第49話 会談2

[まえがき]

46話で敵艦艇の残骸を回収していますが、転送により回収した場合、速度差による運動エネルギーを考えると、大きなものは回収できそうにないため、外殻の破片のみ回収できたことに変更しています。ストーリー上の差はありません。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 首相官邸の会議室で、圭一は高一首相、山野防衛相と会談を行っていた。


「スカイスフィア3については国にその所有権を譲渡するというお考えはありませんか?」と、山野防衛相。


 山野防衛相は民間企業が世界一どころか全世界の軍事力を合わせても太刀打ちできない軍事力を持つことを危惧しているのだろうと圭一は思ったが、


「全くその気はありません」と、取り付く島もなく断った。


「いくら資産家の山田さんと言えども、政府に逆らうことはあらゆる意味で不利になりますよ」


「山野さん!」ここで、高一首相が鋭く山野防衛相を制した。


「総理、申し訳ありません」と、型通り山野防衛相が謝ったが、圭一に向けてのものではない。


「山野大臣の言わんとすることは理解できますが、政府に逆らって不利になるという今の言葉を、われわれはそっくりそのまま返せるんですよ。さきの宇宙船団に対して世界は何か有効な対処が一つでもできたんですか? その宇宙船団を32機の戦闘機だけで簡単に叩き落した実力の片鱗をお見せしましょうか?

 ドーラ、戦闘機を55機ほど東京上空に展開させてくれ。

 10段のデルタフォーメーションだ。ドーラ、俺の言ってるデルタフォーメーションって分かるだろ?」


『はい、はーい。デルタフォーメーション了解』。戦闘ロボットの一体からドーラの声が響いた。


『じゃあ、10秒後に攻撃隊発進しまーす!』


「き、きみはわれわれを、日本政府を恫喝するつもりなのかね!?」


「われわれの実力をお見せするだけです。自衛隊機でスクランブルでも実弾射撃でもかけください。たった・・・55機の戦闘機ですが低空を超音速で飛行すれば見ごたえあると思いますよ。外に出て見てみませんか?」


「山田さん、申し訳ありません。

 日本政府は、スカイスフィア研究所にとっていかなる不利益も及ぼしませんので、ご理解ください」と、高一首相が謝ってきた。そのあと、山野防衛相に向かい、


「山野さん、ここはもういいですから、防衛省・・・にお帰り下さい」


「……」。山野大臣は何も言わず席を立ち会議室から出ていった。部屋には圭一と高一首相、政府側の秘書官が2名、それに2体のロボットが残っている。


「ドーラ、戦闘機はひっこめてくれ」


『はい、はーい。

 明日香おねえちゃんが、どうせ出すなら戦闘ロボットも出して全力でって言ってたけどやめとくね』



「失礼ですが、ドーラとは?」


「スカイスフィア3を操るAIのようなものです」


「AIなんですか。人間と変わらないのですね」


「優秀なAIだと思います」


『ヤッター! 褒められちゃった、エヘ』


「なるほど。

 国内外はご承知の通り混乱していますので、メディアに対して地球を包囲していた宇宙船団の脅威は完全に去ったと発表する必要がありますが、その際スカイスフィア研究所とスカイスフィア3の名まえを出してもよろしいですか?」


「かまいません。スカイスフィア3のことは、スカイスフィア研究所所属の宇宙船とだけ言ってください」


「了解しました。

 話を元に戻しますが、わが国が地球防衛のためにできることと言っても大したことはできませんし、国連も正常に機能するとは思えません。

 ここだけの話ですが、スカイスフィア3は主要国の軍と戦った場合、勝算はありますか?」


 高一首相の質問の意図を測りかねた圭一だが素直にその質問に答えた。


「スカイスフィア3が衛星軌道を1周するだけで、主要国の軍事目標は潜水艦を含め全て破壊できると思います。ただ、占領するに足るロボットはさすがに保有していませんので、そこまでです」


「もし、わが国が弾道ミサイルなどで攻撃された場合、ミサイルを撃墜出来ますか?」


「ドーラ、どうだ?」


『弾道ミサイルのスペックを調べたら、大砲の弾と一緒でタダ落っこちてくるだけの弾頭みたいだから何発飛んでこようが、日本のどこかに着弾すると分かった瞬間に全部消せるよ。その他の低空を飛ぶミサイルも変わらない。スカイスフィア3が日本の上空にいたならだけどね』


「わが国は周辺諸外国からの脅威から解放されるということが分かりました。

 日本政府は、世界のイニシアティブをとるつもりで、スカイスフィア研究所に協力しましょう。

 まずは、新たな組織が必要となるでしょうが、これについてはよく考えてみます。

 あとは、スカイスフィア研究所で宇宙船を作っていただくことになるでしょう。もちろん国で資金を提供します」


「武装を本格的に施すとすると、何か考える必要がありますが、宇宙海賊の根拠地を探すだけならスカイスフィア1程度で十分でしょう。建造は造船会社に依頼しますが、その気になれば量産も可能です」


「後日政府よりスカイスフィア研究所に正式な依頼を行います」


「了解しました。

 スカイスフィア3は着陸させるより日本の上空で滞空していた方がいいでしょうし、そうなると、連絡のためにわたしの家からスカイスフィア3へ行き来することが多くなるので、わたしの家の周辺は飛行禁止にしていただき、われわれが上空にとどまるスカイスフィア3に自由に行き来できるようにしていただきたいのですが?」


「今日中にも対処します

 今後の連絡先は、スカイスフィア研究所でよろしいですか?」


「はい。わたしは当面研究所にいるつもりです」


 その後、圭一と高一首相はしばらく会話を交わし、


「それでは、失礼します」


「有意義なお話ができました。

 山田社長、遅れましたが、地球を救っていただきありがとうございます」


 高一首相が深々と頭を下げる中、圭一はスカイスフィア3に護衛ロボットともども転送された。



 高一首相は、圭一との会談を終え、直ちに、民間企業スカイスフィア研究所の保有する宇宙船によって、宇宙船団からの脅威が取り除かれたことを内外に発表した。


 同時に、警察庁に対して、スカイスフィア研究所周辺を厳重に警戒し、不審者などの侵入に備えるよう指示している。また、国交省に指示し圭一の屋敷を中心に半径10キロを飛行禁止区域に指定した。




 同盟国からの問い合わせに対しては、私企業との守秘義務を盾に、スカイスフィア3はスカイスフィア研究所の所有する宇宙船であることだけを回答している。



 高一首相と圭一との会談の翌日、山野防衛相は辞任した。もちろん更迭である。高一首相はただちに小野口美紀防衛副大臣を防衛大臣に昇格させ、これまでの2名の政務官のうち当選回数の多い政務官が副大臣に昇格し、高一派の国会議員が空席となった政務官の席に着いた。




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