第7話 新米三人組との出会い

「はあっ!」

「ちょっとキリがないんだけど! 【火矢ファイアーアロー】!」

「同感! アレスはともかく、僕の体力とシアの魔力がもたないよこれじゃ!」

 素材を持ち帰るため、森を出ようと歩いていると見覚えのある冒険者達が見えた。

 俺と時を同じくしてギフトを受け取った、新米冒険者の三人。

 彼らは大量のゴブリンに囲まれながら応戦している。

 中には通常のゴブリンよりデカい……俺と同じくらいの体躯の個体も混じっている。俺が戦ったやつよりは小さいが、あれも上位種っぽいな。



「おーい手を貸そうかー?」

 俺は少し離れた位置から彼らに向けて言う。

 冒険者のルールとして、他のパーティが戦闘中の獲物を取ることは禁じられている。

 しかし、そのパーティが危険な場合は手助けすることが許されている。

 この状況が危険な状態かどうかの判断が俺には出来ないので、当時者である彼らに聞いているのだ。

 問題なさそうであれば帰ろう。


「――冒険者!? ……お願いします!」

 パーティ唯一の女性冒険者である赤髪の少女が一瞬僕の方を見てそう言った。


 その言葉を受けて、僕は腕にたんまり抱えていたゴブリンの耳をその場に捨て、抜剣してゴブリンの方へと寄る。


〈鍛錬:魔物を50体倒すが開始されました。時間内に完了できない場合、ペナルティが課されます〉


 抜かりなく鍛錬を開始し、ゴブリンを斬り飛ばしていく。


〈魔物を倒す 12/50〉


 12匹倒したあたりでその場に居るゴブリンの殲滅が完了した。


「大丈夫だったか?」

 俺は息を切らしてその場にしゃがみこんだ三人に声をかける。


「はい、助かりました……」

「不甲斐ねえ……ありがとう」

「ありがとう、助かったよ」


「ああ、それより、昨日もゴブリンの数はこんな感じだったのか?」

 コイツらは昨日、俺よりも奥の森へと行っていた。この森に変化が起きているとしたら俺より敏感に気付いてるかもしれない。


「いや、昨日は一度に数体程度……そのうち一回だけホブゴブリンが居たくらいだね」

「なるほどな……俺が聞いた話ではこの森で上位種と出会うこと自体が珍しいらしいから、昨日のソレは異常事態の前兆だったのかもしれない」

「……ツイてねえよなぁ俺達。まさか冒険者になって二日目でこんな事態に遭遇するなんてよ」

 茶髪の青年は、そう言って愚痴を零す。

 コイツは本当に同い年なのか疑いたくなるほど大柄で、如何にも前衛職向きって感じだ。


「まあ、それでも助けがあって良かったじゃない……えっと」

「俺の名前はシュウだ。よろしくな」

 赤髪の少女が俺の方を見て戸惑った様子だったので名を名乗る。


「わ、私はシアです、よろしくお願いします! ……シュウさんに出会えて本当に良かったです!」

「そうだね。あ、僕はシオン。よろしくねシュウさん」

「俺はアレスだ。よろしく」

 挨拶を交わす。


「それで、お前達はこれからどうする? 俺は一度帰って冒険者ギルドにこの森で起きている異常を報告するつもりだったんだが」

「私達も帰ります……それでいいよね?」

「ああ」

「うん」

 俺達は一度帰ることにした。

 ひとまず倒したゴブリンの素材を剥ぎ取っていく。


「俺はもう素材を持てないからシオン達に譲るよ」

 一応、冒険者の規則的には俺が素材の半分を受け取る権利があるのだが、生憎俺はもう素材を新たに持つことが出来ないので、そう言ってシオン達に譲ろうとする。


「――ああ、そういうことだったら僕が代わりに持つよ。助けてもらったわけだし」

 シオンはそう言ってゴブリンの素材に触れると、それが一瞬にして消えた。


「どこ行ったんだ?」

「これは僕のギフトの力だね。触れたものを異空間に保存しておけるから物の持ち運びでは結構使えるんだ」

「へー、凄いな。冒険者としてはもちろん、冒険者以外でも食っていけそうなギフトだ」

「まあ能力の補正とかが無い分、戦闘面では結構頑張らないといけないけどね」

 なんて話をしながら、素材を保管していってもらう。



「なあもしよかったらなんだが、これも一緒に持つことって出来るか?」

 そう言って俺は、コイツらを見つけた時に両手で抱えていた大量のゴブリンの耳をシオンに見せる。


「うわ凄い量。全然構わないよ」

 シオンは一瞬驚いた様子だったが、そう言って快く承諾してくれた。

 一応自分で抱えることはできるが、ゴブリンの耳をずっと抱え続けるのはまあ気持ち悪いのだ。



 俺達は帰路に就く。



 ◇


 俺達は今、冒険者ギルドに来ていた。

 幸い、帰る途中でゴブリンに出くわすことはなく、普通に帰ることができた。


「……というわけなんです」

「これが奴らから取れた素材です」

 受付嬢にシオンが、ゴブリンの大量発生と上位種について報告する。

 俺はそれに捕捉するように、鞄に入れてあったゴブリン上位種の魔石と耳を見せる。

 シオンも倒したゴブリン上位種の素材を複数見せていたが、俺の奴はそれより一回り以上大きいため、合わせて見せた方がいいと判断したのだ。


「――これは!」

 それを見た瞬間、受付嬢の顏が驚愕に染まる。

 ただでさえシオンの情報によって驚いていた職員に止めを刺した感じだ。


「――急いで上に報告してきます! 少しお待ちください!」

 そう言って受付嬢は奥に走っていった。



「予想はしてたことだけど、大事になりそうね……冒険者になって二日目でこれなんて、私達、運がいいのか悪いのか」

「まあ、運がいいんじゃない? こうして犠牲もなく、大量の素材をゲットできたんだし。

 新しい装備を手に入れるにしても、別の街で活動するにしても、お金があって困ることはないわけだしね」

 シアの言葉にシオンが返す。



 少しすると、受付嬢に連れられて中年の男性が出て来た。

「君達が倒したゴブリンの素材を全て見せてくれるか?」

 出て来た男の言葉に、俺とシオンは素材を取り出す。


「これが一日分の成果なのか……?」

 男も驚いた様子だ。


「ゴブリン100体以上に、ホブゴブリンが7体……これは、ジャイアントゴブリンか? よく倒せたものだな」

 俺が倒した上位種はこの人曰く、ジャイアントゴブリンというらしい。


「運が良かっただけです。ジャイアントゴブリンと戦った時に他の上位種は居なかったですし、それでもキツい戦いでした」

 実際死にかけたしな。


「ちなみに僕らはソイツと戦ってないのでわかりませんー」

 なんてシオンが言う。


「何? お前が一人で倒したのか?」

「ええまあ……なので危なかったです。こうして生きてギルドに報告できたのも運がよかっただけです」

「なるほどそうか――いや、とりあえずそれよりも、この事態への対処が先だな……」

 男は周辺の職員に声を掛けて言う。


「おいアスカ、ゴブリンの森の危険度を一時的にD級に引き上げて、上位種を含めてゴブリンの出現数が爆増していると冒険者達に周知しろ。特にF級の若いやつにはしっかりな。

 それと、D級以上の冒険者に明日『ゴブリンの森の掃討』を行うことを通知してくれ」

「フィア、ガザードに連絡を取って今すぐにでもゴブリンの森の調査に向かわせてくれ。報酬はB級相当で構わん」

「「は、はい!」」

 男は次々と指示を出していく。


「……待たせてすまないな。調査の結果次第ではあるが、情報料はあとで支払わせよう。

 それと、その証明部位を納品したら君達は恐らく昇格試験が受けられるようになると思うから、好きなタイミングで受けるといい。

 俺はまだ仕事があるからこれで失礼する、じゃあな」

 そう言って中年の男はギルドの奥へと帰っていった。


「流れが早いはね。……ま、とりあえず私達は素材を買い取ってもらいに行きましょうか」

 シオンに素材を持ってもらっている関係上、俺も一緒に買取受付のカウンターまでついて行く。


「まずはシュウさんの素材からでいいかな?」

「ああ、ありがとう」

 シオンはそう言って素材を取り出していく。

 シオンが手を翳した先に次々と出てくる素材は、どんどん積み上げられていった。

 俺もバッグに詰めてあった大量の魔石を取り出す。



「……合わせて25500ギルになります」

「ありがとうございます」

 俺は魔石+討伐報酬を受け取る。

 昨日の5倍以上の報酬に俺は素直に喜んだ。

 これはF級冒険者として破格の報酬だと思う。


「次は僕達の番だね」

 シオンはそう言って自分達の分の素材を取り出し始めた。


「それにしても驚きました……まさかシュウさんが準D級のジャイアントゴブリンを倒してたなんて」

 彼らの査定を待っている間、シアが話しかけて来た。

 彼女は俺個人に話しかける時は未だに敬語なのである。冒険者同士としては珍しい。


「俺もビックリしたよ。まさか初めて遭遇した上位種が二段階進化個体なんてな」

 普通、先にホブゴブリンが現れてくれるもんだろ? 出現率的にも俺の気持ち的にも。

 まあ結果として大量の経験値を獲得し、称号まで手に入ったから良かったと言えばよかったんだが。


「俺達と同じで昨日冒険者になったばかりでそれって、余程強いギフトが手に入ったのか?」

「ちょっと、ギフトを聞き出すなんて失礼でしょ! ごめんなさい、うちの馬鹿が」

 アレスに対してシアが拳骨を喰らわせている。

 帰る途中で少し話をして、俺が昨日ギフトを授かり冒険者となったことなどは既に話していた。


「シオンのギフトも聞いてるし、別に大丈夫だ。といっても今のところは強いギフトじゃないぞ」

 ここは人の耳があるので、詳細を話すことは避けつつ否定する。

 俺のギフトは恐らく、長期的に見ればかなり当たりのギフトだが、即効性のあるものではないので現状ではそこまで恩恵を得られているわけではない。

 ジャイアントゴブリン戦であった恩恵は力・技術・敏捷が2ずつと、HPが20だけだ。

 それが無かったらしんどかったのは間違いないが、現時点の恩恵では他のギフトと比べて秀でているかというとNOと言わざるを得ない。


「えー、ギフトじゃなくてそれって、純粋に天才ってことかよー。俺も強くなりてえなあ」

「まあ運よくって感じだな本当。たまたま持ってた毒薬を上手く利用できたから助かったようなもんだし」


「……合わせて17000ギルになります」

 アレス達と話していると、彼らの分の査定も終わったようだ。

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