第65話 一か八か


 HK号がゲートをくぐり抜けた先には木星によく似たガス巨星が近くに存在しており、リンによってHK号はそのガス巨星の衛星軌道に乗るよう操船中だった。



「うん? 船長、レーダーが何か拾いました」


「何だ?」


「分かりません。距離は1000キロ。まっすぐこっちに近づいてきています」


「直線で近づいてくるということは衛星軌道上の天体じゃないな。

 宇宙船の可能性もある。大きさは」


「観測上は30メートル」


「投影面積で30メートルか。球型としてもこのHK号よりよほど大きいが、縦長とかになるとかなり大きいな」


「船長、どうします?」


「向こうが、例の宇宙船団の仲間だとすると、20ミリの機関砲しか積んでいないわれわれではどうすることもできないだろう。今から逃げて、逃げる途中で遠距離から攻撃されたら手の打ちようがないから、このまま衛星軌道に留まっていいよう。

 焼け石に水にもならないだろうが、機関砲の照準だけは合わせておくか」


 HK号には西側で言うところのバルカン・ファランクス相当の口径20ミリの6銃身機関砲が搭載されている。


 使用砲弾の主体は西側のものとほぼ同じ弾芯にタングステンを主体としたニッケル・クロム合金を採用した装弾筒付徹甲弾(APDS)である。


 空気抵抗のない宇宙空間で発砲した場合、装弾筒は分離できないが、その分の運動エネルギーを砲弾が保持しているため、装甲への貫徹力は逆に上昇するとみられている。対象に対して垂直に砲弾が命中した場合、90ミリの鍛造鋼板を貫徹可能と考えられていた。西側と異なる部分は、砲弾の6発に1発は炸薬を装填した炸裂弾であることだ。また、発砲による反動を相殺するため束ねた砲身を回転させる給弾器の後方にプラチニウムによる小型推進器が取り付けられている。



「船長、宇宙船らしきものから通信が入ってきました。通常電波です」


「音声で出せるか?」


「今出します」


『#@%&……』


「何か言っているようにも聞こえるが、全く意味が分からないな。

 WHO ARE YOU? と音声で送ってみてくれ」


「英語が宇宙人に通じますかね?」


「地球を囲んだ宇宙船団は英語で降伏しろと言ってただろ」


「そうでした。船長は、向こうの宇宙船はあの連中の仲間と思っているんですね?」


「どうも向こうの宇宙船は紡錘型っぽい。船の形もよく似ているし、太陽系の近くで宇宙人のバリエーションがそんなに多いとは思えないから、その可能性が一番高いだろう」


「なるほど。それじゃあ、

『WHO ARE YOU?』」


『こちらはコルセアの巡洋艦・・・だ。地球の宇宙船よ、そのままの軌道を維持せよ』


「ほんとに、英語で返事があった。

 船長、何と答えます?」


「OKとでも返しておけ」


「了解。

『OK』」


「船長、連中、自分たちのことをコルセアと呼んでたけど、コルセアって海賊って意味ですよね」


「その通りだ。

 地球を囲んだあの宇宙船団はアニメなんかで出てくる宇宙海賊だったようだな。

 海賊なんぞに手も足も出なかったのは情けないが、科学技術がなければ何もできんということだ」


「船長、それは今さらどうでもいいですが、宇宙人がこの船に乗り込んできますかね?」


「停船を命じたんだから、いきなりは撃ってこないだろうが、その可能性は高い。

 乗り込むとき無理やり外殻を破られるとマズいし何が起こるか分からないから、宇宙服は着けていた方がいいだろう。減圧は今からじゃ間に合わないが、外部で作業するわけじゃないから、宇宙服内部を減圧せずに着るだけ着ておこう」



 二人は減圧室の中に用意されていた宇宙服を着込み、操縦席に戻った。


 この間にHK号に接近中の宇宙船は目と鼻の先、100キロまで近づいていた。


 接近する宇宙船は既に光学レンズで捉えており、リンの座る操縦席前のモニターに映し出されている。金田がセットした20ミリ機関砲の自動照準装置は接近する宇宙船の船首を捉え続けている。


「向こうの船の船首に3つ空いた穴は大砲の孔だな。船の周りにやたらと突起物が見えるし、見た感じまともな装甲は施されていないようだ。あの大砲の孔に向かって機関砲をぶっぱなせば撃破できるかもしれない。

 俺たちではまねのできない超合金で覆われている可能性がないではないが、船そのものはペラペラに見える。

 単独のようだし、試しに連中が近づいて停船したら、機関砲をぶっぱなしてみるか?」


「船長、向うの大砲の弾はどんなのか分かりませんが、こっちの機関砲じゃとてもかないませんよ」


「そうかな? 相手は俺たちを舐めてるんじゃないか? もしくはどうしてもこの船を拿捕したいから破壊できないとか。

 いずれにせよ、毎秒60発のタングステン弾が地球上ならマッハ3で撃ち出され全く減速せずに命中するんだ。同じ所に何発も命中すれば、大抵のものに孔が空くと思うぞ。いちおう、ここから狙える正面の三つ穴と、ラシイ突起を破壊するよう照準し直しておこう」


 金田光は船長席の脇に取り点けられた小型のモニターに接近中のコルセアの巡洋艦・・・を映し出し、モニター画面上を右手の人差し指で指定して、敵船の主砲と思われる3カ所から順に機関砲のターゲットとしてロックしていった。最初の3つのターゲットには各24発、その他のターゲットには各12発砲弾を発射するよう指定している。


「これで良し」


「本当にやっちゃうんですか?」


「一か八かにかけてみようじゃないか。このまま連中に捕まってモルモットにされるより、賭けに敗れたとしても連中にいくらかでも痛い目を見させたうえで、この宇宙船の中で死んだほうがまだましだろ?」


「この宇宙船の中で死ぬことは賛成ですが、相手にかすり傷でも負わせることができますかね?」


「やってみなければ分からないが、少なくとも連中の船から飛び出ているいかにもな突起くらい壊せるんじゃないか」


「だといいんですけど」



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