第64話 HK号3


 HK号はリンの操船によりなんとかガス巨星を巡る衛星軌道に入った。


「船長。この船はお望み通り太陽系を飛び出したけど、これからどうするんです?」


「そうだな。俺は天文学者じゃないから星を見ても感慨が湧くわけでもないし、何か変わった現象を見つけても、利用できないからな。

 どこかに、スカイスフィア3のような宇宙船が漂流していれば儲けものだが」


「船長、そんなことを期待して、大陸本土を離脱してこんなところまでやってきたんですか?」


 操縦士の林浩然リンコウネンがあきれ顔で後ろの船長席に座る金田光に振り返った。


「落ち着けリン、希望を言ったまでだ。

 こうして恒星系を繋ぐゲートが存在しているということは、誰かが恒星間の移動に利用していたということだ」


「それは、そうでしょう」


「地球を囲んだ宇宙船団の根拠地がこの恒星系にないのは明らかな以上、必ずもう一つゲートがある」


「どうして、宇宙船団の根拠地がここにないと言い切れるんです?」


「スカイスフィア3はこの恒星系を通って太陽系に現れたんだぞ。この恒星系に宇宙船団の根拠地があれば、太陽系の時以上にスカイスフィア3を手厚く迎えたハズだろ?」


「たしかに。スカイスフィア3が連中の根拠地を放っておくはずないか」


「そう言うことだ。スカイスフィア3がどこからやってきたのかは不明だがあの宇宙船団の根拠地はここにはない。

 従って、俺たちの当面の目標はこの恒星系にあるはずのもう一つのゲートを探すことだ」


「当てはあるんですか?」


「太陽系にあったゲートは木星型のガス巨星、ここのゲートもガス巨星の周りを回っていた。理由は分からないが、ガス巨星の周りにゲートが存在する可能性が高いとみてもいいだろう。ガス巨星で見つからなければ天王星型の氷惑星か岩石惑星の近傍に存在すると思っていいんじゃないか。ということで、まずはこの恒星系で別のガス巨星を見つけてそこでゲートを探すつもりだ」


「ガス巨星っていってもこの宇宙の中で簡単に見つかるんですか?」


「1日、2日、全天の星をモニターしていれば自ずと惑星は特定できる。距離もある程度推定できるから問題ない。プログラムは組んであるから、惑星が見つかり次第、そこのモニターに表示される。目の前のガス巨星の裏に惑星が隠れているならちょっと時間がかかるがな」


「船長、あんた天文学者じゃないと言っていたけれど、結構星や宇宙についても詳しいんだ」


「少しだけだが勉強したからな。といっても宇宙船に乗るうえで必要そうなことだけだ」


「それがさっそく役立つとは。船長、あんた、すごいな」


「どうしたリン。おだてても何も出んぞ」


「おだてたわけじゃない。確かにあんたはやり手だよ」



 HK号はそれから丸2日かけて全天を調査し、星系内の惑星を発見していった。


「ガス巨星らしき惑星がそこの巨星のほか二つ。大型の岩石惑星が2つか。

 取りあえず、ここから近い方のガス巨星にいってみよう。距離は10天文単位AUだ。

 気長に宇宙の旅を楽しもう」


「何であれ、加減速中は地に足が着くだけで俺は嬉しいですよ」


「良かったじゃないか」



 HK号は加速減速1Gで9日ほどかけ10天文単位AU先の目標の惑星軌道に乗った。



「このガス巨星の周りにゲートがあればありがたいが、どうかな?」


「船長、あんた運が良さそうだから、きっとこのガス巨星の周りでゲートは見つかると思う」


「期待しててくれ」


「ところで船長、こんなところまでこの船はきてしまったけど、ちゃんと太陽系、地球に戻れるんですか?」


「太陽系の惑星の軌道はこの船のサーバーの中に入っているし、この恒星系の惑星の軌道も観測済みだから、いつの時点の惑星の位置でも計算できる。安心しろ」


「さすが船長だな」



 HK号は、最初のガス巨星から2つ目のガス巨星を周回中に、運よくゲートを発見することができた。


「予想通り、ゲートが見つかったな」


「このガス巨星でゲートが見つかったけど、もう一つ調査していないガス巨星にゲートはないのかな?」


リン、いいところに気が付いたな。俺もそのことについて少し考えてみたんだが、ゲートがどういった理由で誰によって作られたものかは分からないにしても、少なくとも恒星系同士を結び付けるために作られたはずだ。

 ゲートが2つでは一本道になってしまっていかにも使い勝手が悪い。そう考えれば、2つ以上ゲートがあってもおかしくない。太陽系にも土星以外にゲートがあった可能性も高い。機会があれば調べてみてもいいが、今は目先のゲートだ。ただ、そうすると、スカイスフィア3とあの宇宙船団が使ったゲートが違っている可能性もあるが、ゲートが新たに見つかった以上、どっちでもいいだろう」


「船長は、ゲートは天然に存在する自然現象じゃなく、誰かによって作られたものだと思っているんですか?」


「その通りだ。自然界に光速を上回るような現象が存在するはずはないと思っているからな。ただ、自然現象であれ、誰かによって作られたものかは今はどうでもいい。俺たちはそれを利用するだけだ」


「ごもっともでした。

 ところで、自然現象でないとしたら、ゲートを作ったのはスカイスフィア3を作った連中なのかな?」


「ゲートそのものは大昔、それこそ何億年も前から存在しているんじゃないかと思っている。タダの勘だがな。そこまで古いとなるとさすがにスカイスフィア3を作った連中がゲートを作ったわけではないだろう。地球を囲んで、スカイスフィア3に簡単に撃破された宇宙船団の連中がゲートを作ったということは間違ってもないと断言できる」


「それはそうでしょう。

 それで、この先のゲートはどうします? もう一つのガス巨星にゲートがあるか確認してからどうするか決めますか?」


「いや、まずはこのゲートをくぐってみてからだ」


「了解」



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