第51話 拠点


 スカイスフィア3を新たな拠点として使えるかドーラに尋ねたところ、衣・食についてドーラが圭一たちに説明した。


『スカイスフィア3の居住区画内では何を着ててもいいけど、いちおう宇宙服くらいあった方がいいでしょ? 食は、植物や動物を培養して食品を作ること。培養には少し時間がかかるけど、スカイスフィア2に積み込まれた食品を最初のうち消費するなら問題ないと思う』


「俺たちに合う宇宙服が作れる?」


『居住区画内と同じで、宇宙服の内部を地球の地上の大気組成、1気圧、摂氏23度、湿度は55パーセントくらいに保てばいいんでしょ?』


「そうだが」


『宇宙服は少しゴワゴワするけど、感覚的にはスキー服くらいのものだから、簡単に着ることも脱ぐこともできるし、もちろん真空の中に出ても1気圧程度じゃ膨張しないから強ばらないよ。その時はヘルメットを被らないといけないけどね。

 みんなのサイズも測定済みだから大丈夫。

 池波さんたちもスカイスフィア3にやってくるならそっちの準備もするけど、手間は一緒だから、どうする?』


「そうだな。地上に3人を残しておくと心配なところもあるし、重力が1Gで一定ならだれでも問題ないものな。

 3人の意向を聞かないといけないが、準備だけは頼むよ。

 スカイスフィア3から電話やネットが使えれば言うことないんだがな」


『圭一おにいちゃん、スカイスフィア3が地球の近くにいる間なら、地上にロボットを残しておけば、ロボット経由で電話もインターネットも利用できるよ。

 スカイスフィア3内の工作室じゃ作れないけど、ちゃんとした工場を作って超空間通信装置が作れるようになれば、装置を地上に置いてそういった回線に接続することで、スカイスフィア3がどこにいようと使えるようになるから』


「さすが、ドーラだ」


『エッヘン。

 あと、生活用の器材のコピーを作るため、ロボットが屋敷の中を見て回るから了承してね』


「もちろんだ。

 そうするとスカイスフィア3で生活するとして、何も問題はないじゃないか」


「そうだな」



 その後、圭一が屋敷の3人にスカイスフィア3での生活を打診したところ、一度スカイスフィア3の中を見てから考えたいということに話が落ち着いた。




 研究所の建物が壊され、保管されていたX金属ごと大型金庫が何者かによって持ち去られた件について、金庫の中のX金属の総量は10キロ程度しか残っていなかった関係で、スカイスフィア研究所にとってそれほど痛手ではなかった。実験装置なども多数壊されていたが、X金属用倉庫兼加工場は健在だった。サーバーについては研究所内への立ち入りが現在警察により禁止されているため確認できていない。


「サーバーの安否は今のところ不明だが、物的被害だけで済んでよかったと思うしかないな」


「研究所内のサーバーが壊れていたとしてもデータについては大丈夫よ。スカイスフィア2のサーバーにちゃんとコピーを取っているから」


「さすがは明日香だ」


「給料分くらいの仕事はね。。今なら、スカイスフィア3の中にもデータはあると思うわよ」


「確かに」


「それはいいけど、わたしたちがいない時を見計らっての犯行だったのかな?」


「どうだろうな。犯行は深夜だったそうだから、俺たちが宇宙に出かけていようがいまいが盗みに入ったんじゃないか。

 宇宙にいっていなかったら、翔太は自分の部屋で寝てただろうから、ビックリしたろうな。そこで慌てて外に出ていたら賊に見つかって大変なことになっていたかもしれないから、ある意味運が良かったってことだろうな。さすがは、翔太だ」


「またかよ」


「目当てはX金属だろうな。

 X金属倉庫兼加工場は頑丈に作っていたせいか、重機くらいでは壊せなかったみたいだな」


「目の前にでっかい金庫があるから、あそこにそんな重要なものが保管されているとは思わなかったのかもな」


「そうかもな。

 しかし、金庫の中に入っている金目の物を盗もうとした犯行なら可愛いが、X金属と知っての犯行なら厄介じゃないか?」


「逆だろう。X金属の存在を知っている人間は限られる。

 考えられるのキオエスタトロンの製作を依頼しているエンジニア会社。次は、推進器、発電機用の水素チャンバーを作った金属加工会社。そしてスカイスフィアを建造した造船会社。X金属発電所を設置している会社か。この中で、可能性が高いのは発電所を設置している会社だな。

 しかし、可能性が一番高いと言ってもその可能性はかなり低い。

 そういったことから考えれば、大掛かりだったが単純な物盗りだったんじゃないか?

 いずれにせよ、金庫の中に残っていたX金属は今の俺たちにとっては僅かな量だったから、俺たちにとっては実質的な被害はないし、警察の捜査を待つよりないから、そっちはそのうちでいいだろう」


「そうだな。そっちは後回しにするしかないから、明日になったら、屋敷の3人も連れてスカイスフィア3の中を見せてもらって、不足しているものなんかを確認していこう」



 その日は、翔太たち3人はそのまま圭一の屋敷で一泊している。




 高一首相による危機回避の発表後、壊れたままの門の前に報道機関が詰めかけたが、警察庁からの指示により圭一の屋敷の門前は県警機動隊によって封鎖されており敷地内に報道機関の者は進入できなかった。また、そういった正規の入り口ではなく、山の方から回り込み敷地内に侵入を試みる者もあったが、ロボットにより阻止されている。上空から侵入を試みるドローンなどは、容赦なくロボットが撃ち落としている。見た目、ドローンは一瞬で消滅しているためドローンが撃墜された証拠はない。翌日には圭一の屋敷周辺はドローンについても飛行禁止区域に指定された。



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