第27話 帰還


 現在スカイスフィアは木星から100万キロの円軌道上を回っている。もう数時間で地球へ向けての加速が始まる。


 真理亜は天体観測室に移動し、望遠鏡を覗き込んで謎の天体を撮影していたが、やがて望遠鏡の視界から外れたため、これまでの観察対象を観察し始めた。


「あの謎の天体が気になるな」と、圭一。


「そうだな」


「あの孔の中に入ってみない事には何もわからないが、もしどこかにつながっているとして帰って来られる保証がない以上、スカイスフィアで一か八かの冒険はできない」


DORAドーラを改造して、自律的にあの孔の中に突っ込ませたらどうだ」と、翔太。


「自律的というのは?」


「どこか別の世界にあの孔が繋がっているとしたら、電波でこちらから操縦することも、DORAドーラの信号をこっちが受けることもどっちも難しいんじゃないか?」


「確かにそうだな。DORAドーラが向こうにいけたとして、全天の宇宙を撮影して戻ってくるようプログラムしておけばいいか。あの孔が双方向のものなら帰ってこられるだろう。撮影した映像から、写っている星を特定していけば、どこに孔が繋がっているのか分かるんじゃないか?」


「どこか別の銀河とかじゃなければ、真理亜さんなら何とか突き止めるだろう」


「よその銀河は無論だが1万光年でも星の見え方は地球からのものとは全く異なるだろう。そういったとんでもなく遠方のどこかだった場合は位置を特定できなくても仕方がない。

 少なくとも、あの孔が双方向に開いていることが確認出来たらスカイスフィアで向こうにいってみようじゃないか。そんときは、俺と翔太の二人だな。明日香と真理亜さんは置いておこう」


「そうだな」


「あら、圭一兄さん、何言ってるのよ。わたしも行くわよ。真理亜も絶対一緒にいくと言うはずよ」


「ほんとにいいのか?」


「もちろん。今でさえ、人類初の偉業をいくつも達成しているけれど、偉業の数に制限はないわ」


「わかった。連れていくよ。その代り帰れなくなっても文句は言うなよ」


「そんなの当たり前でしょ」



「船内加速度、0.7、0.6、……、0。

 スカイスフィア回頭開始。

 回頭終了。

 主推進器起動。

 船内加速度、0.3、0.6、1.0G。

 各自シートベルトを外しても大丈夫よ」


 再度スカイスフィアは回頭し天頂部を地球に向けた。これ以降地球との中間地点までスカイスフィアは1Gで加速していく。



「まずDORAドーラの改造と一緒に、このスカイスフィアもDORAドーラを搭載するため改造する必要があるな」


「その通りだ。スカイスフィアの方はそれほど大掛かりじゃないだろうがDORAドーラについては、内部の温度調整も必要だろうし、そのためには気密と断熱も必要だろうから大掛かりになりそうだぞ」


「多少作業が大掛かりになろうと、目途の立つ作業はいずれ完了する。焦る必要はない。問題はあの謎の天体が一時の現象で、俺たちが再度訪れたらなくなっていないかということだ」


「そればかりは何とも言えないが、おそらく安定した現象なんじゃないか。一過性の現象をたまたま俺たちが見つけたという可能性は限りなく低い気がするんだがな」


「それを言うなら、X金属を見つけたことと、その特性を発見したこともかなりの偶然だぞ」


「そう言えばそうだったな」


「とはいえ、謎の天体がちゃんと存在し続けていて欲しいのは確かだけどな。

 DORAドーラであの孔が双方向のものだと確認できたら、スカイスフィア2を本気で作り始めよう。向こうにいった後、孔が閉じてしまえば帰れなくなるわけだからな」


「確かにその可能性はある。圭一、俺はどうってことないが、お前のような資産家が全てを捨てる覚悟でいってしまってもいいのか?」


「もちろんだ」



 木星の円軌道を周回したスカイスフィアは1Gで加速しつつさらに木星を4分の1周し、謎の天体を遠望しながら地球への帰還の途に就いた。距離にして8.2億キロ、中間地点まで80時間、全行程160.5時間の旅となる。



 地球を出発して17日目。日本時間16時。予定通りスカイスフィアは16日半の旅を終え地球に帰還し、組み立て工場内の架台の上に着陸した。


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