第3話 売れない薬草はごはんです

 私の名前はネア・マーカス。

 表家業は冒険者見習い、天職は迷宮管理者である。

 ちなみにいまだ十歳のお子様である。

 迷宮『森』を支配下にして薬草園に送り返され心配したお父さんの腕で意識を無くしその後、意識を取り戻したのは自宅で、暖かいオレンジ色の狐耳が素敵なマコモお母さんにひどく嘆かれた。

「待っててね。ネア、痩せ狼達なんかお母さんがせん滅してみせますよ。ええ、ええ。もう怖い思いはさせませんよ」

 いや、待って。お母さんの反応の方が怖いから。

 お母さんは魔法士である。

 妹のマオが産まれた頃から魔法を使う魔力が戻ってきたとかで身体に不具があるなりに生活に不自由なく過ごしていた。

 素早い移動が可能なら冒険者として大成するはずである。動ければ。

「マコモ。狼の皮や魔核はティクサーの数少ない収入源だ」

 お父さんがお母さんをそっと宥めにかかる。

「うやむやに逃したりで半端に間引くから舐めた狼が襲ってくるのでしょう! 人的被害を出してるんですよ!」

 そして母に押しきられる父はどこか嬉しそうなオーラを漂わせている。ギルドの事務員とはいえ元は警備隊で副隊長にまでなったような武闘派である。マオを抱きしめる時は注意していただきたい。

「かわいそうなネア。怖かったでしょうに。理解のないお父さんね」

「お父さんにはすごく心配させちゃったと思っているよ」

 お父さんをフォローせねば!

「お母さんだってすごく心配だったわ!」

 ぴくぴくとオレンジの狐耳が震えている。

「お母さんお父さん、ありがとう」

 すごく嬉しい。でもお願いだからそこで張り合おうとしないで。お父さんにとってはにまにましちゃうご褒美でも私はものすっごく困るから。

「任せて。ネア。森を焼き尽くしても狼どもをせん滅しますからね」

「違うから! 心配されて嬉しかったの! あぶないことして欲しくないし、お母さんが森を焼いたらお父さんも困るし、まだ小さなマオだってこの町で肩身が狭くなっちゃうでしょ!」

 その後、私のおなかの虫が鳴くまでお母さんをお父さんと一緒に説得するハメになった。


「ねーね、まおサラダきやい」

「うん。おやさい食べようねぇ」

 はちみつ色のおかっぱ頭のてっぺんにはマコモお母さんと同じ狐耳。透き通る琥珀色のお目々。きゅっとフォークを握るモミジのおてて。妹は正直なところ天使だと思う。狐っ子だけど。

 薬草園で摘んだ規格外の薬草を使った葉っぱサラダ(ちょっと苦い)である。

 森に甘芋とか配置したら採集できるかなぁ。

 獣臭い保存肉のスープに青臭いサラダをつっこんでマオの口元に持っていく。

 涙の滲んだ目で差し出されるスープのスプーンを咥えるマオはとてもお利口でかわいい妹である。

 この日、冒険者見習いとしてはお片付け仕事が多いであろうと想像はつくのに心配症を発症した両親によって午前中いっぱいは外出禁止を食らったのである。

「稼ぎ時ぃ」

 いつものことでもあるので諦めてたっぷりと妹を甘やかして過ごす。思考の片隅で創生可能リストをめくりながら。

 目次に『設置可能リスト』が増えている。

 小項目は

 植物

 鉱石

 地形

 だった。

 植物は森の現在植生が。鉱石は普通の石、大岩、鉄石。琥珀、水晶、瑪瑙。地形には沼とか岩塩層だった。

 岩塩層かぁ。お塩高いからなぁ。採れると町が豊かになるんだろうな。

 創生可能リストも生物系が増えていた。

 鳥とかトカゲとかウサギとか栗鼠とかである。

 見たことのある物は絵が添えてあるが見たことのない物は名前だけで形状は載っていない。

 名前だけのものは創生コストがやたらと高い。ウサギ一匹創生するのにエリアボス蛇の三倍の魔力コストがかかるのはキツい気がする。

 生物の食物連鎖が問題なくまわるように生態系は配置すべきなんだろうな。

 リストを眺めていると小型生物系のページには小さく『ウマイ』『ノミニクイ』『カライ』『ケガウザイ』というコメントが記載されていた。エリアボス蛇?

 エリアボス蛇は集団(蚤と蛭とまだ一晩なのに増えている。あと部下の蛇達)で狼や猪を狩れる。

 人も狼や猪を狩れる。

 人が蛇の生息域に近づけば数回のアタックでエリアボス蛇が狩られてしまう可能性があるということだ。

 よく理解していないがエリアボス蛇が倒されるのは『やばい』ことだとだけはわかる。


【迷宮核を育てましょう】


 天職の声きました。


【迷宮核を失った迷宮は数年かけて壊死していきます。復活に必要なものは魔力を蓄積する核となります】


 まって。

 水源とか山とかも森と同じ表記だった気がするんだけど? 森が三年の猶予なら他は?

 水源と山……。

 ティクサーの町だいじょうぶじゃないんじゃないかなぁ。

「迷宮核って魔物核と同じようなもの?」

 魔力は基本固定化しないそのへんにあるけれど霧散しやすいもので例外が魔物の体内でうまれる魔物核。魔石だ。弱い魔物の魔核はすぐ壊れる脆いものだが強い魔物の核は頑丈で人が利用することもできる。


【はい。同様のものであり、より高出力となります。迷宮核を大型攻勢魔法の導力とする魔法士も存在します】


 失われた三つの迷宮核。

 滅んだっぽい隣の国。

 嫌な感覚しかない。

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