第69話 物理(実体弾)バリア。作戦
翔太と明日香の二人は再度研究室で準備が整うのを待った。
『準備完了。
結果はモニターに表示されるから。
今は0.03ミリ=30ミクロン厚の実験機材を入れてる』と、ドーラから連絡が入った。
「了解。それじゃあ、キオエスタトロンを最弱で起動してくれ」
『了解。キオエスタトロン、起動5秒前、3、2、1、起動!』
ドーラの『起動』の声と同時に、マイナス249番からプラス249番が反応したとモニターに表示された。
「影響範囲が250メートルまで拡大した。水素の流路の間隔を10分の1に狭めたら100倍か。
じゃあ3ミクロン厚となると25000メートル? 流路の間隔の2乗に影響範囲が反比例するとして、流路の間隔を今の間隔が2分の1の15ミクロンにすれば、4倍の1000メートルまで有効距離が伸びる。今の装置の限界は300メートルだから測定できないけど、試すだけ試すか。
ドーラ、今度は15ミクロン厚の実験機材を用意して今のものと取り換えてくれるか?」
「15ミクロンのものはすぐ用意できるよ。ついでに測定支柱も1.1キロまで伸ばそうか? 支柱が発生する推力で折れないよう推力方向に厚くして折れにくくしとくね」
「それで頼む」「さすがはドーラちゃん気が利くー」
「えへ。どういたしまして」
それから10分後。
「準備完了。それじゃあ、実験再開だね?」
「キオエスタトロンを起動してくれ」
「了解。キオエスタトロン、起動5秒前、3、2、1、起動!」
ドーラの『起動』の声と同時に、こんどはマイナス1002番からプラス1002番が反応した。
「予想通り間隔の2乗に反比例してX金属の場の有効距離が伸びた。もっと伸ばしたいが、あまり間隔を狭くし過ぎると水素を圧送するにしても限度があるからなー。
それでもスカイスフィア3の周辺に取り付ければ、十分機能するんじゃないか。
極限まで推進力を上げてしまってもX金属と封入ガラスは壊れないわけだから、おそらく1000Gまでは可能だろう。
装置を1000個取り付ければ1000G×1000個で百万G、水素ガスの厚さを15ミクロンとした場合の有効範囲は1000メートル。
これだと、……」
電卓を叩いて、
「突入速度秒速140キロまで弾き返せる。水素ガスの厚さを5ミクロンにすれば有効範囲は9倍になって9000メートル。……。
突入速度秒速420キロまで弾き返せる。毎秒420キロならそこそこ有効じゃないかな。
1000個の集合体をスカイスフィア3の周りに正12面体の頂点になるよう20カ所取り付ければ、5つの頂点分重なり合うだろうから、加速度は500万Gまで増加する。それだと、……。秒速940キロまで弾き返せる。
宇宙空間での戦いで秒速940キロ程度は大したことないかもしれないがある程度役には立つだろう」
「翔太お兄ちゃん。高速接近中の敵艦からの主砲弾だと秒速数万キロもあり得るけど、そんなのは避けきれるし、回避が間に合わず砲弾が直撃コースを取っていたら副砲で叩き落せるから。
恐いのは攻撃機による近距離からの飽和攻撃だし、攻撃機から撃ちだされる実体弾は相対速度秒速200キロが限界だから大丈夫だよ」
この実験結果をもって、翔太の考えどおり、スカイスフィア3の周りに1000個の小型X力場発生装置をまとめたものを20カ所取り付ける改装工事が始まった。
この工事と並行してスカイスフィア3では副砲を倍増する改装も行なうことにしている。さらに大気中、および水中作戦機を50機増やす予定だ。
竣工後のスカイスフィア3の武装は以下の通りとなる。
1、主砲6門
2、副砲48門->96門(48門増)
3、誘導弾
4、無人攻撃機600->650機(50機増)。うち200機は大気中、および水中作戦機。
5、戦闘ロボット600体。
防御兵器は、
1、電磁波用第1スクリーンから第3スクリーン。
2、転送兵器阻害スクリーン。
3、実体弾用X力場。
スカイスフィア3の戦力アップのための改装工事も終了し、攻撃機の数も揃った。新規の攻撃機は地球上での作戦を前提としたもので、全機地球の衛星軌道上を周回することになる。
探査艦による宇宙海賊の本拠地の探索は順調で、先日宇宙海賊の本拠地が存在するであろう恒星系の有力候補を発見している。
探査艦がゲートを通りその先の星系内に侵入した時点で、ゲートを封鎖していたのではないかと思われる複数の戦闘艦から攻撃を受けた。探査艦は非武装で攻撃兵器を搭載していないため、反撃することはなく退避する前に大破し自爆している。
自爆前に送られてきたデータから、探査艦を攻撃した戦闘艦の形状は地球を包囲していた宇宙船とほぼ同型の紡錘型だった。
現在当該星系に対して探査艦による再度の侵入は控えている。
一方宇宙船組み立て工場衛星では小型戦闘艦12隻があと1カ月ほどで竣工する。小型戦闘艦の竣工後は中型戦闘艦を建造する予定だ。中型戦闘艦を軽巡洋艦とスカイスフィアでは呼んでいる。軽巡洋艦の次は重巡洋艦の建造を予定している。
軽巡洋艦諸元
球形:直径72メートル。
外殻:厚さ900ミリの特殊合金製
武装:
主砲3門(中型実体弾砲:大型目標撃破用)
副砲6門(中型電磁波砲:宇宙空間の中・小型目標撃破用)
第2副砲24門(小型電磁波砲:宇宙空間の小型目標撃破用)
誘導弾72発(大気中、水中の大型目標撃破用)
防御兵器は、
内側から第1スクリーン、第2スクリーン(戦闘時展開)と第3スクリーン(常時展開)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
圭一はいつものメンバーを集めて、新屋敷の居間兼会議室で作戦会議を開いた。
「そろそろ、宇宙海賊の本拠地が存在しそうな星系に乗り込もうと思う。
みんなも知っての通り、先方の星系への出口のゲートは敵の宇宙艦と思える艦隊で封鎖されている。
敵の戦力は、探査艦が自爆前に送ってきた情報をドーラが分析した結果、
地球を囲んでいた宇宙船と同程度の宇宙船:6隻
戦力的にその船の半分程度の宇宙船:18隻
戦力的に四分の1程度の宇宙船:24隻ということだ。
今現在どの程度の戦力がゲートを封鎖しているか不明だが、この数から大きく上振れしてはいないだろう」
圭一の話を聞いて翔太以下3名と
「まずゲートへの突入作戦だが、
強化されたスカイスフィア3なら突入後直接蹴散らすことも可能と思うが、前回同様、攻撃機で沈めてしまおうと思う」
これにもみんなうなずいている。
「ゲートの先の封鎖艦隊を攻撃機が排除したら、スカイスフィア3で敵恒星系へ侵入する」
「圭一、攻撃機が敵を排除したって、ゲートの手前で待機しているスカイスフィア3でどうやって知るんだ? 攻撃機には何光年も先に届くような超空間通信機は乗ってないんじゃないか?」
「そう言えばそうだったな。連絡用に超空間通信機を乗せた小型宇宙船を攻撃機に少し遅れて突入させるか、敵を排除したらいったんゲートをくぐらせて戻ってこさせるか」
「攻撃機と一緒にスカイスフィア3も突入した方が早くないか? 戦力は一度に投入するのが道理だろ」
「それもそうか。じゃあそうしよう。
封鎖艦隊を排除したら、攻撃機を収容してその後、ゆっくり敵根拠地に向け進撃する」
「ゆっくりとは?」
「敵の根拠地の位置を正確に知るため、恒星系内を観測しながら恒星に向けて進撃する。そうすれば敵の戦闘艦も誘引できる可能性がある。敵が迎撃に出てこないようなら敵根拠地を発見次第、速度を上げて接近し、敵根拠地を粉砕してしまう」
「スカイスフィア3を見つけたら迎撃せずに逃げ出しそうだが、本拠地を叩けば少なくとも数十年は立ち直れないだろうし、うまくすれば連中が寄生していた宇宙文明に滅ぼされるだろう」
「地球を囲んでいた連中が逃げ出さずに向かってきたくらいだから向かってこないかな」
「地球を囲んでいた艦隊が簡単に撃破されたわけだし、封鎖艦隊も簡単に蹴散らされたら逃げ出す可能性が高いんじゃないか」
「確かに、普通ならそうだろうな。
もし、その星系に敵の本拠地なり拠点がないようなら?」
「その可能性は低いと思うが、そうなった場合は、再度探査艦によりその先のゲートを確認していくほかないな」
「「了解」」
こうして、大まかな作戦が決定された。小型戦闘艦12隻の竣工を待って作戦は開始される。
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