第38話 チャラワンへ


 スカイスフィア2は予定通り3月中旬竣工し、試運転として月までの往復を実施した。道中、ドローンの試験も行い、スカイスフィア2、4機のドローンのいずれも問題などは発見されなかった。月周回中、圭一が月に向かってレールガンを試射しようと提案したが、3人の反対にあって試射は断念している。


 2週間後。スカイスフィア2は、木星の衛星ガニメデの近傍に存在するゲートを介して、46光年先のチャラワン星系まで進出する。




 4月1日。


 新組み立て工場内のスカイスフィア2は消費物資を積み込み、最終点検を終えて出発予定時刻を待っていた。開閉式の工場の屋根は既に開放されている。船内のサーバーには、映画やアニメだけでなく、小説やコミック、学術書から果ては科学雑誌まで取り込んでおり、図書館並の品ぞろえとなっている。小説の中にはSFも多数含まれていた。もちろんE・E・スミス、ハインラインのSFも多数含まれている。



 スカイスフィア2は直径24メートルの船体を、天頂から3メートルまでを3基の主推進器の他、発電機などが設置された機関デッキとしており、機関デッキの中央部分には天頂望遠鏡や各種センサー、計測器が収められた自動観測室が設けられている。


 機関デッキから天底に向け3メートル間隔で、第1から第5デッキを設け、第5デッキの下が船底となっている。


 操縦室は第1デッキ中央に設けられ、一段下がった第2デッキは居住スペースに割り当てられ、スカイスフィア2の赤道に跨る第3、第4デッキに渡ってドローンの格納庫、隕石の保管倉庫が設けられている。


 スカイスフィア2は容積的にスカイスフィア1の8倍あるためスペースにはかなり余裕があり、クロレラ培養槽やトマト、レタスなどの水耕栽培モジュール、淡水魚用水槽など実験的な器材も積み込んでいる。いずれの器材も無重力化で液体が飛散しないように工夫されているが、実験段階であるため、各々の機材は密閉された個室の中に設置されている。


 第3、第4デッキで余ったスペースは今のところトレーニングルームと各種予備機材の倉庫、先ほどの水耕栽培モジュール用の個室になっている。第5デッキと船倉は飲料水、用水、液体窒素などのタンクと二酸化炭素除去装置や水の浄化装置などが設置されている。用水については燃料の水素抽出にも使用する可能性があるためかなりの量積載している。



 午前6時00分。スカイスフィア2操縦室。


 最終点検を終えた4名のクルー全員が操縦室のシートに座り、安全ベルトを締めている。その中で航海長の明日香がモニターを見ながらキーボードとトラックボールを操作している。


「センサー類正常。

 スカイスフィア、主電源装置起動。電圧正常。内部電源に切り替え。

 外部電力切断」


「スカイスフィア2計測重量3012トン。離昇推力3015トンをセット。

 主推進器起動。同期よし。

 推力上昇。

 推力2000トン、計測重量1012。

 推力3000トン、計測重量12トン。0。スカイスフィア離昇」


「スカイスフィア2、微速上昇」


 こうしてスカイスフィア2は圭一の屋敷の使用人たちに見送られ、朝日に銀色の船体を輝かせ空に、宇宙に向けて飛び立った。




 操縦を任された明日香以外、丸6日の飛行のあいだ、取り立てて仕事があるわけでもない、翔太と圭一は、今回、目玉として船内に作ったトレーニングルームで汗を流していた。トレーニングルームは縦12メートル、横7メートル、床から天井まで5.5メートル。かなり広い空間に、ランニング用のトレッドミル4台、ローイングエルゴメーター2台が主な器具で、ダンベルやバーベルなどの重量物や重さを利用した器具は置いていない。


 大学のクラブ時代同様、準備運動と柔軟体操を終えて、翔太と圭一がエルゴメーターの前に立った。エルゴメーターの負荷は、操作盤でプログラムできる。


「今日は6分間漕しようぜ」


「いきなり6分はきついぞ」


「それじゃあ、軽めでピッチ25で3分、負荷を落として30秒ノーワーク、少し重くしてピッチ25で3分ならどうだ?」


「それくらいなら何とかなりそうだが、終わったあと、脚がつってしまうんじゃないか?」


 二人は揃ってエルゴメーターの操作盤を操作して、負荷と時間をセットし、シートに腰を下ろしストレッチャーに足を入れた。その後脚を縮め、腕を伸ばしてエルゴメーターのハンドルを掴む。


 ピィッ、ピィッ、ピィッ、プー。


 二人そろって腕を伸ばしたまま、縮めていた脚を伸ばす。シートはレールの上を滑って、上半身を後ろに倒しながらその動きに合わせて両手で握ったハンドルを引く。


 ……。


「ラスト3本。1本、2本、3本、イージーオール!」


「ハァ、ハァ、ハァ、キツイ!」


「ハァ、ハァ、ハァ、二人で並べて漕ぐと、相当きついな」


「ここが、宇宙船の中だってことを忘れるよ」


「確かに」


「汗かいたー。トレーニングルームの湿度はもう少し下げた方が良いな」


「そうだな軽く整理体操をして、シャワーだな」


「ああ」


 二人は流れ落ちる汗をタオルで拭きながら、軽く体操をして、第2デッキにあるシャワールームに急いだ。



 スカイスフィア2が木星の衛星、ガニメデ近傍に存在するゲートに向けて旅立ち142時間が経過した。行程は予定通りで天底望遠鏡が現在ゲートを捉えたところである。


「ちゃんと存在するとは思っていたが、ゲートが見えるとホッとするな」


「まったくだ。

 しかし、ゲートっていったい何なんだろう?」


「宇宙人が宇宙旅行するために目ぼしいところに何年もかけて移動しながら作っていったんじゃないか?」


「たぶんそうなんだろうな。

 ということは、宇宙船自体では光速を越えられなかったってことだよな?」


「少なくともゲートを作っていた時はそうなんだろう」


「うん?」


「ゲートを作り上げたということは、何らかの形で光速を超える技術を持っていたわけだから、ゲートを作った数百年後には宇宙船にも応用されたかもしれないぞ。それで、陳腐化したゲートは廃れたとか」


「廃れたと言っても、超技術でいまだに生きてるわけか」


「ありがたいことにな」




「あと1時間ちょっとでゲートの軌道速度に同期するから無重力状態になるわよ」


「トイレはギリギリでいった方がいいから、俺は5分前にトイレにいこう」


「僕もそれでいこう。明日香さんその時は教えて」


「二人とも、もう」




「スカイスフィア2、これよりゲートに進入します。

 距離600、550、500、……、100、50、ゲート突入」


 4人は緊張してモニターを眺めていたが、ゲート突入と同時にそれまで大映しになっていたゲートの薄赤くところどころ光がチラつく面が消えて、モニターは真っ暗になった。


 5秒後、いきなりモニターがガス巨星を映し出した。ちょうどモニターの中央にチャラワンと思われる恒星が明るく輝いていた。


「とうとう、ここまできてしまった」


「どこがどうとは言えないが、雰囲気が太陽系とは全く違うな」


「やはり、ガス巨星が木星のように縞模様じゃないからじゃない? それにここから見える太陽チャラワンもかなり大きいし」


「たしかに」


「宇宙線の線量も、向うのゲート近く並にかなり低レベルよ」


「ラッキーという訳でなく、そういう位置にゲートが開いていたってことじゃないか?」


「おそらくそうなんだろうな」


「少しゲートから離れて、さっそく隕石を物色していこう」


「了解」


「わたしは観測室にいってるわね」。真理亜は器用に無重力状態の中を泳いで大型天体望遠鏡を備えた正規の観測室に移動していった。




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