第61話 中継器捕獲
スカイスフィア3は土星ゲートで発見されたゲート間中継器を捕獲するため地球を発ち、土星に向かった。この時の地球-土星間の距離は約16億キロ。17時間でスカイスフィア3は土星ゲートに到着できる。
船内Gは常に床向きで地球上と同じ1Gのため、圭一の屋敷の3人は地球を遠く離れ土星に向かって航行中であると圭一に言われてはいたが、太陽系を横断中である実感は全くなく、今では新屋敷と呼ばれているスカイスフィア3内の圭一の屋敷で、普段通り仕事を続けていた。
さらに、地上の屋敷内には超空間通信機が据え付けられているため、スカイスフィア3から電話もインターネットも地上に繋がり、TVも全チャンネル視聴できるため、彼らの実感のなさに拍車がかかっていた。
新屋敷の中庭に植えられた草木も人工太陽光の中ですっかり根を張り、3本ほど植えられた5メートルほどの高さのソメイヨシノは既に満開を過ぎて緑の葉をのぞかせている。中庭の中にはミツバチだけは放されているので、植えられた草木は実や種をつけることは可能だ。
新屋敷の中でこれまで通り働いている3人が特別というわけではなく、圭一たち4人も土星ゲートに到着するまで特に仕事はないので、スカイスフィア3内のスポーツジムで汗を流している。最初はスカイスフィア2のスポーツジムを真似てローイングエルゴメーターとトレッドミル程度しか置いてなかったジムなのだが、今では25メートルプールも作られ、シャワールームは当然として男女用サウナも用意されている。
エルゴないしトレッドミルで汗を流し、一度シャワーを浴びてプールでひと泳ぎし、その後サウナに入って再度汗を流して最後にシャワーを浴びることがトレンドになっている。翔太も圭一も今ではかなり引き締まった体つきになっており、明日香、真理亜も体つきが締まってきている。もちろん圭一の屋敷の3人もスポーツジム使っている。圭一の屋敷の3人はなし崩し的にスカイスフィア3に住むことになったのだが、今ではスカイスフィア3に住んでよかったと思っていた。
現在、圭一たち4人は、土星ゲートへの接近に備え、ブリッジに詰めていた。圭一たちと一緒にドーラもいる。4人は並んで席に着いているがドーラのアバターロボットは立ったままだ。
「あと1時間で土星ゲートに到着するよ。
50キロまで接近したら転送機で捕獲するね」
「スカイスフィア2の時は、推力の方向を変える時に無重力になっていたけど、スカイスフィア3だとなんだか味気ないわね」と、明日香。
それを受けて「あの無重力がなくなって、ホッとしてるんだけど」と、翔太。
「明日香おねえちゃん、その椅子だけ無重力にできるけどそうする?」
「ドーラちゃん、そこまではいいわよ」
「了解」
スカイスフィア3はゲートに接近中ではあるが、正面の曲面モニターに映し出されている映像は今のところ変化がない。ただ接近するにつれ少しずつ解像度が上がっているはずである。
……。
「中継器が見えてきたよ」
ブリッジの4人はドーラの声でスクリーンに大きく映し出されているゲートの隅に黒く映った物体を見つけた。その物体は20数秒消えたかと思うと、3秒程度現れ、また20数秒消えるようだ。
「防爆隔離室に転送する前に、ここからスキャンしておくね。
……。
内部制御デバイスの解析終了。
あとは、システムに侵入するだけ。
そこはスカイスフィア3の中で作業するから、そんなに時間はかからない。
……。
中継器を
捕獲成功。
宇宙空間からいきなり防爆隔離室に転送されて中継器の内部システムが空回りしているあいだにシステムに侵入。コントロール確立成功。これで、大丈夫。
後はデータを抜き出して解析するだけ。
内部データ読み取り開始。……。完了。
これで、お終い。
もうこの中継器は用済みだけどどうする?」
「邪魔じゃないなら、いちおう取っておいてくれ」
「了解。
プログラムとデータの解析開始。……。
中継器が太陽系の中で通信していた相手を見つけた。彗星のフリをして、太陽を周回する長楕円軌道に乗ってる。
これまで中継器が受け取ったデータを見ると、相手は観測機みたいだね。地球を観測していたようだよ」
「宇宙海賊の送り込んだ観測機だとして、目的は再侵攻のための地球の監視だろうな」
「だろうな。スカイスフィア3の位置を確認したかったんじゃないか。
スカイスフィア3は、連中から見れば自分たちよりよほど進んだ知的生命体が運用する宇宙船だろうから、地球とは何の関連もなく偶然太陽系に現れたと考えてもおかしくないからな」
「おそらくその通りだろう」
「今捕まえた中継器と対になった中継器が土星ゲートの先の恒星系にいるはずだし、そこから先は宇宙海賊のアジトのある星系まで芋づる式に中継器が見つかると思うよ」
「わたしもそう思うけど、
太陽系からのデータが届かなくなったわけだから、宇宙海賊たちは不審に思わないかしら?」
「不審に思うだろうし、原因を調べるため調査船を寄こすかもしれないが、自分たちのアジトを移転はしないんじゃないか。これは連中のアジトが大規模でどこかの惑星上にあるとしてだけどな」
「わたしたちみたいに、宇宙船を本拠にしてるってことはないかしら?」
「それは難しいだろう。俺たちだって、地上に工場を持っているんだし」
「頭脳部分と、手足の部分が分離していれば、可能性はあるだろうな。
少なくとも手足をもぎ取ってしまえば動けなくなるだろうし、地球の戦力は日増しに増大していくわけだから、手足だけだろうともぎ取ってしまえば、地球の脅威になることはなくなるんじゃないか」
「なにも、手間暇かけて根絶やしにしなくちゃいけないこともないからな」
「宇宙海賊が、海賊であるためには、メインの襲撃相手がいるわけだろ?」
「だろうな。俺たちが手を出さなくても、宇宙海賊の宿敵が弱った宇宙海賊を根絶やしにする可能性もあるからな。
それで、今回の目的は達成できたけど、地球を観測中の観測機はどうする?」
「何か利用法はあるかな?」
「技術的な検証は中継器で十分だから利用法は何もないかな」
「放っておいて問題はあるかい?」
「連絡先がなくなったわけだから、通常通信に切り替えてどこか近くの恒星系に潜む中継器に向けて信号を送る可能性はあるけど、通常通信の場合信号が到達するまでに何年かかるか分からないわけだから、あまり意味のないことだと思うよ」
「それでも地球に帰りがけに攻撃機で破壊しておくか」
「そうだね。それでいいと思うよ」
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