第13話 黒幕の影

「ふぅうう」

 俺は暢気な声を出して一息付く。


 俺が今居るのは防衛部隊と支援部隊が待つ、門の付近だ。

 俺の近くに居たゴブリンは『鳳剣』によって一掃した後、高くなった敏捷で一気に逃げて来たので追いかけてきてる奴はいない。


 退避して来たものの、俺のHPは緊急鍛錬の報酬によって全回復しているため、支援部隊のお世話になることはない。

 発生した緊急鍛錬が全て終わったことと、一気に変化したステータスを確認するために一度戻ってきたのだ。


 とりあえず遊撃部隊の判断を任されている責任者の人に、俺が一時後退したことと俺の担当エリアの報告は済ませたのでステータスの確認に移ろう。


 ――――――――――

 年齢:15

 レベル:19(+6)

 HP:605/605(+210)

 MP:195/345(+130)

 力:105(+54)

 耐久:87(+48)

 敏捷:78(+45)

 技術:80(+45)

 器用:69(+42)

 魔力:63(+41)

 抵抗:67(+42)

 ギフト:修行 英雄の卵

 スキル:『剣術Lv6(+1)』『体術Lv5(+1)』『毒耐性Lv1』『回避Lv4』『不屈Lv2』『集中Lv4(+1)』『魔力操作Lv1』『剣技Lv1』『予測Lv2』『鳳剣Lv1(New)』

 称号:【強敵殺しジャイアント・キリング

 ――――――――――


 一気にほとんどのステータスが倍以上に上昇していた。


 英雄の卵――ギフト。成長が早くなり、成長度合いに合わせて能力値が上がる。(獲得経験値上昇&全ステータスLV*1上昇)


 このギフトのおかげで全能力値が19上がっているってわけか。それに加えて〈ゴブリンを百体倒す〉と〈格上を倒す〉の報酬によって11上がっているわけだから、鍛錬報酬だけで30は上がっている計算になる。

 緊急鍛錬を出しているのが何者なのかは知らないが、神様様だな。


 そして新たな鍛錬も……


 そう考えて鍛錬メニューを開いた俺は驚愕する。

 灰色の文字になっているものが一つもない。


 報酬の全回復というのは、鍛錬の消化済メニューのクールタイムも含んでいたらしい。


 そして、新たに追加されたメニューはたったの一つ。

〈中級鍛錬〉

 ・週替わり ダンジョンを攻略する1つ 報酬:任意の能力値10


 これも驚愕だ。増えたのが1つだけというのもそうだが、ダンジョンの攻略なんてそんなすぐ出来るものでもないだろう。

 週替わりらしいので出来なくても変化はするだろうが、この難度の鍛錬ばかりだったら中々キツイな。これまでの鍛錬が容易にクリア出来ていた分、吃驚だ。


『任意の所持スキルをレベルアップ可能です。選択してください』


 っとと。これを忘れていた。


 急かされているのか、メッセージがもう一度流れたことで思い出す。


 ん-、どれを上げようか。


 俺が持つスキルの中で最もレベルの高い『剣術』を上げて長所を伸ばすか?


 実際の戦闘時に重宝している『回避』を上げるのも良いだろう。これだけじゃないが、回避系スキルの有用性は俺が実戦を以って体感している。


 汎用性の高い『集中』も魅力的だ。攻撃時にも回避時にも勉強時にも使えるからな。全体的な影響力ではこのスキルは群を抜いているだろう。


 それか、『魔力操作』のレベルを上げて急いで魔法スキルを手に入れるのも面白いかもしれない。


 必殺技として有用な『剣技』や攻撃範囲に優れる『鳳剣』もいいな。


 なんていろんなパターンを考えてみたものの、選ぶスキルは決まっていた。

 スキルのレベルを一つ上げるのに必要な労力は平等ではない。レベルが高くなればなるほど上がりにくくなるし、強力なスキルであればあるほど同じレベルでも上げ辛くなる。


 今の状況を含めて考えるとこのスキルが最適なはずだ。


『スキル『鳳剣』のレベルが上がりました』


 レベルこそ低いものの、このスキルは俺が今持っているスキルの中で最も強力なものだ。体感だが。

 現状は雑魚狩り専用みたいなスキルではあるが、レベルを上げていけばそれも改善されるかもしれない。

 それに、効率のいい雑魚狩りスキルは『ゴブリン大氾濫』という現状において最も重宝するスキルだ。

 強力なボスタイプのモンスターは俺じゃなくて、他の冒険者がやってくれるだろうし。


 問題は他の冒険者からしてみれば普通レベルのモンスターすら俺にとってはボスクラスということだが。

 それもさっきの戦いで強くなったことで多少は改善されていると信じたいところだ。




 ステータスの確認も済んだしそろそろ戦線に――


「――助けて! フェデルが息をしてないんだ!」


 戦線から退いて来た冒険者が支援部隊に助けを求める声が聞こえて来た。


 それは、門を出る前俺に話しかけて来た冒険者だった。

 女性に背負われた男は体中から出血しており、右腕なんかは。断面を見た限りだと剣を使うゴブリンにやられたらしい。



 俺は回復能力を持たないので何もすることが出来ないが、フェデルという剣士を抱えて来た弓使いの女性の話に耳を傾ける。

 今は遊撃部隊の責任者と話しているようだ。つまり、彼女の報告如何によって俺の行先が変わるかもしれないという話。



「私達の担当エリアは南4エリアだ……最初はそのほとんどが雑魚で、偶に準C級が現れる程度で問題なく対処できていた。

 しかし……急に転移してきた10体を超える準C級と一体の将軍ジェネラルに包囲され……フェデルは重傷を負ってしまったんだ……私はなんとかフェデルを回収して逃げて……来た……」

「何、転移だと!?」


 俺と同じように耳を傾けていた冒険者が驚きを露わにする。

 当然の反応だ。ゴブリンというのはただでさえ魔法適性が極めて低い種族だ。それが、魔法の中でも最上級に位置する『転移魔法』を使用したなど到底信じられない話だ。

 であるならば、ゴブリンの裏に居る『何者』かの存在が疑わしくなってくるというのも自然な流れ……なのだが今はそれを置いておくとして。


 敵が転移を用いてくるということは、遊撃部隊が進退を繰り返して戦線を維持する意味が薄れることは間違いない。

 街を囲う防御壁には結界も張られているため、直接中に転移されることはないだろうが、門前に急に現れる可能性は十分に考えられる。


 そうなれば高位の冒険者を前線に配置している現状では十中八九、街を守り切れないだろう。


「どうすればいいですか?」


 俺は率直に、遊撃部隊の判断を任されている人に判断を仰いだ。


「……そうだな。フィオナ、悪いが南エリアから回って行って門を視認出来る範囲まで戦線を縮小する旨を伝えてくれるか? この中で最も素早いお前に任せたい。戦闘は避けて伝達を優先してほしい」

「わかった……フェデルのことは此処に任せる」


 そう言って弓使いの女……フィオナは駆けだした。速い。


 戦線を縮小するという事はそれだけ敵の密度も上がり、物量でゴリ押されるリスクが増すことを意味する。

 逆にこちらも範囲攻撃を喰らわせやすくなるというメリットも発生するが、どちらの犠牲も一気に増えるので援軍を待つという当初の目的を果たせなくなる可能性が高い。

 それを理解した上でも敵が『転移魔法』を使うというリスクは許容できる物ではなかったということか。

 前線が戦ってる間に実は街は滅びてました。なんて話が十分にあり得るわけだからな。


「他の者達はこの辺りで待機……もし敵が転移してきた場合は戦闘。来なければ退いて来た者達の援護に回ってもらう」

「「了解!」」


 ……待機か。

 敵が転移を用いてくるならば今すぐに現れるかもしれない。いや、俺は魔法に詳しくないから正直なところ分からない。溜めが必要なのかもしれないし。


 まあ、どちらにせよ今はまだ現れていない。俺は出番が来るまでの間、今できる鍛錬を消化することにした。

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