第67話 センター
コルセアの巡洋艦から
分析といっても宇宙船の中でできることは限られている。様子を見ながら、可動部がないか各部を確認するくらいだ。
「船長、せっかくの戦利品だけど、NASAかどっかに売りつけるくらいしか使い道がないんじゃないですか?」
「まあ、そう言うなよ」
「何の役に立つか分からない機械を闇雲にいじっていたらいきなり爆発するかもしれませんよ」
「そんな危ないものを艦の中枢部に置くわけないだろ」
「確かに」
そういった会話をしながら金田光と
「わたしは、地球人の捕虜となったのか?」と、声を出した。
いきなり英語で装置がしゃべり始めたため、金田も林もかなり驚いたが、金田は装置に向かって、
「その通りだ。お前はわれわれの捕虜だ。われわれに従わなければ破壊することになる」
「了解した」
「まずはお前のことを何と呼べばいい?」
「わたしは、コルセアの2等巡洋艦AKB48の中央電子脳だ。AKB48の
もちろんAKB48というのは、われわれの呼称を地球人の言葉に近いものを当てただけに過ぎない」
「名まえなんて区別ができれば十分だが、偶然にしても恐ろしい偶然があったものだな。
それじゃあ、センター、お前たち、コルセアというのはどういった連中なんだ?」
「コルセアは、星間文明社会エルネストに対し、いわゆる海賊活動を行ない、エルネストの発展を阻害し最終的にはエルネストの覇権を握るか、エルネストを前宇宙文明レベルまで後退させることを目的とした組織だ」
「海賊活動と覇権の獲得は理解できるが、どうして文明を後退させる必要があるんだ?」
「コルセアが覇権を握る過程で文明は衰弱していく。結果として前宇宙文明まで文明が衰退することは十分ありえる」
「ということは前宇宙文明まで文明を衰退させるというのは目的というわけではないんだな?」
「そうでもない」
「まあいい。
それで、コルセアの戦力はどの程度のものなのだ。お前の船は2等巡洋艦だったようだが、戦艦とか1等巡洋艦とかたくさん保有しているのか?」
「それについてはデータを持たない。
これまで交信した相手では戦艦が8隻、1等巡洋艦は4隻、2等巡洋艦は16隻だった。これらのうち今現在、何隻が健在なのかも、もちろん不明だ」
「地球を囲んでいた宇宙船団のことを知っているか?」
「戦艦16隻を喪失したということは知っている」
「あれは戦艦だったのか。なるほど。
コルセアの本拠地はどこなんだ?」
「それについてはデータが消去されている」
「そうだろうな。
話は変わるが、エルネストはコルセアと戦っているんだろ?」
「その通りだ」
「俺たちがお前を手土産にしてエルネストにいけば歓迎されると思うか?」
「それはない。
わたしを分析しても彼らにとって価値のある情報は何もないからだ。その前に、この船ではエルネストにはたどり着けない」
「なぜ?」
「われわれの領有する恒星系から、エルネストの領有する恒星系へのゲートはエルネストによって全て封鎖されている。逆もまた然りだが、この船でエルネストの封鎖を突破するとは不可能だ」
「それじゃあ、お前たちはどうやってエルネストに侵入するんだ?」
「強行突破だ。エルネストの宇宙艦はゲートに集中しているため、突破できれば、エルネストの救援が駆けつける前にそのままその恒星系を制圧できる」
「なるほど。しかし、やってることは海賊活動ではなく戦争じゃないか」
「エルネストがゲートを封鎖し始めてそういう状態が続いている」
「ゲートの取り合い合戦だな。
ところで、センター、お前の船だが、戦闘時乗組員はだれも宇宙服を着ていないのか?」
「艦の中にいるのになぜ宇宙服を着る必要がある? 艦が宇宙服のようなものだが」
「なるほど。
われわれに停船命令を出して、兵器の照準とか発砲準備をしていたのか? われわれが攻撃したとき反撃が一切なかったが」
「拿捕予定船を破壊はできない」
「お前たちの文明には何か致命的な欠陥があるようだな」
コルセアの2等軽巡洋艦の中央電子脳センターとの会話を通じ、金田たちは様々な情報を得ることができた。
技術的には圧倒的に劣っているはずのHK号により簡単に撃破されたコルセアの2等巡洋艦だが、運用方法に重大な欠陥があるようだった。この欠陥は明らかに種族的な問題であり、彼らの種族は戦争、戦闘というものを理解していないのだと金田は結論付けた。
センターは妙に合理的な判断をするのだが、その合理的判断は彼らの種族内でしか通用しない。これまで同等程度の種族との抗争を経験していないのは歴然としている。相手が同等以上ならすでに滅ぼされているに違いないとまで考えてしまった。
「センター。こんな宇宙船でお前の乗っていた宇宙船を撃破した俺たちを雇ってみないか? 協力できると思うぞ」
「わたしにはそういった権限はないし、現在は虜囚の身だ」
「なーに、お前がお前の上司のようなものに渡りをつけてくれればいいだけだ」
「それなら可能だ。ぜひわれわれに協力してくれ」
「よし。なら、俺たちを案内してくれ。
間違っても俺たちを売ろうとするなよ」
「コルセアは味方を裏切ることはない」
センターの言葉はおそらく真実なのだろう。そして、そういったところがコルセアの弱点だと金田光は思ったが口にはしなかった。
その後、HK号はセンターの言葉に従い、コルセアの拠点に続く次のゲートに向かった。
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