side ガザード(1)
《B級冒険者ガザード》
「――最悪な展開だ」
ギルドから連絡を受けた俺はその日のうちにゴブリンの森の調査に赴いた。
何でも、昨日冒険者になったばかりの新人が大量のゴブリンと二段階進化した上位種に出会ったそうだ。
その下のホブもそこそこ居たらしく、異常事態の原因究明が俺の仕事となった。
話を聞いた時、俺は甘く見ていた。明らかな異常事態とはいえ、B級冒険者である俺なら対処できると。ホブやジャイアント如き、赤子の手を捻るより容易いと。
だから森に入り、目に付いたゴブリンは片っ端から掃除していった。初めは上位種どころか通常種とすら出会わなかったが、中層に差し掛かったあたりから一気に数が増え始めた。一度に数十体の通常種に十体前後のホブ、数体のジャイアントが居る集団を何度も見かけた。
その度にその集団を一掃し、奥へと進んだ。
その程度で済めば、俺にとって大した脅威ではない。だが、ゴブリンという種族の性質上、これだけの数のゴブリンが居て、更なる上位種が居ないなんてことはあり得ない。
その推測は見事的中し、二体の
近くには他にも下位のゴブリンがわらわらといる。
これが親玉か……? コイツを殺せばこの災害は未然に防ぐことが出来る。
コイツらが普通に暴れれば、あの街は滅亡する。
フィアちゃんの話では、今あの街に居るB級以上の冒険者は俺一人だと言う。危険度B級の
俺も正面から戦えば死ぬのは間違いない。
アイツらが一緒だったら話は変わるが、今居ない者の事を考えても無意味だな。
故に、俺はスキル『隠密』を使い、
一撃必殺。俺の最大火力を誇る一撃を
「――【
神の名を冠した俺の『ギフト』による一撃。
俺の最大MPの半分が失われるため連発は出来ないが、その瞬間火力はA級にすら匹敵するだろう。
「――ッッッ!!!??」
奇襲は見事成功し、王は声にならない声を上げる。
攻撃の余波で周囲に居た
直撃を喰らった王だけがその場に倒れ伏している。だが、まだ息があるようだ。
「――隙は与えねえぜ、【強撃】!」
久々にレベルアップの通知が頭に鳴る。
無防備な背中に俺の最大火力を叩きこめば、準A級の魔物すら苦戦せずに殺せることが今証明された。
まあ、ゴブリン
――あと二体。
目下脅威となる
これを叩かないほど慢心していない。
片方の
が、
――ガキンッ。
既に臨戦態勢となった将軍にはこの一撃を防がれてしまう。
背後には将軍Bが迫ってきている気配を感じる。
めんどくせえ。
俺は身体を回転させて将軍Aの横腹に蹴りを叩き込み、背後に迫ってきた将軍Bに剣を振る。
防がれるが、俺は止まることなく連撃を叩き込む。
それによって将軍Bは防戦一方となり、邪魔をしようとする将軍Aの攻撃は気配を元に躱し、Bへの攻撃は緩めない。
片方をまず集中的に潰す。一対一なら幾らでもやりようはあるからな。
ゴブリン
剣を交える毎にコイツらの癖が読めてくる。そうすれば隙を突いてコイツらに深手を負わせる算段が付き、勝利が目前まで迫って来る。
そんな時だった。
「――ッ!」
俺は大げさに飛び退く。
これは、それまで躱し続けていた将軍Aの攻撃ではない。
「なんで王がまだ居るんだよ」
俺は毒づいた。
確実にあの王には止めを刺した。それはレベルが上がったことが証明している。
いつの間に近づかれた!? クソっ、将軍との戦いに気を奪われすぎたな。こんな奴の接近に気付かないなんて。
間一髪で躱せてよかった。
だが、
「てめえらを正面から相手して勝てるわけねえだろ」
目前にまで迫っていた勝利が、目前にある敗北へと切り替わったことを感じさせる。
俺の判断は早い。これでも冒険者として長い間活動してるからな。
「【強撃・爆】!」
俺は剣を地面へと振り下ろす。
俺を中心にして数十メートルは巻き上がった土煙によって視界が奪われる。
俺はそれに合わせて『隠密』を使い、気配を隠して街の方へと全速力で走った。
無理だと思ったら即逃げる! これ冒険者の基本な。
この時、新たな王が現れた理由が転移という発想に至らなかったのはゴブリンが転移を使うはずがないという先入観。
将軍達との戦いに意識が奪われていたためその他への注意が散漫になっていたからだと言う納得。
それらが合わさって俺はその重要な情報に思い至ることが出来なかった。
◇
「もしもーし、聞こえる?」
ある程度距離が離れ、奴らが追ってきていないのを確認した俺は携帯している通信用の魔道具でギルドに連絡する。
ちなみに携帯可能なサイズまで小型化された通信用の魔道具はかなり高価で、維持費も相当かかることから、B級冒険者でも持っている者は少ない。
『――はい、聞こえていますよ、ガザードさん。調査の方はいかがでしたか?』
通信に出てくれたのはフィアちゃんだった。ラッキー。
「まあ調査の甲斐はあったんじゃねえかな。
『ええ!? ゴブリン
フィアちゃんが良いリアクションをしてくれる。
俺はそんなフィアちゃんの様子に癒されつつ、全く癒されない報告を続けた。
「俺が確認したのはその他に将軍二体と王一体。倒した奴とは別でな。流石にヤバそうだったんで逃げて来た」
『なっ……』
フィアちゃんは驚いて絶句、といった感じだが、俺は続ける。
「他にも下位の種が大量に。もしかしたら他にも王や将軍が居るかもしれない。まあ少なくとも今の街の戦力で対抗できる戦力差じゃねえわな」
『……ギルドマスターに報告してきますっ!』
フィアちゃんはそう言うと、通信を切ることもなくどこかへ消えて行った。
通信の維持にも結構馬鹿にならない費用がかかるし、こっちから切っておくか。
また何かあれば向こうから連絡があるだろう。
俺は森の浅い所で奴らが来たらすぐ分かるように待機しつつ、『瞑想』を使い失ったMPの回復にでも務めよう。
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