第62話 HK号


 衛星軌道上の組み立て工場で最初の組み立てが終了し、竣工した12隻の探査艦は、6隻ずつ土星ゲートと海王星ゲートに向かっていった。


 土星ゲートを通過した6隻の探査艦は、その先の新たな恒星系の再探査を始めている。


 ゲートの先の恒星系内の惑星の位置はスカイスフィア3の持つデータから導き出された位置からかなりズレていたが公転軌道そのものはそれほどズレてはいなかったため容易に発見でき、スカイスフィア3からは中継器から抜き出したデータをもとに推定されるゲートの位置情報を探査艦に送信しているため、簡単に宇宙海賊の本拠地につながる次のゲートを発見することができた。



 海王星ゲートを通過した6隻も順調にゲートの先の恒星系内の探査を続けている。この6隻は宇宙海賊の本拠地の探索が任務ではないので、今後、1隻ずつ単独で、ゲートで結ばれた新たな恒星系を探査していくことになる。


 現在軌道上の組み立て工場では7番艦から12番艦までの6隻の戦闘艦と13番艦から18番艦までの6隻の探査艦が建造中だ。


 建造中の6隻の探査艦は間もなく竣工する。その6隻は新たな土星ゲートを潜り抜け、先の6隻と合わせて、宇宙海賊の本拠地探索に投入される予定だったが、スカイスフィア3が宇宙海賊が設置したものと思われる中継器を捕獲したため、木星ゲートを抜けてチャラワン星系の先の探査を行なうことになる。その方面のデータはスカイスフィア3は持っていない。


 今後探査艦で収集したデータは逐次スカイスフィア3に送られ、スカイスフィア3内のデータが更新されて行く。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 金田光は大陸本土側の工作員を介して大陸本土人民軍の幹部に小型プラチニウム発電機を披露することで、大陸本土政府に取り入ることに成功し、間を置かず人民軍中央研究所特殊武器研究所を立ち上げその所長になりおおせていた。


 その間、光発電の秘密金庫に収納していたプラチニウムを人民軍の工作員の手によって大陸本土に運び込み、特殊武器研究所内に保管した。


 特殊武器研究所では金田光の指揮の元、プラチニウムを推進器とした宇宙船の建造を急ぎ、現在、その宇宙船は艤装工事を終えて大陸本土上空で初飛行も行なっている。


 期せずして、特殊武器研究所内の宇宙船もスカイスフィアと同じ球型だった。ただ、外殻に使用する超高張力鋼の品質は、名まえは超高張力鋼というものの、スカイスフィア、スカイスフィア2の外殻で使用した高張力鋼に比べ一段強度が不足していたため、外殻そのものは肉厚となっており、その分加速性能は低い。とは言っても、水素さえ供給されれば無尽蔵の推力と電力がプラチニウム機関より供給されるため、従来型ロケットなどに比べれば圧倒的な性能を誇っていることは確かである。


 直径24メートルの宇宙船はスカイスフィア2と同じ大きさである。できればもう少し大きな宇宙船を建造したかったが、プラチニウムの量が限られていたため、この大きさが限度だった。宇宙船の名まえは『恒星』号。金田光はそのいかにも大陸本土的名まえが嫌で非公式には『HK』号と呼んでいる。もちろん、HIKARU KANEDAの頭文字である。


 恒星号の船内はほぼ自動化されているため、乗組員の数は操縦士と船長の2名。6名まで同乗可能としている。搭乗者が2名の場合、5年間は無補給で宇宙を航行できる物資を船内に蓄えることが可能だ。また、スカイスフィア、スカイスフィア2は民間のものだけに特殊なレーダーなどは装備されていなかったが、恒星号には軍用高性能レーダーおよび機関砲が装備されている。



 土星には宇宙船団が太陽系に侵入した時に利用したゲートなるものが存在することが公表されており、NASAの運用する宇宙望遠鏡でもその存在が確認されている。


 宇宙には考えられないような高度な文明が存在することがスカイスフィア3により証明されたわけで、金田光は恒星号により土星に存在するゲートを利用することで、スカイスフィア3の更に上をいく文明を見つけることができるのではと考えていた。


 そこで、金田光は、宇宙飛行士としての特別な訓練をすることなく宇宙に進出できることを証明すると人民軍上層部を説得し、特殊武器研究所の所長である自身を恒星号の船長に、副所長の林浩然リンコウネンを操縦士とした。


 恒星号の建造自体に問題はなかったが、大陸本土から大型宇宙船が宇宙に向けて旅立った場合、環太平洋防衛機構の6隻の戦闘艦が地球の衛星軌道上を前回の宇宙船団のごとく周回しており、彼らがどういった反応を示すか確信はなかったが、初飛行時高度200キロの宇宙空間まで恒星号が到達し、そのまま、大陸本土に戻ることができた。


 あくまで大陸本土の上空だったこともあり、環太平洋防衛機構に対する脅威とみなされなかったのだろう。


 恒星号・・・の二度目の飛行となる今回は、本格的な宇宙、月を目指す予定・・である。


 今回の飛行も恒星号の操縦室の中にいるのは、操縦士の林浩然リンコウネンと船長の金田光の2名だけだ。今回もテスト飛行なのだが、恒星号の中には、既定の物資が積み込まれている。すなわち、2名で5年は無補給で宇宙の旅が可能な状態となっている。金田光が言葉巧みに特殊武器研究所の上位組織である人民軍と人民軍中央研究所の上層部に取り入って了承させたものである。


 林浩然リンコウネンは人民軍から特殊武器研究所に送り込まれたスパイだと金田光は考えていたが、宇宙に出てしまえばどうとでもなると思っていたし、そのための準備も終わっていた。


「恒星号、推力上昇。

 離昇!」


「高度100キロ、宇宙空間に到達。恒星号はこれより月への軌道に入る」


 地上の管制に対して操縦席に座る林浩然リンコウネンが恒星号の状況を逐一報告している。金田光は操縦席の後ろの一段高い船長席で林浩然リンコウネンの後ろ姿を眺めていた。彼の右手の中には、黒光りする拳銃が握られていた。


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