第59話 半年


 スカイスフィア3が地球に到着してすでに半年が経っていた。


 圭一の地上の屋敷周辺で建設された第一期の製品製造工場内では超空間通信装置の製造も始まっている。もちろん宇宙船用の通信装置なのだが、1台は圭一の屋敷に置き、電話やインターネットと接続することで、スカイスフィア3がどこにいようと、ほぼリアルタイムで地球の情報を知ることができるようになる。



 軌道高度1600キロの衛星軌道上に完成した組み立て工場は2時間で地球を周回し日本の上空を1日12回通過する。現在組立工場では本格的な宇宙船と工場衛星が組み立てられていた。


 本格的というのは、重力制御装置、防御スクリーン発生装置、攻撃兵器を組み込んだ宇宙船ということだ。ただ、現在建造中の宇宙船は、いわゆる戦闘艦ではなくアステロイドベルトなどでの鉱石の採掘を目的とした採掘船だ。


 工場衛星は、採掘船から運ばれてきた鉱石を精錬する。稼働すれば、地球の鉱物資源の消費がかなり抑えられる。


 こういった工場を宇宙空間に建設するのは、もちろん地上の用地の問題もあるが、誰も衛星軌道上の工場内を覗き見ることはできないので、防諜上の配慮が不要である点が大きい。



 ここは、スカイスフィア3内の圭一の屋敷の居間の中。部屋には、翔太と明日香の二人とドーラのアバターだけがいる。圭一は環太平洋防衛機構PRDOがらみでテレビ会議中。真理亜はドーラに作ってもらった専用の観測室で星を眺めている。


「順調だね」


「ドーラが段取りしているものね」


「宇宙船関連もそうだけど、足元の日本の方もこの半年で景気がいっきに回復して明るいムードになってるみたいだね」


「そうね。こういったのも特需っていうんでしょうね」


「宇宙特需、いやスカイスフィア特需かな。

 とにかく、スカイスフィア3の提供しているものは日本だけの独自技術ってカテゴリーだから、他の国じゃまねのしようがないものばかりだし」


「これまで周辺国のスパイが日本の技術を盗み放題だったらしいけど、どうあがこうが、スカイスフィア3の技術じゃ、インフラがない以上たとえ盗めても利用できないものね」


「しかも、世の中の雰囲気がこうなってしまって、周辺国におもねるような政党や議員はおとなしくしているようだよ」


「日本もようやく普通の国になってきたってことなんでしょうね」


「だね。

 ドーラ、次の段取りはどうなっている?」


「これから宇宙船をバンバン作っていくけど、地球から燃料を吸い上げてばかりじゃ困るから、精錬衛星が稼働したら、木星に水素とヘリウムその他のガスを汲み上げる井戸作り。

 軌道エレベーターに似てかなり大きなものになるけど、結局は人工衛星だから手間はかかるけど大したことないよ。

 それに前後して、いよいよ探査宇宙船団と地球防衛艦隊に取り掛かるから」


「地球防衛艦隊か。感慨深いなー」


「この前の宇宙船団程度は簡単に粉砕できて、環太平洋防衛機構PRDOの各国を防衛できるものを作っておけば、スカイスフィア3は自由に宇宙を飛べるようになるからね。

 あと半年ガマンだよ」


「たったの半年で日本を中心に大きく変わったけど、これから半年でもっと変わるわけだな」


「スカイスフィア3が自由に飛べるようになったらどこにいく?」と、明日香。


「宇宙海賊にお目にかかりたくはないけど、宇宙海賊がいるということは、いきなり海賊が宇宙の中で生まれるわけはないんだから、その海賊を生んだ知的生命体の文明があるんじゃないかな?」と、翔太。


「そう言われればそうね」


「ドーラの時代にも50種も知的生命体がいたというし、今回の宇宙海賊の本拠地を探しだす前に、そういった知的生命体に出くわすんじゃないかと思うんだ」


「なるほど。

 わたしたちは、そういった宇宙海賊の被害に遭っている文明と仲良くすればいいってことね」


「うん。

 そういった文明の中にはスカイスフィア3を超えた文明もあると思うんだよ。

 当然、その文明に巣食う海賊たちも僕たちじゃ歯が立たない」


「スカイスフィア3は無敵だと思い込んでいたけれど、確かに上には上がいて当たり前だものね」


「とはいえ、ある水準を越えた知的文明に宇宙海賊がいるとは思えないけどなー」


「それもあるわね。

 でも、そう考えると、そういった上位の知的文明は、下位の文明の手助けはしてないってことなのかな?」


「うーん。宇宙海賊のように平気で他の知的文明を隷従させようという連中がいる以上そう考えるか、たまたま、善意の上位知的文明の周囲に、悪意を持った存在がいなかったのかもしれないよ。善悪は立場の違いでだけなので、ここでいう善意というのは他の知性体を尊重するって意味で、悪意というのはその逆って意味だけだけどね」


「その意味でもいいけど、善意の上位知的文明の周囲に、悪意を持った知的文明がいたかもしれないけど、悪意を持った知的文明は、いくら上位知性体が他の知性体を尊重するといっても、自分たちのテリトリーの近くで活動されたら嫌だから、滅ぼされてるかもね」


「ドーラの何とかって言う帝国も大昔に滅んでしまったようだし、広い宇宙の中にはいろいろな歴史が必ずあるわけだ。

 歴史を学ぶことは、人を学ぶことだと聞いたことがあるけど、宇宙文明の歴史を学ぶことができれば、宇宙の知的生命体のことをいくらか理解できるようになるんだろうな」


「でも、ドーラの国が滅んでかなり経ったあと人類の文明が生れたわけだけど、その短い人類の歴史を学ぶだけでも大変よ」


「たしかに」


 翔太と明日香が真剣に宇宙文明について話をしていたら、真理亜がやってきた。


「あら? あなたたち、二人きりでずいぶん仲良くやってたのね。お邪魔したようでごめん。

 邪魔者はいなくなるから、ゆっくりしてて」


「真理亜、ちがーう! もう、冗談はよしてよ」


「えっ? 冗談のつもりはなかったんだけど」


 何となく居心地が悪くなった翔太は、


「ジムにいって汗を流してくる」と言って居間から出ていった。


「あれ? 翔太さん意識していっちゃった」


「もう、真理亜ったら」


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