第6話 強敵殺し《ジャイアント・キリング》


「てめえ、何しやがった」

 嫌な予感がした俺は、目はゴブリンの上位種を捉えたまま、周囲に意識を向ける。


 ――ザ……ザ……ザッ


 足音だ……それも結構多い。

 まだそれなりに離れているが、直にここに到着するだろう。


 こいつ相手に持久戦にもつれ込んだが最後、ゴブリンに包囲されて最悪の展開になりかねない。というかなる。


 状況を整理しよう。

 今の俺には選択肢が二つある。

 まず一つ目が、こいつと戦っているうちにゴブリンに包囲され、そいつらも合わせて戦う事。

 そして二つ目が、逃げる事。


 そう、逃げれるのだ。

 こいつが仮に追ってきても、今の俺なら攻撃を避け、逃げることが出来る。

 そして、逃げた先に冒険者が居れば、そいつらと共闘して戦いを有利に進めることが出来るかもしれない。

 こいつが追って来なければ冒険者ギルドに報告して討伐隊を編成すれば済む。

 昨日試験官をしていたガザードのおっさんの実力なら、こいつを正面から屠ることも容易だろう。


 今はどう考えても異常事態だ。上位種の出現もそうだが、単純にゴブリンの数が多すぎる。

 既に50体近くは倒しているはずなのに、まだ更に集まろうとしている。

 昨日の冒険者が言っていた上位種も含め、この森で何らかの異変が起きているのはまず間違いない。


 F級冒険者としての最良の選択はこの異常事態を迅速に報告し、対処する能力がある冒険者に任せる事。



 だが――

「てめえはここで殺すと決めた! 力が足りないなら今ここで限界を超える!」

『スキル『不屈』が手に入りました』


 上位種に向かって駆ける。


「――はっ! デカい図体の割に得意なのは逃げ回ることか!?」

 再び距離を取ろうとしたゴブリンを嘲笑し、煽る。

 ゴブリンが人間の言葉を理解できるわけではないが、煽る意思は通じたらしい。


「グヒィッッ!!」

 怒りの形相となり、こちらに向かってくる。



 上位種の一振りを躱し、攻撃をする。

 狙うは狙いやすい胴体ではなく、眼。


 ギリギリの更にその先。


『スキル『集中』が手に入りました』

 針穴に糸を通すが如く、力を込めた剣の切っ先は右眼に突き刺さり、上位種に対して初めて大きなダメージを与える。


「ガバハ゛ァ゛ァ゛」

 上位種は悲鳴を上げながら、棍棒を持っていない左手をこちらに薙いで来る。


 避けられない。そう判断した俺は咄嗟に右腕でガードする。


 ――ボキィッ


 鈍い音を立てながら俺は吹き飛ばされる。


「カハッ……ハァハァ……!」

 腕でガードしたこと、武器による攻撃ではなかったことが相まって死にこそしなかったが、重傷だ。

 俺は腰巾着に入れていた回復薬の蓋を口で外し、急いで飲む。


 上位種はこちらへと向かってきている。

 剣は飛ばされた衝撃で落としてしまい、上位種の後ろの方に転がっている。


 俺は腰巾着から更に毒薬を取り出し、上位種へと投げる。


「ガァァァァ!!」

 ぶつかったことで瓶が割れ、内容物を思い切り喰らった上位種の悲鳴が響き渡る。


「傷口に毒薬は染みるか?」

 俺は見事にあの傷付いた顔面へ毒薬を投擲することに成功した。右眼だけではなく顔面全体に毒薬がかかっている。

 傷口ではない左眼であっても敏感な粘膜だ。さぞ染みて痛いことだろう。



 上位種は顔を抑えながら蹲る。


 その隙に俺は左回りで上位種の後ろに回り、剣を回収する。


 上位種は未だに蹲っているので、俺はもう一本回復薬を飲む。

 ステータスを確認すると、HPが127にまで回復していた。


 ――よし、行くぞ。


 こいつは痛みに悶えているだけで、まだ瀕死ではないはずだ。

 上位種が起き上がる前に、がら空きのうなじに向かって剣を振るう。


 隙だらけなため、これまでより力を込めることができる。


「ガァ゛ッ!」

 二回……三回……四回……。

 上位種が起き上がろうとするたびにうなじを叩く。

 驚異的な防御力によってなかなか首を斬り落とすことができないが、一回、二回、三回と数を重ねるごとに傷はどんどん大きくなっていく。


「これで終わりだ……はあッ!」

 最後には上位種の首を斬り落とし、倒すことに成功した。


『レベルが5から6へ上がりました』

『レベルが6から7へ上がりました』

『レベルが7から8へ上がりました』

『レベルが8から9へ上がりました』


『称号【強敵殺しジャイアント・キリング】を手に入れました』



「――今更来ても遅いっての」

 上位種によって呼び寄せられたゴブリン達が集まってきたが、呼び寄せた張本人である上位種は既に死んだ。



 最後に集まってきたゴブリンを倒して、この戦いは終わりを迎えた。



 ◇


「いやー、俺ってば強くね?」

 なんて言いながら死体を剥ぎ取っていく。数が多すぎてバッグに入り切らないので困った。

 回復薬を入れていた腰巾着にも魔石を詰めているがそれでも足りない。

 頑張って手で抱えて持って帰るしかないかな。


 さて、上位種との戦いを経てステータスがかなり強化された。

 これが今のステータス。

 ――――――――――

 年齢:15

 レベル:9(+5)

 HP:270/270(+100)

 MP:150/150(+40)

 力:36(+17)

 耐久:26(+10)

 敏捷:23(+9)

 技術:25(+10)

 器用:18(+7)

 魔力:15(+6)

 抵抗:17(+7)

 ギフト:修行

 スキル:『剣術Lv3(+1)』『体術Lv3(+1)』『毒耐性Lv1(New)』『回避Lv1(New)』『不屈Lv1(New)』『集中Lv1(New)』

 称号:【強敵殺しジャイアント・キリング(New)】

 ――――――――――

 俺のステータスは昨日の朝から倍近くに成長していた。

 スキルも大幅に増え、既存スキルもレベルアップしている。


 そして鍛錬メニューだ。


 ・魔物を倒す50体 報酬:耐久1

 ・MPを使う100MP 報酬:MP10

 ・魔法を受ける10回 報酬:抵抗1

 ・本を読む60分 報酬:魔力1

 ・料理を作る3回 報酬:器用1


 新たに5つが追加されていた。

 どうやらレベルが上がる毎に追加されるらしい。

『魔物を倒す』と『料理を作る』は簡単に達成できそうだが、他はどうしたもんか。

 魔法書でも買って一から魔法を覚えてみるのが、残りの三つを同時に満たせそうでいいかもしれないな。


 時間はまだ昼過ぎくらいなんだが、素材を持ちきれないので一旦帰ろう。冒険者ギルドに報告もしないといけないし。

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