第7話 新しい保護者

 私はネア・マーカス。

 ここは知らない場所。

 顔に感じるぬくもりはアッファスお兄ちゃん。

 アッファスお兄ちゃんにおぶられて移動中のようでした。

「お。起きたんか。巻き込んで悪かったわー」

 知らない男の声。聞くのは二回目だろうか?

「あ! ネア。どこか痛いとか気持ち悪いとかないか?」

 心配そうなアッファスお兄ちゃんの声。

 とりあえず状況がわからない。

 気分は、うん。悪くない。

 痛いところ、うん。この状態では特にない。

 地面に立ってるわけではないので足を痛めていたらわからないかな?

「うん。たぶんだいじょうぶ。ここ、どこ?」

 マオちゃんは……。ああ、一緒のはずがなかった。祈りの間で尼僧様に撫でてもらっていたから私はアッファスお兄ちゃんにひっついていたのだから。

 妹をとられた気分と久しぶりにいてくれるお兄ちゃんに甘えておきたい気分だったから。

「そっか。あのな、ネア。しばらくティクサーの町には帰れないんだ。だからグレックさんにもマコモさんにもマオちゃんにもしばらく会えないんだ」

 うん。そうなるねぇ。

 尼僧長様結界がんばったから戻っても町に入れないし。

「ここはねぇ、ティクサーの町から一日半くらいはなれた王都へ向かう街道だよー。もうすこし行ったら野営地があるからねー。行動指針としてはまず王都に向かうよー」

 知らない声がここが何処かを教えてくれた。

「あっちゃんも、まずここ何処かを教えてあげなきゃダメじゃん」

「あ!」

 知らない男の声がそう言うとアッファスお兄ちゃんが今気がつきましたとばかりに声をあげた。

 あっちゃんってアッファスお兄ちゃんのことなんだ。

「ごめんな。ネア。おれも慌ててたみたいだ。おれ、ちゃんとネアのこと守るし、ちゃんとティクサーに連れて帰ってやるからな」

「うん。ありがとう。お兄ちゃん」

 そう言って私はお兄ちゃんの後ろ頭に額をあててぐりぐりとした。親愛と信頼をこめて。

「んでさー。このオッチャンはタガネさんでっす。ちょーっとの間おふたりさんの保護者になるんでよろしゅーなぁ」

 ずるんずるんの布を巻きつけたまるで道化師のような男が私の顔を覗きこんで宣言した。

「ネア、ネア・マーカスです。物知らずですがよろしくおねがいします」

 よろしくと言ってから手を握るにも頭を下げるにも向いていない姿勢であることに慌てた。

「お兄ちゃん、おろして。起きたからちゃんと歩く」


 ちゃんと顔を合わせてよろしくをして野営地まで歩く。

 街道だというのにずいぶんとけもの道っぽい。

「行きよりずいぶんとつる植物が元気やノォ。敵性魔物をまとめとるみたいやけ魔物同士もナワバリあるんやノォ。つか野営地無事やったらええのお」

 無事に野営地にたどり着いた。

 タガネさんは野営地にたどり着いたとたん、大慌てでこんもりとした茂みにつっこんでいった。

「あっちゃん、ちょーぉ狩り行って肉とってきといてー。しばしネアちゃんはおとなしくしといてなー」

 野営地は街道からすこしはなれたひらけた場所。微妙な位置にいくつかの石で組んである塚がある。


【魔物避けの魔塚です】


 ありがとうございます。天職の声さん。

 マコモお母さんの話ではこういう野営地には火を使うために用意された場所が数ヶ所あるはずだ。きょろりと見回すとずいぶん緑に侵食された石でつくった円があった。

 植物が近い。

 蔓植物がしゅるりと後退していく。

 残ったのは乾いた木切れが重なり入った石の円。傍には硬い殻に包まれた胡桃と緑の莢がきれいな豆。

『アルジ、林檎モ、イル?』

 茂みからこそっと顔を出したのはエリアボス蛇であった。

 こそこそと薬草の類も積みあげられている。エリアボス蛇からの貢ぎ物だ。


【ここは『森』の影響範囲ですから】


 嬉しそうなエリアボス蛇に私はにっこり笑ってありがとうと伝えた。

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