第26話 謎の天体
スカイスフィアは木星に接近しつつ減速している。これから17時間かけて木星の中心から半径100万キロの円軌道を接線速度秒速110キロで周回する。これは本来の衛星の接線速度より99キロ高いもので、この軌道を維持するためには木星中心に向けてスカイスフィアを1Gで加速する必要がある。当然スカイスフィアの天頂は木星中心に向けられるため、常に1Gの加速が床方向に働くことになる。この接線速度秒速110キロは木星の中心から半径100万キロの円軌道を取ったとき、1Gの加速を得るため決定された速度である。
「10分後に予定の円軌道に入るわ。そこで90度回頭して天頂を木星中心に向けるわよ。回頭時にはいつも通り無重力になるから。
真理亜、聞こえてる? それまでに操縦室に戻ってシートベルトを締めてよ」
『真理亜、了解』
5分後4人全員が操縦室に集合しシートベルトを締めた。
「船内加速度、0.7、0.4、……、0。
スカイスフィア回頭開始。
回頭終了」
この回頭によってスカイスフィアの天頂は木星中心を向いた。
「主推進器再起動。
船内加速度、0.3、0.7、……、1.0G。
スカイスフィアは木星中心から100万キロの円軌道に乗ったわ。
各自シートベルトを外しても大丈夫」
各自ガチャガチャとシートベルトを外した。
「明日香、わたしは観測室にいくね」
真理亜一番に操縦室から飛び出していった。
「真理亜は相変わらずね。これからスカイスフィアは木星の周りを一周するから17時間もあるのに」
「彼女にとっては17時間しかないからな」
翔太と圭一もリビングに移動していった。
……。
「あと10分ほどでガニメデに最接近ね。望遠鏡はセットしているし今も凄い勢いで写真撮影しているけれど、何が写っているのか今から楽しみ」と、真理亜。顔が笑っている。
「赤道望遠鏡で、モニターにガニメデを写しておきましょうか」
明日香はキーボードを操作して、操縦席前のモニターに、赤道望遠鏡が捉えた前方の木星を映し出した。
モニターの画像左半分にガニメデが映り、右半分に宇宙空間が映し出されている。
「あれ? あれはなんだ?」
ガニメデからその直径3分の1ほど離れた位置にかすんだような天体が映し出された。
「ガニメデの周りを回る衛星なんか存在しないはずだし、あれが木星の衛星だとしても木星からの距離の関係で、ガスをまとった天体は存在しないはずだけど、おかしいわね」と、真理亜がつぶやいた。
「明日香、前方の天体との距離はどうなっている」
「えーと、電波測距儀で確認してみる。
うん? あれ、無限大だわ。電波測距儀が壊れた? ガニメデとの距離を測ってみるわね。
596▯▯キロ。
後ろの2桁は流れているけど、ちゃんとそれらしい数字が出た。ということは測距儀は正常みたいよ。
もう一度、測ってみるわ。
やっぱり無限大だわ。
あの天体、電波を吸収してるとしか思えない」
さらにスカイスフィアはその天体に接近していった。モニターに大写しにされたその天体は角度のせいで楕円に見えるがドーナツ型の天体で、中央部がやや赤みを帯びた黒、周辺部はガスないし微粒子で構成されたガス雲のように見えた。望遠鏡に付属させた天体用電波測距儀をその天体の中央部からそらし、周辺部のガス状部分を狙って距離を測定したところ距離できた。
「空間に孔が空いているってこと?」
「そうとしか思えないな」
「真理亜の専門家としての意見は?」
「こういった現象ないし天体についての報告はなかった。と、断言できる。あれば大発見だもの。それだけ不思議な現象ともいえるわ」
「これこそまさに宇宙の神秘だな。距離から考えて孔の大きさは直径で2、3キロはあるぞ。
こいつは安定しているのか、一時の現象なのか気になるな」
「もし安定してたら、孔の向うにいけるんじゃないか?」
「俺の、SF知識からすると、孔の向うは別の太陽系、ないし、別の宇宙だと思うが」と、圭一。顔の表情は嬉しそうを通り越している。
「別の宇宙と繋がっているとなると、物理法則的に歪みができてしまうからこういった形での接点は存在しづらいんじゃないか?」と、こちらはいたって真面目な顔をした翔太。
「確かにな。別の宇宙には別の物理法則が存在するんだろうし、物理法則が同じでも物理定数はこの宇宙とは異なるだろうからな」
「船長、どうする? 近寄ってみる? 計画軌道から外れるけど、修正は簡単よ」
「いや。少々距離を詰めたところで、ここから観測できる以上のことが観測できるとは思えない。一度地球に戻って、準備を整えて再度ここにこよう」
その後スカイスフィアは謎の天体に接近し、赤道望遠鏡を引き継ぎ天底望遠鏡がその天体を捉えた。
スカイスフィアが謎の天体を通過して再度赤道望遠鏡による後方からの映像にはガス状構造だけが見られ孔構造は見られなかった。
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