第36話 スカイスフィア2、2
会議の翌日には、例の地元のエンジニアリング会社のエンジニアたちを研究所に招き、高速で出力を変化させるキオエスタトロンの開発を依頼した。
「装置の出力が入力の周波数にどこまで正確に応答するか今のところ分からないので、周波数は可変でお願いします。帯域は中波辺りまでで」
「了解しました。入力電圧を変えるだけですからそれほど難しくはありません。波の形はどうしましょうか? やはり正弦波で?」
「はい。正弦波でお願いします」
「了解しました。3日、いや2日もあれば製作可能です」
「じゃあそれでお願いします。
こちらの方で試験して、仕様を確定したら、確定した仕様でキオエスタトロンを4機発注しますからそのつもりでお願いします」
「了解しました」
そのあと細かい打ち合わせをして、エンジニアたちは引き上げていった。
「これで、X金属レーダーの半分はできたようなものだな。受信側は電波を拾うだけだからラジオと同じだ。製作は簡単だろう」
「翔太、問題はキオエスタトロンの場の有効距離じゃないか? 10メートルってことはないだろうが、障害物のない状態で最低でも100メートルは欲しいぞ」
「それについては後で確かめてみよう。その距離に応じたドローンを作らなくちゃいけなくなるからな。
それで、組み立て工場とかはどうなる?」
「フッフッフッフ。
「さすがは
「『こんなこともあろうかと』は一度は使って見たいセリフだからな。
冗談はそこまでにして、組み立て工場の方はすぐにでも取り掛かることができるから、今日中に発注する。その時、例の隕石の加工用兼保管用倉庫も発注してしまおう。倉庫の図面は『こんなこともあろうかと』とは言えないが、引いても1時間もかからないからな。
スカイスフィア2の設計は10日はかかりそうだが、一週間で仕上げてみせる」
「無理はするなよ」
「ここ一番では無理も必要だが、そこまで追い込むつもりはないから大丈夫だ。
人員や鋼材などの資材については早めに造船会社その他に連絡を入れておくから、建造に支障はでないだろう」
「じゃあ、さっそくだが、キオエスタトロンの有効距離を測定しようじゃないか」
「そうだな」
翔太と圭一は研究所から
遮蔽物のない直線距離として100メートルしか取れなかったため、そこまでの距離しか実測できなかったが、キオエスタトロンを大出力にすれば最低でも100メートルはキオエスタトロンの場が有効であることが分かった。その代わり、それまでの発電力の減衰とその100メートル地点での発電力から、有効距離は150メートルは超えないことが判明した。有効距離はもう少し欲しかったが、こればかりは仕方がないため、この結果を持ってX金属採集用ドローンのコントロールプログラムを組むことになる。
それから、1週間、スカイスフィア2と新ドローンの設計が終わった。その間、キオエスタトロンの改造版によりテストを行い、入力300kHzまでキオエスタトロンは応答できることが分かり、150kHz対応として
裏山では、スカイスフィア2用の組み立て工場の建設も始まっており、基礎工事が完成したところだ。この後、建屋自体は1週間で完成し、内部のクレーンなどの諸設備を含めあと3週間で組み立て工場は竣工する。
これに先立ち、圭一はスカイスフィア1の時と同様、作業員と鋼材の手当を造船会社に正式依頼している。時間に十分余裕があるので、造船会社から1カ月後の起工に問題はないと回答を受けている。
スカイスフィア2は起工すれば、1カ月で外殻、内殻の9割、内部構造の7割が組み上がり、残りの構造を含めそこから1カ月半で内部の艤装工事が完了する見込みだ。
スカイスフィア2とスカイスフィア1との違いは、
1、直径が12メートルから2倍の24メートルになり容積的には約8倍となっていること。
2、外殻と内殻の2重船殻構造としており、主要構造材は一部の開口部分を除き内外船殻の間隙内に地球儀の経線および緯線のように入れ込まれている。
3、ドローン4機を格納する格納庫を設け、格納庫のハッチは開閉する。
4、捕集したX金属を保管する倉庫を設けており、倉庫のハッチも開閉する。
5、主推進器は天頂部を囲み3基設置され、重量物を積載することによる重心のズレにも簡単に対応できる。
X金属捕集用ドローンの設計も完了している。
新たなドローンの外殻は2分割でスカイスフィア2の組み立て工場の脇に運び込まれ、下半分に対して内部の構造材を固定し器材を組み込んだ上で上半分を被せ、上下の外殻を赤道部分で溶接する形にしている。
新ドローンには
ドローンは3機でワイヤーロープ製の網を広げ隕石を捕獲しスカイスフィアの倉庫に運び入れる。網を張る3本のメインワイヤーロープをかけるフックには張力計が組み込み込まれ、過剰な張力がかかった場合、ドローンは張力を緩めるよう位置を修正する。
そのドローン3機はスカイスフィア2の操縦席から操縦することになるため、明日香はフライトシミュレーターを自作して操縦訓練を始めている。
「X金属に限らずガス巨星の周りの小天体の密度が高かった場合、スカイスフィア2に衝突する可能性が高くなるが、ドローンを使ってX金属を捕集中に、外殻を突破しそうな大型かつ高速の隕石がスカイスフィア2への衝突コースに乗ってきたらマズくないか?」
「捕集中、母船となるスカイスフィア2をあまり動かしたくはないしな。とはいえ、逃げ出さないわけにもいかないだろうし、それほど移動する必要はないと思うが」
「実は、隕石の衝突は建前だ。
スカイスフィア2も武装してみないか?」
「何と戦うんだ?」
「備えあれば憂いなしだろ?」
「それはそうだが、そもそも武器といっても大砲の
「それは分かっている。火薬で砲弾を発射するわけじゃなくて積み込むのはレールガンだ」
「レールガン?」
「そう。ステンレスの砲弾の中にX金属と水素を封入してキオエスタトロンを最大出力で作動させる」
「確かに。砲身から砲弾が撃ちだされた後も、キオエスタトロンの影響はしばらく続くし、その間は加速できるからかなりのスピードで砲弾が飛んでいくな」
「だろ。封入したX金属が壊れない範囲でならどこまでもキオエスタトロンの出力を上げられるしな」
「なるほど。そのレールガンに出番があるとは思えないが試しに作ってみるのも面白そうだ。X金属に余裕があるとかなりのことができるな」
[あとがき]
隕石は本来地球に落ちてきた天体のことを言うらしいのですが、本作では宇宙空間に漂う小天体も隕石と呼称することがあります。
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