第71話 コルセアの拠点


 こちらはHK号。


 センターのデータに従ってコルセアの拠点・・惑星の衛星軌道に乗り、数日経過していた。HK号は惑星に向けて1Gの加速をかけて遠心力が釣り合う速度で衛星軌道上を周回している。



 拠点惑星の大気は塩素20パーセント、窒素80パーセントであり、金田光と林浩然リンコウネンは惑星に下りることはできないため、やむなく衛星軌道上を周回しているのである。


 この数日のあいだ、センターを介したコルセア側とのやり取りの中で、金田は、コルセアの弱点をいくらか上げたうえで、一つの提案をおこなった。


「俺の指示に従えばこれまで以上に効率的に海賊行為が可能になる。

 まず手始めにゲート突破方法の改善だ。

 敵が待ち受けているところにやみくもに突っ込んでいけば当然被害が大きくなる。まずは、そこらの小惑星でも何でもいいからゲートに突っ込ませて敵の攻撃を誘う。それを4、5回繰り返した後に艦隊で突破を図る。それと突破艦には機動力を犠牲にしても装甲を施せ。

 お前たちでもシミュレーションできるだろ?」


 拠点の管理頭脳が金田の言う作戦に沿ったシミュレーションを行なった結果、これまで突破の可能性は30パーセント台だったものが、70パーセント台へと2倍になった。


 突破艦に簡易装甲が取り付けられ、コルセアのその拠点が担当するゲートに対して突破作戦が決行された。多少の損害は出たが、突破は目論見通り成功し、ゲートの先の星系も無事攻略できた。


 これにより、コルセア内での金田の信用は一気に上昇し、コルセア内の将官待遇を得、一個艦隊を自由に使えるようになった。


 金田の艦隊の内訳は、


 重巡洋艦 8

 軽巡洋艦 8

 駆逐艦 24


 スカイスフィア3以前の地球なら、これだけで降伏を迫ることが可能な戦力なのだが、金田光はこの程度では戦力として全くの不十分であると結論付けた。


 金田とリンが、HK号の操縦室から離れ、食堂兼休憩室で内輪の話を始めた。センターは操縦室の空いていたラックに固定している。


「艦隊に戦艦も欲しいところだが、それよりもまずは補給艦だな。そういった艦種はコルセアにはないようだ。これじゃあ長期作戦ができないぞ」


「提督、これまでコルセアではゲートを突破すればほぼ戦闘が終わっていたわけだから長期戦なんか念頭になかったんじゃないですか」


 林は金田光がコルセアの将官待遇となったあと、金田のことを船長から提督と呼ぶようになっている。


リンの言う通りなんだろう。本当に困った連中だ。真面目に戦争する気があるとはとても思えない。そこが付け目だったけどな。

 それでも要望だけは、出しておこう」


「提督、まさか、補給艦を手に入れたら、ここからトンズラしようと考えてる?」


「これから先、俺たちでは太刀打ちできない敵が現れるかも知れないだろ? それこそスカイスフィア3が現れる可能性だってないわけじゃない。そういった必敗の状況で戦う必要はない。そうなったらある程度の戦力を引き連れてとっとと逃げ出すに限るからな」


「さすがは提督。だけど、部下といってもコルセアの連中が提督の後をついてきますか?」


「あの連中は、上の命令は絶対のようだからついてくるんじゃないか? もちろん逃げ出すとき捲土重来のための戦略的撤退だと信じさせるけどな」


「なんだか、コルセアの連中が可哀そうになってきた」


「そういうな。せいぜい利用させてもらおう」


「いずれにせよ、俺は提督についていくしかないけど」


「そういうことだ」



 拠点の上層部は金田光の要望を聞き入れ、既存艦を短期間で改装し輸送艦に改装した。完成した輸送艦には補給物資が満載にされ、金田の艦隊に引き渡されることになった。


「提督、やりましたね」


「次は演習だ」


「なるほど、演習を名目にトンズラですね」


「いや、まだだ。できる限りコルセアから戦力を引き出して増強したい。いちおう逃げ出すための予行演習だがな」


 などと、話をしていたところに、センターから、


「コルセア本拠地惑星が、例の超大型宇宙船の強襲を受けて壊滅したという情報が送られてきました」


 さすがの金田もこれには驚いたが、地球側とすれば、宇宙海賊など根絶やしにしたいと思うのは当然であるし、その能力が有るなら自分でもそういった行動をとったはずだ。そう考えれば、コルセアがスカイスフィア3への対応を誤っただけということになる。


「センター、本拠地星系とここまで、どれくらい離れている?」


「星系拠点の管理頭脳に問い合わせます。……。

 4星系だそうです」


――スカイスフィア3がこの星系にやってきたら、ここも簡単に壊滅する。

 この状況で、演習を口実にここから逃げ出すことは無理そうだし、単艦で逃げ出したらコルセアから敵前逃亡として攻撃される可能性もある。

 コルセアから戦力をある程度引っ張ってきた後はある程度距離を取ろうと思っていたが、取りやめるしかないな。

 となれば、この星系を守り通さなくてはならない。


「この拠点星系を守り抜くためには、この星系の全資源を自由に使う権限が俺に必要だ。

 センター、拠点と交渉してくれ。俺なら何とかこの星系を守り切れると言ってな。その権限があれば、拠点を守り切って見せる」


「了解しました。……。

 拠点の管理頭脳と協議した結果、提督に拠点の全権限が与えられました。

 この星系のコルセアの資源を提督は自由に利用できます」


 金田は、一人ほくそ笑んだが、


「提督、勝算はあるんですか?」と、林浩然リンコウネン


「もちろんだ。ゲートの周辺に核融合機雷をばらまいて、更に超大型の指向性核融合機雷を設置する。

 一撃で仕留めてしまえば、いくら超大型宇宙船といえども、反撃も何もできず宇宙うみの藻屑だ」


「センター、核融合機雷って分かるか?」


「意味することは理解できます」


「ただ単に爆発するだけだと、近くの機雷が吹き飛ぶし、ゲートが壊れかねないから爆発には指向性が必要だ。

 センター、核融合部の後方に核分裂物質製コーンを置けば、爆発の威力が増すし、爆発で発生するエネルギーをビームとしてある程度は指向性を持たせられるはずだ」


「了解しました」


「そいつをゲートの前にばらまいてゲートを封鎖する。そうだな、100メートル間隔で縦横奥行き25発。これで、1万5、6千発だ。

 そして、ゲートから現れる超大型宇宙船を1撃で破壊できるほど大型の指向性核融合機雷をゲートの真ん中に向けて設置する。こいつは、機雷とはいえ遠隔操作だな。

 何にせよ中身は簡単な爆弾だ。できるな?」


「星系内の全資源を使用できますから可能です」


「それならすぐにとりかかれ」


「了解。提督の時間で2週間後に完成します」



 スカイスフィア3といえどもこの星系の位置を知ってはいないだろうから、2週間でスカイスフィア3がこの星系にたどり着くことはありえない。うまくすればスカイスフィア3を撃破して、最終的にはコルセアの艦隊を駆って地球征服も可能だ。


 ただ、目論見通りスカイスフィア3を撃破できない場合、この星系は惜しいが、逃走する算段も必要だ。その辺りはHK号と補給艦で何とでもなるだろうと金田は思っていた。




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