第50話 研究所


 高一首相との会談を終えた圭一はドーラによってスカイスフィア2の操縦室に転送された。会議室と官邸前の戦闘ロボットも転送されロボット格納庫に戻されている。



「圭一、ご苦労さま」


「圭一兄さん、首相と会談なんて状況が状況だから当たり前なんでしょうけどビックリ」


「防衛相、感じ悪かったわね」


「だな。気持ちはわからないでもないが、立場を考えてくれないとな」


「そうよね。ドーラとスカイスフィア3のおかげでも、わたしたちは地球の救世主なのにね」


『地球の救世主って素敵!』


「ドーラ、礼を言うのを忘れていた。ありがとう」


『どういたしまして。

 それじゃあ、スカイスフィア2は組み立て工場に降りるよね?』


「まずはな。スカイスフィア3は日本の上空4、500キロで待機してくれ。衛星軌道を回らなくても大丈夫だろ?」


『もちろん大丈夫。

 それじゃあ。スカイスフィア2の係留を解いて格納庫から発進させるね。

 格納庫から出るまでは、スカイスフィア2の操縦はわたしに任せて。

 その前に、そっちに戦闘ロボットを送っておくよ。12体くらいいた方がいいかな』


「戦闘ロボット?」


『地球での最重要人物たちになった以上、護衛は必要だと思うの。

 それと、わたしへの通信はどのロボットでもいいから話しかけてくれればいいから』


「ドーラ、ありがとう」


『えへへ。

 じゃあ、スカイスフィア2、発進!』


 明日香は、操縦卓上から手を下ろして、他の3人同様、成り行きを見ていた。正面のモニターには格納内が映され、ゆっくりと格納庫のハッチが近づいてきた。あわや接触というところでハッチが開き、スカイスフィア2は日本の上空に浮いていた。



 そこからは明日香がスカイスフィア2を操縦し、スカイスフィア2は新組み立て工場兼格納庫に無事着陸した。



 4人は12体のロボットを引き連れて、スカイスフィア2のハッチをくぐり、そのまま斜面を下って地上に下り立った。


「ふー。予定よりよほど早くここに戻ってこられたが、ずいぶん昔にここを飛び立ったような感じがするな」


「そうだな」



 4人はロボットを後ろに従えて揃って坂道を下っていったのだが、その坂道の下の方から圭一の屋敷の使用人たちが駆け上ってきた。


 その中の一人、波内好子が、


「圭一さん!

 研究所に賊が!」


「研究所に賊?」


「3日前の深夜、研究所が重機で一部破壊され、金庫が運び出されました!」


「屋敷のみんなにケガは?」


「わたしたちが寝ているあいだのできごとで、ケガ人はいません。

 物音に気づいたときには、研究所は破壊され重機は門から表に出ていくところでした。

 警備会社の警備員が駆け付けた時には、賊と重機などは逃走した後でした。その後何も起きていません。

 警察に被害届を出して、捜査も始まったのですが、なにせ宇宙船騒動で捜査は全く進んでないようです。犯行に使用されたらしい重機だけは、市内で発見されています」


「波内さんたちにケガがなかったのならそれはそれで良かった」


 坂道から立木越しに研究所の方を見下ろすと、確かに研究所が半壊していた。


 坂道を駆け下りて、研究所の前に立ってみると、警察による立ち入り禁止の黄色いテープがいたるところに張られていた。


 他の被害は、敷地の入り口の門も引き倒され、地面には重機の通った跡がはっきり残り研究所の半壊部分に続いていた。


「やられたな」


「波内さん、屋敷の方は大丈夫?」


「お屋敷には被害はありません。ただ、翔太さんのアパートには幾分被害が出ています」


「僕のアパートの中には大事なものはほとんどないから」


「翔太はうちにしばらく泊ってればいいだろう」


「そうさせてもらうよ」


「翔太さんの部屋の用意はお任せください。

 それと、明日香さんと阿木さんのご実家から昨日電話がありましたので、こちらからは連絡の取りにくい場所に今出張中です。と、答えています。ご実家のみなさんは無事ということでしたが、早めにご実家に連絡してあげてください」


「池波さんありがとう」「ありがとうございます」


 明日香と真理亜は自分たちの荷物は圭一の屋敷に置いているので、急いで屋敷に向かった。二人ともスマホは充電器に繋いだままなのですぐにでも使える。


「それはそうと、圭一さん、先ほどニュースに流れていましたが、研究所所属のスカイスフィアが地球を囲んでいた宇宙船団を破壊したとか。しかも、圭一さんが首相と会談したとかありましたが、いったいどういうことなのでしょう? それと、みなさんの後ろには見たこともない銀色のロボットが」


「波内さん、話せば長くなるので、いったん屋敷に戻って、お茶にでもしよう」


「そうですね」


 池内女史が一橋シェフと多羅尾文子を連れて屋敷に戻っていった。


「いまスカイスフィア2に積んでいるX金属も全部スカイスフィア3に移してしまえばいいし、これからはスカイスフィア3を拠点にした方がいいかもしれないな」


「そうだな。

 まだ、スカイスフィア3の中を見ていないが、中に入ることもできるとドーラも言っていたし、その方向で考えていこう」




 圭一と翔太はみんなから遅れて屋敷の中に入り、ロボットのうち2体を連れてリビングに向かった。残りの10体は玄関前で待機させた。



 明日香と真理亜は実家への連絡を終えてリビングに入ってきたところで、すぐにお茶の準備も整い、お茶の用意のできたテーブルを圭一たち4人と屋敷の3人が囲んだところで、圭一が簡単な経緯を屋敷に残っていた3人に説明した。


「……。

 そんな感じで、スカイスフィア3はいま、この屋敷の上空で待機している。

 ドーラ、挨拶してくれるか?」


『スカイスフィア3を管理している、ドーラだよ。

 よろしく』


 ドーラの声がリビングの中に佇立した2体のロボットのうちの片方から聞こえてきた。


 どう見てもタダ者に見えないロボットから可愛らしい女の子の声が響いて来たことで屋敷の3人が驚く中、


「ドーラ、見ての通り研究所は壊されてしまったし、すぐには復旧できそうもないんだが、スカイスフィア3の中を俺たちの拠点にすることはできるかな?」


『うーん。今すぐは無理だけど、明日の朝までにはじゅうは用意できるよ。

 についても、何とかなるかな。しょくについては少し時間がかかる』


「住はわかるが、衣とか食ってなんだ?」


『衣は船内での服装。何を着ててもいいんだけど宇宙服はあった方がいいでしょ? 食は、植物や動物を培養して食品を作ること。培養には少し時間がかかるけど、スカイスフィア2に積み込まれた食品を最初のうち消費するなら問題ないと思う』



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