第37話 スカイスフィア2、3


 スカイスフィアの組み立て工場の建設も終わり、スカイスフィア2の建造が本格的に開始された。組み立て工場の脇では4機のドローンが同時に組み立てられている。


 研究所を拡張したX金属用倉庫兼加工場も完成しており、翔太はスカイスフィア2とドローン4機分の推進器と発電機に必要なX金属を切り出し、研磨して順次推進器と発電機に組み込んでいった。


 その二つの件が片付いた後、翔太は圭一の言うレールガンの砲弾用にX金属を切り出し始めた。砲弾用のX金属成形加工は、個数は多いが小型であるため作業自体は簡単である。



 一方、圭一はレールガンの砲身と砲塔を簡単に設計し、キオエスタトロンを組み込んだ製作もすぐに終えて、砲弾を発注している。砲塔は上下左右30度の範囲で砲身を動かすことができ、砲弾には後述する推進プレートを自動挿入し、引き続き砲身に装填し、最大毎分10発の速度で砲弾を発射できる。


 レールガン用砲弾の先端は直径153ミリの半球で、その後に同径で長さ85ミリの円柱型の胴体部が続いている。胴体部の先端に幅3センチ、厚さ5ミリのX金属と水素があらかじめ封入された特殊鋼製推進プレートを挿入する空間が作られている。推進プレートは表裏が分かるよう断面は台形をしており、砲弾に挿入すると完全に砲弾と一体化する。


 通常はキオエスタトロンの影響を確実に遮断するため推進プレートは水槽内に保管することにしている。砲弾の重量は20キロ。製造された砲弾は全部で20発である。


 砲身の後端に設置したキオエスタトロンの最大出力の場で砲弾を包むことで、初期推力6000トン、30万Gで砲弾は撃ちだされる。2メートルほどの砲身から撃ちだされた砲弾はその後も加速し続ける。最終的には、平均毎秒10万Gで100メートル加速された砲弾は真空中なら秒速1万4千メートルまで加速される。このとき、砲弾はTNT換算で、460キロの運動エネルギーを持つことになる。



「翔太、レールガンの試射はどうしようか?」


「いくら火薬を使っていないと言っても、TNT換算で、460キロともなると地上での試射はマズくないか? やるとなれば宇宙に出るしかないと思うぞ」


「とはいっても、わざわざレールガンの試射のためにスカイスフィア1を改修したくはないからな」


「本当の意味でレールガンが必要となることはまずないだろうから、スカイスフィア2で宇宙に出た後、どこか適当な目標に向かってぶっ放せばいいんじゃないか?」


「それもそうだな。木星の近くでもいいし、ゲートをくぐったチャラワンのガス巨星の近くでもターゲットはいくらでもあるだろうしな」


「それこそ、X金属の隕石が大きすぎて、小さくするため使うこともありそうだものな」


「翔太がそう言うと、いかにもそういったことが起こりそうだな」


「またかよ」


「はははは」




 年が明け、スカイスフィア2の建造も順調に進捗していった。


 すでに4機のドローンは完成し、金色のサーマルブランケットで覆われた上に樹脂塗装された3機のドローンが圭一の所有する山沿いの土地の上空を低く編隊を組んで飛行している。さらに、ドローンには操縦する明日香がモニター越しに隕石を視認しやすくするため、ライトが2カ所に取り付けられている。


「編隊飛行はなかなか面白いわ」


 明日香がドローンコントロール用のノートパソコンを操作しながらご満悦の表情だ。明日香のいるのは、研究所地下のサーバールームである。


 明日香の隣では真理亜がノートパソコンを操作しながら、制御用のプログラムの微調整をしている。


「ドローン同士が接近しすぎないようにした方が良いわよね?」


「そうね。隕石捕獲時あまり近づくと危険だものね」


「その辺り少しプログラムをいじってみるから、試してみて」


「了解。

 壊れちゃったけど、DORAドーラの名まえは良かったわよね」と、明日香。3機のドローンを操作しながらだ。


「今のドローンにも名まえを付ける?」


「圭一兄さんも翔太さんも、D1、D2とか言ってるけれど、このままになりそうね」


「それでもいいんじゃない」


「まあね。

 DORAドーラ2はたった1つの機体に付けたい名まえだものね。

 もう少し操縦に慣れたら、捕獲ネットを張って練習するけど、今のドローンを気密仕様にしたら海に潜らせて魚も獲れるわよね」


「浮力なんて大したことないからそれも面白いんじゃない」


「マグロも獲れるかな?」


「マグロって水中を時速100キロ近くで泳ぐんじゃなかったっけ? 明日香の腕次第でしょう」


「頑張って獲った魚はきっとおいしいわよ」


「本気なのね?」


「もちろん」





 スカイスフィア2の初飛行は3月15日を予定しており、スカイスフィア1の時と同様、月までの往復を予定している。そこで問題がなければ、消費物資を積み込み、4月1日午前6時にゲートの先、チャラワン星系に飛び立つ予定である。


 ゲートのある木星まで片道6.6億キロ、中間地点まで72時間、到着まで144時間、丸6日の見込みである。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 スカイスフィア2の建造が着々と進んでいっていたころ、金田光の光発電も業績を順調に伸ばし、すでに資本金も当初の20億から200億まで増資していたが、絶対的なプラチニウム不足のため今後の成長は望めなくなっていた。

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