第52話 屋敷


 翌日。


 明日香と真理亜は圭一の屋敷を出て自宅に戻って荷物を運んでこようと思ったが、壊れた門扉の先が警察の機動隊と報道陣に囲まれ尋常ではなかったため、荷物の運搬は諦めた。


 壊れたままの門扉については、警察の検証も先日終わっており、午前中には工事が入り、夕方までには工事が終わる予定になっている。



 明日香と真理亜がこの日の荷物の運搬を諦めたので、午前中に屋敷の3人を連れてスカイスフィア3のを確認することにし、屋敷の3名を含め7名がスカイスフィア2の操縦室に入っていった。


 波内女史以下3名は、初めてスカイスフィアの中に入ったので、圭一が3人を連れて船内を回ってやった。


「宇宙船という話は伺っていましたので、ロケットの中とか国際宇宙ステーションの中とかを想像していましたが、全然違ってました」と、波内女史。


 4人は船内を一通り見て回って、操縦室に入った。


 スカイスフィア2の操縦室には4つしか座席はないので、屋敷の3人には操縦席以外の3席に座ってもらい、翔太たち3人はその席の後ろに立ってスカイスフィア2の離昇に備えた。


 座席に座った3人が緊張している中で、操縦席の明日香が発進シークエンスを進めていく。


 ……。


「スカイスフィア2、発進!」


 新組み立て工場からスカイスフィア2が銀色の姿を現した。


 工事中の門扉の先で待機していた報道関係者がスカイスフィア2に気付き、一斉に撮影を始めたが、その日は晴れ間はあるものの雲が多く1分もかからずスカイスフィア2は雲の中に隠れてしまった。




 日本の上空で待機するスカイスフィア3に向けて明日香が操縦するスカイスフィア2は上昇を続ける。


『明日香おねえちゃん、ここからはわたしが操縦するから』


「了解」


 操縦席正面のモニターに映し出されたスカイスフィア3だが、表面が磨かれて鏡のように輝いていた。


 明日香の後ろの座席に座る3人はモニター越しではあるがその巨大さに息をのんでいる。


「スカイスフィア3だけど、なんだか見違えるほどきれいになっていない?」と、操縦をドーラに任せた明日香。


「燃料に余裕ができて、磨いたんだろうな」


『どう、見違えた? これが本来のスカイスフィア3の姿なんだよ』


「確かに。美しい」


『やってよかった。とはいえ、戦闘用に磨いただけだけどね。でも外殻装甲を磨いたのは生まれたとき以来だからわたしも何だか気持ちいいの』


 13000年間の垢を落としたのかと圭一たちは4人思ったが、ドーラに対して悪いと思った4人は、何も言わなかった。残りの3人はドーラの言っている意味を理解できなかったかもしれない。



 その後間を置かずスカイスフィア2はドーラの遠隔操縦でスカイスフィア3の格納庫に係留された。




『これからみんなをブリッジに転送するから、みんな立ち上がってくれる?』


 操縦室内の全員が立ち上がったところで、


『10数えたら転送するからね。

 10、9、……、2、1、転送』


 スカイスフィア2の操縦室にいた7人はドーラの言うブリッジに立っていた。空間的にはそれほど広くはなく、スカイスフィア2の操縦室にあったシートと同じ形のシートが7つ並ぶだけで、操作パネルのようなものはどこにもなかった。ブリッジの前方には大型の曲面モニターが一つあり、宇宙空間と地球が映し出されていた。非常にさっぱりした、言い方を変えれば殺風景な部屋だった。そして、殺風景なブリッジの真ん中に1体の小型のロボットが立っていた。


「ここがブリッジか。

 当たり前だが、スター○レックのブリッジとは趣が違うな」


 小型ロボットが、圭一たちの前までやってきて、


「船内どこからでもわたしに呼び掛けてくれて構わないんだけど、声だけだといろいろ不便なところもあるから、このロボットをわたしと思ってね。

 ブリッジの内装もどういった感じにでも変更できるから、スター○レックのブリッジ風にしちゃう?」


「いや、これで事足りるならこれで十分だ」


「了解。

 航行する時はブリッジで状況を把握して、わたしに指示してくれればいいからね。

 それじゃあ、お待ちかね。みんなの生活の場にご案内!」


 小型ロボット改めドーラがブリッジの後方中央まで進むと、自動ドアだったようで音もなくドアが開いた。その先は短い通路で、5メートルほどで通路が左右に分かれるT字の突き当りになっていた。突き当りにはドアがあり、そのドアの前にドーラが進むと自動でドアが開いた。


「この先が、圭一おにいちゃんの『お屋敷』。中庭もちゃんとあるよ。植栽は今のところ何もないけどね」


 確かにドアの先はどこかで見たことのある玄関だと思ったら圭一の屋敷の玄関と全く同じだった。


「器材なんかもだいたいの物はコピーしたけど完全じゃないからそこは我慢してね。それで、圭一おにいちゃんとおにいちゃんのところの3人はここで生活してね。

 それで、翔太おにいちゃんたちの部屋なんだけどデータがなかったから、3人とも同じ形の3LDKの部屋を作ったから。ブリッジから見て右に曲がれば翔太おにいちゃんの部屋とエレベーター。左に曲がれば明日香おねえちゃんと、真理亜おねえちゃんの部屋があるから」


 それからドーラは圭一の屋敷を出て、翔太の部屋の方向に歩いていった。


「突き当りが翔太おにいちゃんの部屋で、左に曲がって突き当りのドアがエレベーターのドア」


「食糧庫は、エレベーターで一段下がったところに。もう一段下がれば、食料工場」


「言ってくれればどこにでも転送してあげられるけど、エレベーターを使う方がいいかと思ってエレベーターを作ったの。

 こんなところかな」


「よくわかった。ありがとう」


「そう言えば、スカイスフィア2の中の食料品なんかをこっちに移しちゃっていいかな?」


「頼む」


「了解。

 完了しましたー。

 いったん下の食糧庫の中に移したから、食糧庫の中にはカートを何台か置いてあるから必要な時にはそのカートを使って運んでね。

 エレベーターを上に上がると今のところは何も使っていない予備の空間があるだけ。トレーニングルームとか作っておこうか?」


「スカイスフィア2のトレーニングルームを参考にして作ってくれればありがたいな」


「了解」


「各人自分の部屋の中を確認して足りないものを探した方がいいな。1時間後にブリッジに集合しよう」


「「はい」」


 そこで各人がバラバラになって自分たちの部屋に向かった。圭一の屋敷の3人も圭一と一緒に圭一の新しい屋敷に入っていった。3人はなし崩し的にスカイスフィア3で生活することになったようだ。



 一時間後、7人がブリッジに集合した。


 結論として、生鮮食料品以外足りないものは何もなかった。厨房道具なども屋敷の厨房にあるものと見た目全く同じものが揃えられており屋敷の料理人一橋シェフに言わせると『フライパンにもちゃんと油が馴染んでいて、今からでも料理が作れます』とのことだった。


「業者に連絡して生鮮食料品を下の・・屋敷に届けさせて、屋敷の中の食料品と一緒にここに持ってこよう。

 ドーラ、こっちの屋敷に置いてある電話はつながるのかな?」


「もちろん」


「了解。

 一橋さん、生鮮食料品を何日か分注文しておいてくれますか?」


「はい」


「受け取りにいったん地上に降りてその時各人の私物も乗せてしまおう」


「「はい」」


「明日香と真理亜さんはマンションに戻って私物を取って来るかい?」


「面倒だし、冷蔵庫の中のものは片付けてるし、大したものは置いていないからいい。当面はスカイスフィア2に積んでいる衣料で間に合うし」


「わたしも」


「ねえ、ドーラ、宇宙服もいいけど、普段着なんかも作れるの?」


「もちろん。ご要望通りの物も作れるし、スカイスフィア2に積んである衣料のコピーも簡単だよ。

 それと、連絡艇を作ったから、スカイスフィア2を使わなくても地上と行き来はできるからね」


「スカイスフィア2だと目立つし、大げさだものな。

 その連絡艇はさすがにそんなに目立たないんだろ?」


「一応そのつもり。スクリーン展開中は地球のレーダーだと後ろのものが見えなくなっちゃうから異常があることは分かるかもしれないけど、位置の捕捉は難しいと思うよ。目で見たりカメラで撮影すると黒抜きになると思う」


「それはいいな。どういった装置か分からないが、スカイスフィア2にもその機能が欲しいところだ」


「了解、今日中には取り付けておくね」


「よろしく」


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