第35話 スカイスフィア2


 1.8トンものプラチナ塊をDORAドーラから取り出すため、圭一は地球に帰還した翌日、造船会社に連絡して作業員を派遣してもらうことにした。その翌日の午前中に組み立て工場到着した作業員たちの手で、DORAドーラの外殻や折れ曲がった構造材が溶断され、ベルトをかけられた隕石がクレーンによって釣り上げられて無事摘出作業が終わった。最終的には内部の機器も取り外されDORAドーラは解体されトラックに積み込まれて搬出された。


 隕石自体は、トラックで研究所まで運ばれ、内ドアの先にとりあえず置かれた。隕石の保管と加工用に研究所の拡張工事を発注しているため、工事が終わり次第、隕石はそちらに運ばれることになる。


 DORAドーラがらみの作業も一段落したところで、研究所の会議室で4人で会議を執りおこなった。今回の会議の主催は真理亜である。



 残りの3人が真理亜を注目している。


「ゲートの先の星系について分かったことを伝えるわね。

 まず、位置は特定できたわ。これが1点。

 星系内にはDORAドーラが近くで撮影したガス巨星の他、ガス巨星がもう1つ見つかったわ」


「距離は太陽系から46光年先の星系。固有名がいちおうあってチャラワン。おおぐま座の47番星、明るさは5.03等級。絶対等級で4.3。

 それで、チャラワンにはもう1個惑星があるはずなんだけど、DORAドーラの映像データからでは見つからなかった」


「思った以上に距離があったんだ」


「しかし、DORAドーラはその距離を5秒でくぐり抜けたんだからな」


「ゲートは宇宙人による技術の産物なのか、宇宙的な何かの現象なのかはわからないけれど、本当に俺たちにとって願ってもない存在だよな」


「全くだ。

 ということなので、まずはスカイスフィアでゲートを抜けてチャラワン星系にいってみよう。もちろん目的はX金属を探すことだ。宇宙を漂う隕石の中から見つけるわけだから、何かX金属を探知できる装置の開発が必須だ。翔太、そのあたり何とかなりそうか?」


「キオエスタトロンの場の影響下にあれば、方向にもよるがX金属は電場を作る。キオエスタトロンの場を変動させれば、電磁波が発生するはずだからそれを拾えば探知できるはずだ。キオエスタトロンの出力を変動させて電磁波を発生させ、それを受信する装置を作ればいいと思う」


「それなら、難しくなさそうだな。宇宙空間といってもガス巨星の近くだから水素原子は十分存在するだろうしな。

 すぐにでも例のエンジニア会社に相談して作ってしまおう」


「そうだな」


「あとは、X金属の隕石を見つけてから、スカイスフィアでどう捕獲するかだな。

 DORAドーラの外殻は9ミリしかなかったが、反対側までは貫通しなかったところを見ると、外殻が40ミリのスカイスフィアなら十分耐えられると思う。どう思う?」


「そうかもしれないが、ある程度の余裕はないと怖いぞ」


「となると、外殻を厚くして2重化か。やはり新造しかないか」


「捕獲装置がどのようなものになるか分からないが、大掛かりなものになるようなら今のスカイスフィアの改装でも相当大掛かりになるからな」


「よし分かった。スカイスフィア2を作ろう。いくら急いでも組立用の建屋から作ることになるから、4、5カ月かかるかもしれないが、やってやろう」


「圭一兄さん、話を戻すことになるけれど、X金属が1.8トンもあるんだからそれで十分じゃないの?」


「俺たちだけのためにX金属を使うなら十分な量だな」


「ということは、X金属のことを公表するってこと?」


「隠し通せるものでもない気がするんだ」


「確かにそうね」


「そういうことだ。

 それで、捕集方法をどうするかだな」


「少なくとも隕石の速度に同調しないといけないわけだから、DORAドーラのようなドローンを作る必要があるな。スカイスフィア2だと捕集するには小回りが利かないだろうからな」


「スカイスフィア2は頑丈に作るとしても、ドローンでは頑丈さに限りがあるから、ドローンは複数あった方が良いんじゃないか?」


「そうだな。ドローンの設計が固まったら、スカイスフィア2の設計に反映しないといけないし。ドローンが複数機となると格納庫は扉を付ける必要があるだろうし、隕石用の倉庫も扉が必要だな。どちらも気密である必要はないから特に難しくはないだろう。その方向で設計するよ」


「スカイスフィア2はどの程度の大きさを考えているんだ?」


「スカイスフィア1の直径は12メートルだったわけだから、最低でも18メートルと以前考えていたが、船殻を2重にするなら24メートルかな」


「となると容積的には8倍だな」


「外殻は90ミリ、内殻を今のスカイスフィアの外殻と同じ40ミリの高張力鋼として、ざっと計算すると、……」


 そこで圭一が電卓を叩き、


「外殻、内殻合わせて2000トンだ。内部の構造材をスカイスフィア1同様船殻の3割と見積もると600トン。それに加えて各種機材、消費物資等の合計質量を400トンとすると3000トン。最大4Gの加速を見込むとなると1万2000トンの推力が必要となる。

 今のスカイスフィア1の主推進器を6個束ねればいいわけか。以前考えた時と同じになるな」


「今回はあの隕石があるからもう少し大きな推進器が作れるぞ。冗長性を考えれば数が多い方が良いのだろうが、主推進器は3器もあれば十分じゃないか? 少ない方がコントロールも簡単だろうし」


「何個でもそんなに差はないわよ。複数になれば個別に常時調整し続けることは必要になるはずだから。

 それよりも、推進器を束ねて1方向だけ推力を発揮させるじゃなくて、ある程度離して推進器を設置すればモーメントを発生させられるから、赤道に設置するスラスターを使わなくてもある程度の方向転換ならできるようになるし、隕石を取り込んで重心が多少ズレても修正は簡単になるわよ」


「なるほど。主推進器はその線でいこう。それに推進器を天頂部から離して設置すれば、観測窓を文字通り天頂に設置できるからな。

  真ん中に観測窓用の孔を空けた三角形の鋼板を天頂部に張り付け、鋼板の3つの頂点にそれぞれ推力4000トンの推進器を取り付ければいいな。

 内部の構造材についても、外殻と内殻の間に構造材を入れて強化すれば、計算はしてみるが船内に構造支柱などは不要になるだろう」


「スカイスフィア2は何とかなりそうだな。

 そうすると、隕石の捕集方法か。

 網ですくえるものかな?」


「どうだろう。網といってもワイヤーロープで作るわけだから強さという意味では問題ないと思うぞ」


「形は昆虫網? 棒の先に大型の網を付けるとなると棒にそれなりの強度が必要になるわよ。いっそのことドローン2機使って文字通り網を張ったらどう?」


「それもいい手だな。網を張るなら3機使って立体的な方が良いな。

 ということは予備機も考えれば、ドローンは4機は必要ということだな」


「容積との兼ね合いだが、多いに越したことはないだろう。幸い推進器も発電機もいくらでも作れるからな」


「それもそうだ。

 これだけ準備して空振りだけはしたくないが、翔太がいる限りだいじょうぶだろう」


「おいおい、俺のせいにするなよ」


「翔太のせいにはしないが、大漁の予感がするんだよな」


「わたしもそんな予感がする」


「おいおい」


 ……。




[あとがき]

ここまで毎日投稿しましたがとうとう種が尽きてしまいました。

次話はおそらく来週になると思います。

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