第57話 日本の状況


 高一首相による衆議院解散を受け、選挙戦が始まった。


 世界的英雄となったスカイスフィア研究所の山田社長と高一首相の良好な関係も国民に安心感を与えていたうえ、選挙期間中、フィリピン、メキシコ、チリ、そしてイギリス、ニュージーランドが環太平洋防衛機構(PRDO:Pacific Rim Defense Organization)への参加を表明したことも与党への追い風となった。



 12日間の選挙戦は、蓋を開ければ与党が衆議院の議席の四分の三を占める歴史的圧勝に終わった。宇宙からの脅威が全世界の喫緊の課題となった今、そのイニシアティブを日本がとっていくという高一政権を国民が強く支持した結果である。



 政府は解散総選挙での圧勝を受け、直ちに環太平洋防衛機構の具体的構築作業に入り、そのための補正予算を臨時国会で承認させた。同時に政府は環太平洋防衛機構担当大臣を置いた。初代の環太平洋防衛機構担当大臣には防衛大臣小野口美紀おのぐちみきが兼務することになり、首相官邸内に環太平洋防衛機構設立準備室が設立された。


 初年度(半期分)の予算は宇宙船建造のためのインフラ整備のため5000億円。これは宇宙防衛国債の発行により贖われることになった。宇宙防衛国債は、スカイスフィア研究所が発電した電力を政府が一括買い入れし、その買い入れ価格と、政府が電力会社に売却する価格差による収益で元利を返済していく形になっている。


 次年度、環太平洋防衛機構にかかわる予算は、日本2兆円、加盟国からの協力金5兆円、合計7兆円が見込まれていた。それ以降は確定してはいないが加盟国数も順次増えて、予算規模も増大していくものと考えられている。



 下期に入り日本各所の休止中の火力発電所、原子力発電所等にスカイスフィア研究所所有の発電所が建設され、順次稼働していった。パワーコンディショナーを設置するだけで既存送電設備が使用できるからである。


 政府は、スカイスフィア研究所の発電量が十分な水準まで増加した段階で、大規模太陽光発電所メガソーラーの電力の買い取り制度を野党の反発のなか廃止し、既設太陽光パネルの買い取りを開始した。買い取られた太陽光パネルは順次廃棄されることになる。


 太陽光パネルで覆われていた斜面はパネル撤去後植林、植樹され、平地なら農地として再生されて行った。廃業した大規模太陽光発電所メガソーラーのパワーコンディショナーなどの電気設備にはソーラーパネルの代わりにスカイスフィア研究所の発電機が組み込まれ、スカイスフィア研究所所有の発電所に生まれ変わっていった。


 さらに、スカイスフィア研究所では山田圭一の所有する土地の周辺の土地取得を進め、第1段階として2キロ四方の用地を造成確保することになる。そこでは、廃棄された太陽光パネルをはじめ各種の産業廃棄物を処分し資源化する工場も建設される予定である。


 まずは圭一の所有する土地の造成が始まった。周辺の土地の取得が進めば、さらに造成地が広がっていく形だ。


 スカイスフィア3の工作室の中では、大型工作機械を建造するための工作機械と戦闘用ロボットを改造した作業用ロボットが作られ、スカイスフィア2を組み立てた新組み立て工場のそばに建設された工場に設置され、大型工作機械の製造が始まった。


 大型工作機械は、稼働すると宇宙船の主要コンポーネントであるジェネレーター、推進装置も兼ねる重力発生装置、シールド発生装置、そして軸線砲、光線兵器の本体部分と、制御機器、通信探知機器を製造することになる。


 金属材料、産業廃棄物などの各方面からの搬入のため、工場予定地へ続く道路は拡幅工事が進んでいる。




 スカイスフィア3から搬入された工作機械が据え付けられた第1期の工場内で、大型の工作機械の主要コンポーネントが製造され、国内各業界のエンジニアたちが見守る中、大型工作機械用建屋に運ばれて組み立てられていった。運搬、組み立て作業は作業用ロボットが行っている。



 工事が始まり3カ月、地上で・・・最初の宇宙船が完成した。この宇宙船は一種の貨物船で、スカイスフィア研究所の工場から宇宙船の主要コンポーネントを、日本国内の製鉄所、精錬所、造船所などの指定工場から静止衛星軌道上まで物資、資材を運搬する。静止衛星軌道上では、宇宙船の組み立て工場の建設が予定されている。国内指定工場上空は貨物宇宙船優先で、航空機の飛行制限区域となっている。


 宇宙船の組み立て工場建設などの宇宙空間での作業も、スカイスフィア3で製造した作業用ロボットが行うことになる。



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