第5話 混乱

 私はネア・マーカス。

 冒険者(見習い)にして迷宮管理者(新人)である。

 今、教会に連行され中です。

 手を引いているのは二年前「おれ、つよい冒険者になるんだ」と言って町を出たアッファスお兄ちゃんです。ゆうべうちにお泊まりしたお兄ちゃんの話を聞く限りでは荷馬車護衛というか雑用ばかりの二年間だったようです。なにはなくともお兄ちゃんが生きていてよかったと思います。

 お兄ちゃんのあいているもう片手にはマオが抱き抱えられています。

 子供達は教会に隔離なのです。

 なぜかと言えば迷宮からあふれた魔物がその国を蹂躙しその余剰魔物がうちの国に流れ込んできて被害甚大。はぐれた魔物の群れの一部がこっちの方にも流れてきているらしいというお話でした。結構すごい移動力だと思います。

 まぁ十年前までは迷宮を持ち戦力という意味では古参兵が一騎当千だったりするので討伐自体は問題はないらしいです。

 念のための防衛戦と避難です。

 ティクサーの教会では尼僧長様が迎えてくれました。

 このティクサーの町にいるのはすこしの警備隊とすこしの冒険者(ほぼ引退者か初心者)身に不具を持つ者(軽い動きはできる)である。

 十年前は違ったらしいがふたつの迷宮が失われてからは衰退が進むばかり。『強い』魔物が流れてきてしまえば抵抗できる力が十分にあるとは言えない町だ。

「さぁ。子供たち奥の祈りの間へ急ぎなさい。アッファス、貴方もですよ」

 キビキビと指示を飛ばす尼僧長様によって私たちは教会の最奥『祈りの間』に押し込められました。

 祈りの間の中にいるのは町の子供達。冒険者と言っても見習いな若手。(アッファスお兄ちゃんと同年代)それでも三十人もいない。

 この町こんなに子供いたのかとも思いつつ。

 閉ざされた祈りの間で尼僧長様がお話をしてくれることになりました。

 天職について。


 人にはそれぞれひとつ天職がある。

 それは気がついた時から『そう』と知っている。

 それを目指すも目指さないも自由であるし、人に話す話さないも自由だと。

 そしてそれは理解の及ぶ職であるかどうかもわからないと。

 町人に生まれて天職は『姫』であった少女は学業に励み王国の王子にみそめられ嫁いだ。

『戦士』という天職を与えられた少年は武も魔術も秀でず、されど政務に就き王を助けた。武のみが戦士にあらず。在り方はそれぞれなのだと。

 天職を知るのは自身で有り、天職を目指すことは自由である。

 それでも人の多くは天職にたどりつくと締められた。


 呪いですかね?

 私も天職についてはいるんですけどね。

 天職についてから落ち着きのないばたばたの連続な気がします。

 呪われてますね。私の天職。


「魔物が攻めてきています。私の天職を使いあなたたちを守ってみせます」


 尼僧長様が魔物の核を持って微笑みます。

 魔物の核はいろいろな魔道具に使われたり、魔法の発動に使われたりします。今回は後者が目的だと思われます。

 子供たちは自然と座って目を閉じ祈りの体勢をとります。


「アッファスはコッチな」

 聞き覚えのない声。手を引かれたのはアッファスお兄ちゃん。マオはちょうど他の尼僧様に抱かれていた。

「我が天職。迷宮守護者。かつて迷宮のありし地において我が願い通らんことを。迷宮の残滓よ。我らが町の子らを守りたまえ!」


 尼僧長様の声が響く中、私はアッファスお兄ちゃんの手に掴まっていた。

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