第48話 会談1


 目の前の女性は総理大臣の高一珠恵たかいちたまえである。どう見てもそこらの風采の上がらない30過ぎの若造の格好をしたことを少し反省した山田圭一だが、そもそも圭一はこれ系統・・・・の服以外、屋敷に置いてある結婚式と葬式用の礼服しか持っていない。さすがにスカイスフィア2の中には礼服など積み込んでいないし、ここでもしも礼服を着て現れたとしたら、それこそ変な意味で世界中の注目を集めてしまう。


「山田さん、官邸内でお話させていただきたいのですがよろしいですか?」と、高一首相。


「はい。

 ここにいるロボットの6体のうち2体を同行させたいのですがよろしいですか?」


「もちろんです。

 ところで、そのロボットですが、やはり兵士のようなものですか?」


「いちおう護衛用のロボットなんですが、事情がありその性能は秘密になっています」


 圭一はそもそもロボットの性能などドーラから聞いていない。嘘をいてはいないが、かなり誤魔化しているので心の中で苦笑していた。



 圭一は高一首相に案内されて首相官邸に入り、そのまま、会議室に通された。圭一の後ろには2体のロボットが付き従っている。残った4体のロボットは首相官邸の玄関前で待機している。


 会議室の中には木目の会議テーブルが中央に置かれ、男性が一人席についており、少し離れて書記らしき男女がテーブルの上にノートパソコンを開いて席についていた。政府側は高一首相とその男性ということになる。


 会議室の中にいた男性が立ち上がり「防衛大臣の山野次郎やまのじろう」ですと自己紹介した。もちろん圭一も自己紹介した。書記らしき男女も起立して同時に礼をしている。



「どうぞ、ご着席ください」と、高一首相。


 圭一は、会議テーブルを挟んで高一首相と山野防衛相の向かいに着席した。2体のロボットは圭一の後ろに並んでいる。一種異様な雰囲気はあるが、高一首相と山野防衛相は落ち着いていた。


「まずは東京上空の宇宙船スカイスフィア3、とはいったいどういった存在なのでしょうか?」と、高一首相。


「昨年、わたしのスカイスフィア研究所では、画期的な推進装置と発電装置を開発しました。装置の開発後、引き続きそれらを使って宇宙船を建造しています。その推進装置と発電装置の説明は今の段階では公表したくはない情報ですのでここでのご説明は割愛させていただきます」


「宇宙船を民間で?」と、山野防衛相。


「空を飛ぶための推進装置があれば潜水艦を作るより簡単ですから」


「なるほど」


「われわれは、最初に建造した宇宙船をスカイスフィアと名づけ、太陽系内の惑星を巡っているうち、ある特殊な天体を発見しました。その天体を利用するため、スカイスフィア研究所では2号機、スカイスフィア2を建造しました」


「太陽系内の惑星を巡った?」と、再度山野防衛相。


 そこで、高一首相が「山野さん」と、一言。


「話の腰を折ってしまい、申し訳ございません」。山野防衛相はそう言って、圭一に軽く頭を下げた。


「着陸したわけではなく近くを通っただけですが、金星、火星、木星と回っています。もちろん月にもいっています。

 木星近傍において、特殊な用途に利用できる天体を発見したのですが、スカイスフィアではその天体を利用するには限界があったため、先ほどお話した通り、新たにスカイスフィア2を建造することにしました。

 ちなみにスカイスフィアは直径12メートルの球型宇宙船ですがスカイスフィア2はその2倍の直径24メートルの宇宙船です。


 先日スカイスフィア2が竣工し、われわれはスカイスフィア2を駆って再度木星近傍に存在するその天体まで赴き目的を果たしたわけですが、そこでいろいろあり、今現在東京の上空で滞空しているスカイスフィア3を手に入れました」


 目の前の二人は真剣な顔で圭一の話を頷きながら聞いているのだが、圭一自身は、自分が今口にしていることをまっさらな頭で聞かされたら、全く理解できない自信があった。


「スカイスフィア3を手に入れたわれわれは、地球を目指したわけですが、帰還途上、地球が宇宙船団に包囲され降伏勧告まで受けていることを知りました。

 宇宙船団に対する備えを万全にしたわれわれは、地球に向かって帰還を急いでいたのですが、宇宙船団がこちらに対して攻撃を仕掛けてきたため、逆にこちらが攻撃して撃破してしまいました」


「その件については、同盟国のアメリカからも情報を得ています。

 伝えられた情報によると、地球を包囲していた宇宙船団が移動を始め、その後突然観測できなくなったということでした。

 どういった方法で宇宙船団を撃破されたのですか?」と、山野防衛相。


「スカイスフィア3には、宇宙戦闘機ともいえる小型宇宙船を複数搭載しており、その宇宙戦闘機を使って、宇宙船団を撃破しました。

 その時点で、スカイスフィア3には余裕がほとんどなかったため、拿捕することはできず、やむなく全ての宇宙船を撃破しています。ちなみに現在のスカイスフィア3はその時と違い全力発揮可能となっています」


「ということは、宇宙船団を撃破した時と比べ格段に戦力が上がっているということですか?」


「そう言うことになります」


「わかりました。

 あの宇宙船団についてなにかご存じではありませんか?」


「これはわれわれの推測ですが、あの宇宙船団は宇宙海賊だったのではと考えています。宇宙海賊だった場合、再度地球に対して攻撃を仕掛けてくる可能性はあるものの、根拠地を探し出して潰してしまえば禍根を絶てると思います。

 宇宙海賊ではなくその他の宇宙文明だった場合は、宇宙戦争が始まる可能性がありますがその可能性は少ないと考えています。

 スカイスフィア3は強力な宇宙船ですが、いずれにせよスカイスフィア3だけでそういった脅威に対応することはできません」


「ということは?」


「そういった脅威を退けるためにも、あらゆる意味で地球の協力、地球の資源が必要となると思います」


「いまの言い方ですと、民間の一企業が宇宙の脅威に立ち向かう中心になると聞こえたのですが?」と、山野防衛相。


「そのつもりですが」


「言い方を変えましょう。スカイスフィア研究所は民間企業にもかかわらず軍事力を有しているわけですが、その辺はどうお考えですか?」


「火薬類などわれわれは持っていません。結果的に航空法違反、電波法違反等起こしていますが、それについては有事においてわれわれが必要と考えた結果です。これに対して厳格に法を適用するというのならそれはそれで構いません」


「おっしゃることは、ごもっともですし、それについては法を適用することはないとお約束します」と、高一首相。


「ありがとうございます」



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