深鍋を運ぶタガネさん。
「こんだけ水量があればすこし干し肉多めでもイケるやろ。任せときー」
ふんふんと鼻歌交じりにご機嫌だ。
「きのこと干し肉で出汁とるでー。窯ん中薪乾いとるわ。ネアちゃん火ぃついた枝持ってきてー」
野営地を立つときには火を消した窯に次のための薪をつっこむのだとも教えてくれた。
「お湯になったら呼んでーな」
タガネさんはそう言って野営地の整備をはじめた。
ひらけた場所を維持するためだろう。周囲の草や低木を刈り、地面を踏み固めたりしている。
枝は薪に良さそうな長さに切り揃えている。ものぐさな印象なのに意外と手間を惜しまない人らしい。
アッファスお兄ちゃんはいないし、特に会話があるわけじゃないけれど二人でも居心地の悪い時間ではなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます